碧き舞い花
186:蒼天に消える
「おらおら、どうした!」
「うっ……!」
「ほんとにお前があいつら、あそこまで追い詰めたのか?」
「くそっ!」
あの悪魔が、翻弄されている。
セラは地上からその様子を見て、呆然とするしかなかった。今まで自分たちが手こずっていたことが馬鹿らしくなる。
もちろん、悪魔がいままでの戦いやエァンダの中からの抵抗で弱ったということもあるだろうが、それでも、地上で二対一で戦っていた時に悪魔は平然と守りを固め、反撃の機会を逃さずに立ち回っていた。それが、今はない。
それほどまでに空中でのジュランは凄まじい。
背中の六つの羽は自由自在。瞬間移動は使ってないのにも関わらず、その急停止、急発進は瞬間移動を思わせる。見たことのないケン・セイの天馬はともかく、イソラの天馬がかわいいものに見えてしまう。
「……ぃ、ぃ、いけぇ!」
「頑張ってぇ!」
「ジュラーンっ!!」
それは彼女が望んだ声。彼女以上に回帰軍の皆が望んだ声。地上の三部族たちはこぞってジュランに声援を送り始め、ジュランも応えるようにその動きを高めていく。
「終わりだぁ! 真っ黒野郎っ!!」
「ぁっ!」
つい彼らの戦いに見入ってしまっていた彼女は、幕引きとなる一振りがジュランにより振るわれていることに、終わりの時が来る寸前まで気付かなかった。
間に合わず、エァンダの首が飛ぶ。そんな想像は彼女の中にはなかった。いくら速く力強いジュランの一振りと言えど、セラのナパードには及ばない。そもそも対比できるものではないのだから。
「ストップっ!」
碧き花と共にタェシェが主の身体を守った。
「おい!」
「勝手に止めろって言ったの、ジュランだよ……ぉ」
「おい、また落ちんのかよ」とジュランが重力に従い始めたセラを抱え止めた。
「……っ」
戦闘が止まったことに、悪魔は二人から距離を取った。背中ががら空きであるセラを狙う余裕すらなかったのだ。あれほどまでに欲していたはずなのに。
ジュランは剣を納めた。「今回はお前が止めるんだな」
「前とは意味が違う」セラは視線を悪魔に向ける。「敵だけど、敵じゃない」
悪魔も二人を見ているが、攻撃してこようとはしない。ジュランが剣を納めたのはそれを知ってのことだ。油断などではなく、戦いの終わりを見極めての行動。そして戦いが終わるということは、この場合悪魔が異空に放たれるということ。
悪魔の逃走。
肩で息をする黒きエァンダをセラは強く見つめる。セラはそこに真のエァンダの影を重ねる。救えなかった兄弟子。救わなくてはならない兄弟子。
彼女にまた一つ、やるべきことが増えた。
「必ず助けるからね、エァンダ」
重ねた影に語り掛けるように、しかし傍にいるジュランにすら聞こえないような小さな声でセラは決意を言葉にした。
「お前にできるか?」
「ぇ?」
「ん、どうしたセラ」
彼女の超感覚が捉えたのか、はたまたエァンダが悪魔の中かから何かしらしているのか、彼の声はセラだけに聞こえていた。セラはジュランに「ううん」首を振って、エァンダの声に心の耳を傾けた。
「ま、サパルもいるしなんとかなるだろけど。それに俺もどうにかしてみる。そうだ、こいつが異空のどこかで暴れないように、俺が抑えておく。できる限りだけどな。死神の異名が色んなとこに浸透したら困るからな。……タェシェはお前が持ってても、サパルに預けといてもいいぞ。必要になったら勝手に呼ぶから、そのときは俺の復活が近いと思ってくれていい。タェシェが消えたら、俺の気配、探ってみな。サパルにもそう伝えとけばいい。……ふぅ、最後に、ゼィロスによろしく頼む。まだ旅は終わりそうにないってな」
「いつか、必ず、お前を手に入れてやる……」
まるで悪魔もエァンダの言葉を聞いていたかのようにタイミングよく、セラに向かって言うと、黒き靄となって、蒼天に消えた。
と同時に地上からは揺れるような大歓声。その中を二人はゆっくりと降りてゆく。そして、地上が近づくにつれ、声は大きくなっていく。それは距離が近くなっているからではなく、人々があげる声量が増しているからだった。
「ジュラン、終わったね」
「は? 何言ってんだよ」
「え?」セラは訝しむ。
「これは始まりだろうが」
「……」ジュランの腕の中、セラは目を細めた。「うん、そうだね」
「うっ……!」
「ほんとにお前があいつら、あそこまで追い詰めたのか?」
「くそっ!」
あの悪魔が、翻弄されている。
セラは地上からその様子を見て、呆然とするしかなかった。今まで自分たちが手こずっていたことが馬鹿らしくなる。
もちろん、悪魔がいままでの戦いやエァンダの中からの抵抗で弱ったということもあるだろうが、それでも、地上で二対一で戦っていた時に悪魔は平然と守りを固め、反撃の機会を逃さずに立ち回っていた。それが、今はない。
それほどまでに空中でのジュランは凄まじい。
背中の六つの羽は自由自在。瞬間移動は使ってないのにも関わらず、その急停止、急発進は瞬間移動を思わせる。見たことのないケン・セイの天馬はともかく、イソラの天馬がかわいいものに見えてしまう。
「……ぃ、ぃ、いけぇ!」
「頑張ってぇ!」
「ジュラーンっ!!」
それは彼女が望んだ声。彼女以上に回帰軍の皆が望んだ声。地上の三部族たちはこぞってジュランに声援を送り始め、ジュランも応えるようにその動きを高めていく。
「終わりだぁ! 真っ黒野郎っ!!」
「ぁっ!」
つい彼らの戦いに見入ってしまっていた彼女は、幕引きとなる一振りがジュランにより振るわれていることに、終わりの時が来る寸前まで気付かなかった。
間に合わず、エァンダの首が飛ぶ。そんな想像は彼女の中にはなかった。いくら速く力強いジュランの一振りと言えど、セラのナパードには及ばない。そもそも対比できるものではないのだから。
「ストップっ!」
碧き花と共にタェシェが主の身体を守った。
「おい!」
「勝手に止めろって言ったの、ジュランだよ……ぉ」
「おい、また落ちんのかよ」とジュランが重力に従い始めたセラを抱え止めた。
「……っ」
戦闘が止まったことに、悪魔は二人から距離を取った。背中ががら空きであるセラを狙う余裕すらなかったのだ。あれほどまでに欲していたはずなのに。
ジュランは剣を納めた。「今回はお前が止めるんだな」
「前とは意味が違う」セラは視線を悪魔に向ける。「敵だけど、敵じゃない」
悪魔も二人を見ているが、攻撃してこようとはしない。ジュランが剣を納めたのはそれを知ってのことだ。油断などではなく、戦いの終わりを見極めての行動。そして戦いが終わるということは、この場合悪魔が異空に放たれるということ。
悪魔の逃走。
肩で息をする黒きエァンダをセラは強く見つめる。セラはそこに真のエァンダの影を重ねる。救えなかった兄弟子。救わなくてはならない兄弟子。
彼女にまた一つ、やるべきことが増えた。
「必ず助けるからね、エァンダ」
重ねた影に語り掛けるように、しかし傍にいるジュランにすら聞こえないような小さな声でセラは決意を言葉にした。
「お前にできるか?」
「ぇ?」
「ん、どうしたセラ」
彼女の超感覚が捉えたのか、はたまたエァンダが悪魔の中かから何かしらしているのか、彼の声はセラだけに聞こえていた。セラはジュランに「ううん」首を振って、エァンダの声に心の耳を傾けた。
「ま、サパルもいるしなんとかなるだろけど。それに俺もどうにかしてみる。そうだ、こいつが異空のどこかで暴れないように、俺が抑えておく。できる限りだけどな。死神の異名が色んなとこに浸透したら困るからな。……タェシェはお前が持ってても、サパルに預けといてもいいぞ。必要になったら勝手に呼ぶから、そのときは俺の復活が近いと思ってくれていい。タェシェが消えたら、俺の気配、探ってみな。サパルにもそう伝えとけばいい。……ふぅ、最後に、ゼィロスによろしく頼む。まだ旅は終わりそうにないってな」
「いつか、必ず、お前を手に入れてやる……」
まるで悪魔もエァンダの言葉を聞いていたかのようにタイミングよく、セラに向かって言うと、黒き靄となって、蒼天に消えた。
と同時に地上からは揺れるような大歓声。その中を二人はゆっくりと降りてゆく。そして、地上が近づくにつれ、声は大きくなっていく。それは距離が近くなっているからではなく、人々があげる声量が増しているからだった。
「ジュラン、終わったね」
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「え?」セラは訝しむ。
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