碧き舞い花
183:今できる最善を
「ふぅ~、止まった」
とんっと背を地面に着けるジュラン。
「どうせなら柔らかいベッドで寝たかった」
「エァンダ!」
ジュランの冗談など耳に入らないセラ。すぐさま逞しい腕から抜け出して、恐らく先に落ちていったであろう悪魔に囚われし渡界人を探した。そう、探したのだ。
彼女がジュランに抱きかかえられたその僅かにあと、彼の気配が消えたのだ。だから、探した。血の池の主になっていないことを祈りながら。
「おい、俺には何もなしかよ」
立ち上がったジュランは辺りを探す彼女の背に言った。
周りで見ていた三部族がその彼の姿を見て声を上げないわけがなく、セラはエァンダを探しながらその負の感情を耳にする。
「八羽のジュランだ! 本当に背中に六つ翼が!」
「嘘っ! わたし、死んだと聞いたわ!?」
「俺は逃げてるって!」
「あの子を助けたってことは、やっぱりあの子も八羽教よっ!」
「でも! デルク様はジュランは敵じゃないって、さっき……!」
「だから、信じんなって! 何かするために来たに違いない」
「そうよ!」
「憲兵! 八羽だ! 殺せぇ!」
「殺せ、殺せ!」
暴言の嵐に包まれていくジュラン。「酷い言われようだな。やっぱ、出てくるんじゃなかったか?」
そんな彼に副隊長の声が届く。
「ジュラン……!」
プライは父に支えられながら、怒号の中、友に声を届ける。
「セラが一人で戻って来たときは、もう、お前は来ないものだと思った……。まだ、生きてるんだな?」
「あ? 戻る気なんてなかったよ。山が吹き飛ぶまでな」
「山?」
「気持ちよく寝てたってのによ」
「? どんな状況でも寝れるのがお前だろ、ジュラン」
「うっせ、怪我人は黙ってろ、プライ」
「とっとと終わらせて、俺はまた寝る。で、敵はどいつだ?」
負の感情に満ちた声の中、セラは未だにエァンダを探している。そこにサパルの気配が近づくのを感じた。待ちきれず彼のもとへ跳ぶ。彼は人ごみの中だ。
「セラ!」
「サパルさんっ! エァンダは!」
「大丈夫、落ちてくるのを見て、そのまま扉の中に閉じ込めた。封印は成功だ。終わったんだよ」
「ぇ?」
突然現れた彼女に目を点にして驚く近くの人々を余所に、彼女は呆気に取られた声を零した。
「終わった……」
急激に安堵が押し寄せ、彼女の脚から力をさらって行く。ふわっとその場にへたり込むセラ。
「おおっ、大丈夫? よく頑張ったよ、セラは。さすがはあいつの妹弟子だ」
「ぅん……」
安堵からか、褒められたからか、彼女の顔には笑みが姿を見せた。ひとまずはこれでいいのだ。本当ならばこの場でエァンダを救いたかった。だが、今はこれが最善。悪魔を異空に放つことなく、兄弟子の命も失わずに済んだ。自分も彼を救う方法を探そうと決心したセラだった。
「憲兵がやらねぇなら! 自分たちでやる!!」
彼女の安心とは裏腹に、彼女の戦いの終わりと相成すようにジュランの戦いが始まろうとしている声が、音が先ほどまでいた場所から聴こえた。
「……戻らないと。ジュランは悪くないって、みんなに伝えなきゃ」
セラは立ち上がり引き返そうと踵を返した。だが、腕をサパルが掴む。
「やめた方がいい」
「え?」
「言ったでしょ。相当なことがなければ、大衆の考えは変わらない」
「今だって相当なことでしょ? 離して、サパルさん」
「駄目だ。まだ足りないよ。声を聴けばわかるだろ? それに今は君も八羽教の関係者として責められかねない。出ていくべきじゃない」
「……」
セラは黙り込む。
今の彼女の渡界術をもってすれば手を掴む程度では制止にならないと、サパルは知っていただろう。それでも彼女は自身の相棒よりも聞き分けの良い渡界人だと考えていたに違いない。彼女は自身の言葉を聞き入れると。
セラは、一人跳んだのだった。
とんっと背を地面に着けるジュラン。
「どうせなら柔らかいベッドで寝たかった」
「エァンダ!」
ジュランの冗談など耳に入らないセラ。すぐさま逞しい腕から抜け出して、恐らく先に落ちていったであろう悪魔に囚われし渡界人を探した。そう、探したのだ。
彼女がジュランに抱きかかえられたその僅かにあと、彼の気配が消えたのだ。だから、探した。血の池の主になっていないことを祈りながら。
「おい、俺には何もなしかよ」
立ち上がったジュランは辺りを探す彼女の背に言った。
周りで見ていた三部族がその彼の姿を見て声を上げないわけがなく、セラはエァンダを探しながらその負の感情を耳にする。
「八羽のジュランだ! 本当に背中に六つ翼が!」
「嘘っ! わたし、死んだと聞いたわ!?」
「俺は逃げてるって!」
「あの子を助けたってことは、やっぱりあの子も八羽教よっ!」
「でも! デルク様はジュランは敵じゃないって、さっき……!」
「だから、信じんなって! 何かするために来たに違いない」
「そうよ!」
「憲兵! 八羽だ! 殺せぇ!」
「殺せ、殺せ!」
暴言の嵐に包まれていくジュラン。「酷い言われようだな。やっぱ、出てくるんじゃなかったか?」
そんな彼に副隊長の声が届く。
「ジュラン……!」
プライは父に支えられながら、怒号の中、友に声を届ける。
「セラが一人で戻って来たときは、もう、お前は来ないものだと思った……。まだ、生きてるんだな?」
「あ? 戻る気なんてなかったよ。山が吹き飛ぶまでな」
「山?」
「気持ちよく寝てたってのによ」
「? どんな状況でも寝れるのがお前だろ、ジュラン」
「うっせ、怪我人は黙ってろ、プライ」
「とっとと終わらせて、俺はまた寝る。で、敵はどいつだ?」
負の感情に満ちた声の中、セラは未だにエァンダを探している。そこにサパルの気配が近づくのを感じた。待ちきれず彼のもとへ跳ぶ。彼は人ごみの中だ。
「セラ!」
「サパルさんっ! エァンダは!」
「大丈夫、落ちてくるのを見て、そのまま扉の中に閉じ込めた。封印は成功だ。終わったんだよ」
「ぇ?」
突然現れた彼女に目を点にして驚く近くの人々を余所に、彼女は呆気に取られた声を零した。
「終わった……」
急激に安堵が押し寄せ、彼女の脚から力をさらって行く。ふわっとその場にへたり込むセラ。
「おおっ、大丈夫? よく頑張ったよ、セラは。さすがはあいつの妹弟子だ」
「ぅん……」
安堵からか、褒められたからか、彼女の顔には笑みが姿を見せた。ひとまずはこれでいいのだ。本当ならばこの場でエァンダを救いたかった。だが、今はこれが最善。悪魔を異空に放つことなく、兄弟子の命も失わずに済んだ。自分も彼を救う方法を探そうと決心したセラだった。
「憲兵がやらねぇなら! 自分たちでやる!!」
彼女の安心とは裏腹に、彼女の戦いの終わりと相成すようにジュランの戦いが始まろうとしている声が、音が先ほどまでいた場所から聴こえた。
「……戻らないと。ジュランは悪くないって、みんなに伝えなきゃ」
セラは立ち上がり引き返そうと踵を返した。だが、腕をサパルが掴む。
「やめた方がいい」
「え?」
「言ったでしょ。相当なことがなければ、大衆の考えは変わらない」
「今だって相当なことでしょ? 離して、サパルさん」
「駄目だ。まだ足りないよ。声を聴けばわかるだろ? それに今は君も八羽教の関係者として責められかねない。出ていくべきじゃない」
「……」
セラは黙り込む。
今の彼女の渡界術をもってすれば手を掴む程度では制止にならないと、サパルは知っていただろう。それでも彼女は自身の相棒よりも聞き分けの良い渡界人だと考えていたに違いない。彼女は自身の言葉を聞き入れると。
セラは、一人跳んだのだった。
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