碧き舞い花

御島いる

150:勘と気読術

 彼女が牢に囚われることとなってすぐに、エァンダが彼女のもとを密かに訪ねてきた。
「回帰軍のみんなは?」
「順調。だけど少し時間が掛かるだろうから、無駄な時間を過ごさないための差し入れをしにな」
 これといった荷物を持っていない彼に対してセラは首を傾げる。「なに?」
「物質にこだわるのは人の悪い癖だ。俺の使ってる感知方法についてだよ」
「教えてくれるの?」
「教える? 手取り足取りって意味なら、それは俺には向いてないんだよ。こんな感じって説明してやるから、あとは自分で勝手に身に着けてくれ。ビズラスもそうした。……そういえば兄だとか言ってたよな? ゼィロスを伯父だとも。確かに血が繋がってるって言ってもいいくらい気配が似てる」
「家族なんだから当たり前でしょ。ほら、長話してる場合じゃない、早く、どんなのか教えて」
 黒い靄を纏う手枷から来る違和感がそうさせるのか、セラは少しばかり苛立っていた。エァンダを急かす。
「そうだな。でも言った通り、どんなのか教えるだけ。身につけるかどうかは勝手にしてくれ」
「だから、早く」
「……。俺が使ってるのは勘と気読きどく術。ま、たまには超感覚も使ってるけど、ほとんどその二つだ」
「勘?」
「そう。勘だ。直感とも言っていい」
「当てずっぽうってこと、じゃないよね?」
「当たり前だ。馬鹿にできない。えー、アタリをつけるんだよ。大体な。どの辺のどんな気配を探るのかとか、どこに探してる気配があるのかとか、今、あの辺にいるかも、みたいに。それから気読術を使う」
「……その気読術は超感覚とどう違うの?」
 勘については技能的なものではないのだろうと、セラは気読術について訊くことにした。
「超感覚ってのは感覚の延長だろ? ペク・キュラ・ウトラの賢者クラスならその場に自分がいるように遠くのことを感じられるんだろうけど、普通なら五感が鋭くなるだけ。その上で自分の経験とかと照らし合わせて先読みとか、えー……」
「人の強さとかも正確じゃないけど分かるよね」
「ああ、それもそうか。といっても、それは相手の体内の動きを感じ取って活力の大きさを判断してるだけだろ? だから正確じゃない。使ってる本人が対象に関してある程度知識を持ってなければ何も感じられないことだってある」
「ぁ」
 セラには思い当たる節があった。ジュコの機械人間だ。
 チャチたち小人に関しては活力を感じることができるが、オルガのような機械人間そのもののそれを感じることは出来なかった。
「思い当たることがあるのはいいことだ。で、気読だけど、これは、そうだなー……感覚の拡張だ。普通、感覚では感じられないものを読み取る。性別の差とかな」
 エスレのことだ。
「そっか。それで、どうやって習得するの?」
「さあ?」
「さあって」
「言ったろ、どんなのかってのいうのを教えるだけだって」
「どんなふうに身につけるかわかんないんじゃ、覚えようがないじゃん」
「ビズは出来て……ここまでだな、じゃ」
 エァンダは言うとセラの返事を待たずに姿を消した。
「もう……」
 眉を寄せるセラ。反面、仕方がないという思いもあった。彼女のいる牢に向かってくる人の気配があったからだ。
 エァンダが消えて間もなくして『白旗』の憲兵が二人、彼女のもとへと来て牢を開けた。
「出ろ。友人との再会だ」
 嘲笑に似た笑いを浮かべる憲兵。セラはキッと彼らを睨んだ。
「おお、こわいこわい」

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