碧き舞い花

御島いる

153:才の器

 セラが出した条件は受け入れられた。デラヴェスは渋面だったが。
 プライも破界者討伐に参加させること。それがセラの出した条件だった。彼女が戦力として認められるのなら彼も認められるべき戦力であると考えたのだ。
「僕としても強い人が増えるのは嬉しいことだ」
『白旗』の城。サパルとエァンダに与えられた部屋で、サパルは一つの鍵をくうで回した。
「倉庫、解錠」
 空中に現れた扉からオーウィンを始めとしたセラの荷物が取り出される。
「便利ですね」荷物を身につけながらセラ。「ポルトーさんも色んな鍵を使ってました」
「ポルトーか。あいつは好奇心の塊みたいな男だからな。色んなものをしまい込んでたよ、昔から」
「大会ではズィーと戦ったんですけど、物を出し入れするだけじゃなくて、色んな鍵があるんですよね?」
 ポルトーは盾として扉を使ったり、ズィーの力を弱めたりしていた。
「興味が? 渡界人は鍵に興味を持つのかな」
「そういえば、エァンダも鍵を持ってた。わたしでも使えるものなの?」
「誰だって使えるさ」サパルはセラに鍵を山なりに放った。「鍵はね」
「鍵は?」セラは受け取った鍵を眺めながら訊く。
「そう。もちろん特殊な鍵は僕らしか使えないけど、基本的な扉の鍵は誰でも使える。問題なのは、扉の方だ」
「扉」未だ鍵を眺めながら、セラは呟く。
「才能という言葉はあまり使いたくないけど、現に努力で少しは変わることもあるから。でもやっぱり、生まれながらに与えられた物という印象が強いかな、扉っていうのは」
「回せば使える?」
「やっぱり興味深々だね。さっきの僕みたいにやってみて」
「うん」
 セラは頷いて空中で鍵を回した。
 しかし、眼前に扉は現れなかった。「あれ?」
「残念。普通の倉庫の鍵で扉が出てこないんじゃ、さすがに厳しいかな」
 申し訳なさそうに言うサパル。セラは残念そうに彼に鍵を返す。
「ほんと、残念」
「ま、君には行商人が使うバッグがあるからいいじゃないか。荷物で困ることはない」
「戦いで使ってみたかったんだけどな」
 思った以上にセラは落ち込んでいた。今まであらゆる世界で様々な技術を、兄であるビズラスよりも手早く身につけてきた彼女だ。落ち込まない方がおかしい。ビズよりも才能があると色々な人に言われてきたわけだが、今回ばかりは兄でも無理だったのだろうと思うことで彼女は折り合いをつけたのだった。
 それにしても、だとしても、だ。
 その戦いぶりを見ることもなく、エァンダ・フィリィ・イクスィアという渡界人の溢れる才気を証明する事柄でもあった。
 彼はサパルに比べればあからさまに少ないが、鍵を束で持っていた。鍵の数だけ扉があるのだとすれば、一つもない彼女との差は明らか。それだけが力のものさしではないと分かっていても、彼女は嫉妬に似た感情を覚える。
 ナパスの戦士史上最強となりえた男。ナパスの英雄『輝ける影』よりも才がある。
『異空の賢者』にそう言わしめた。
 彼女はその事実を腑に落とし、自らを奮起させて小さく呟いた。「止まってなんていられない」
「ん?」彼女の声が聞こえていたようでサパルが首を傾げた。「なんだい?」
「え? ううん、なんでもない。ちょっと、エァンダのこと……あ」
 セラはここであることに気付いた。どうしたんだい、と問うサパルに応えるように口を開く。
「エレ・ナパス」
 セラがその言葉を口にすると、サパルが身じろいで鍵束が音を立てた。彼もエァンダから訊いて、ナパスの民のふるさとの顛末を知っているのだろう。
「……今はないんだけど、ナパスの民って王族とか関係なく一族みんなが近い感じだったんだ。けど、わたしエァンダと会ったことないなぁって。必ずしもみんなを知ってるってわけじゃないけどさ、あれだけ才能があったら有名になってると思うのに」
「俺がゼィロスと修行始めたのは、もうすぐ八歳になる時だったな」
 突然、エァンダが群青と共に現れた。
「755年の終わり頃だ。お前、そん時いくつだ?」
「二歳。だからか、知らないわけだね。それにしても七歳でゼィロス伯父さんと戦士になる修行を?」
「ま、俺は戦士とか興味なかったけど、異空を旅したかったからさ。適当に流してさっさと終われせて旅に出たんだけどな」
「その旅の途中で僕と会ったわけ。で、エァンダ、思い出話をするために来たんじゃないんだろ?」
「ああ。お目覚めだ」
 彼にしては真剣な低い声でエァンダは言った。

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