碧き舞い花
114:勝敗は煙の中に
「科学?」
セラはヒュエリに尋ねるように呟いた。
「『動く要塞』……えっとジュコなどの世界では自然現象など学ぶことをそう言うみたいですよ。わたしも興味あります。マカは科学ではどう捉えるのか」
「自然現象を学ぶ……確かにおもしろそう」
薬草術の役に立つことがあるかもしれないと、セラは思うのだった。
「だが! 俺が使うのは炎のマカだけではないぞ」
チャチの話を理解していないにしても、一つの戦い方が通じないと分かると、ヤーデンは鎧のマカを纏った。そして、単純な肉弾戦に持ち込んでいく。
「重い拳、鋼のような肉体。単純に殴り合いで決着をつけようか、チャチ女史!」
「構いませんが、オルガは生身の人間には負けませんよ」
殴り合いだというのに、重々しい音がする。
確かにオルガストルノーンの肉体は機械仕掛けで、誰がどう見ても金属の腕だから不思議ではない。だがヤーデンに関しては鎧のマカを纏っていようとも正真正銘の人間の肌。異常な音だ。
二人の肉体がぶつかり合うたびに、重厚な鐘が鳴るようだった。
その激しい肉弾戦にヤーデンの炎が消えて温度が下がり始めた会場を、今度は観客たちの熱気が暖め始める。
「機械仕掛けの人形というのも、なかなかいい動きをする」
「当たり前です。関節の数は人間と同じですからね」
「そういえば、予選では爆発を起こしていたようだが?」
「ええ、他の参加者の方を巻き込まないように押さえながらでしたけど」
「ほお! では本気でやったらどうなると?」
「そうですね……試してみますか?」
最後の鐘の音が響き渡ると、二人は距離を取った。
「受けて立とう!」
機械人の手のひらが開拓士に向けられる。
抜けるような駆動音が新たに響き始め、凄まじい力がオルガの手のひらに集まるのがセラには分かった。
「高エネルギーの光の球が放たれます。着弾と共に爆発しますので、どうぞ止めてみてください」
言われたヤーデンは身構え、鎧のマカを解くと体の前にとても分厚い障壁のマカを張った。「来い!」
会場に静寂が訪れる。
今から二人が何かを始めるらしいと察したらしい。これから何が起こるのか、皆が期待の眼差しを向けている。
パフゥィン――。
静寂を破ったのは気の抜けるような高い音。
そして、すぐに会場は轟音と震動に包まれた。
客席からは悲鳴が上がる。
爆発の威力は想像以上で、障壁のマカで囲われた闘技場は爆発に包まれて中の様子がまったくわからない。次第に爆発による音と揺れは収まったが、依然、闘技場の中は煙で見えない。
『ど、どうなったんだぁ!? さっきのはチャチ選手が予選で見せていたものだが、その威力はケタ違いだぁ!!』
ニオザがどうにか実況しようとするが、この闘技場の様子ではセラでも状況を説明するのは不可能だった。
ただ、煙が引いていくのを待つ。
「障壁のマカがなかったら、どうなってたんだろうな……?」
ジュメニが口を開く。
「すごいエネルギーでしたね」とセラが続く。「守られてなったらコロシアムも危なかったかも」
「そうですね。これが科学の力ですか!」と目を輝かせるヒュエリ。
「俺ならマカで再現できるな」とうんうん頷くフェズルシィ。
そんな彼の発言を聞いて、セラは少しばかり不安になった。さすがにあれほどの爆発を防ぐ自信は彼女にはなかった。ナパードで逃げるのが精いっぱいだろう。ヤーデンのように真正面から受けることなどもってのほかだ。
「あれを本気でこの壁に向けて撃っていたら、壊れていたかもしれんな」
ブレグが開口部に張られた障壁をコツコツと叩いた。
「あの武器、ストックしたいなぁ」と零したのは鍵束を弄るポルトーだ。
まだ、煙は立ち込めている。
「まだ見えないですね、先生」
「そうだな。もし、ヤーデンが重傷だったらまずいことになる。俺が大会側に風を起こしていいか訊いてこよう」
ブレグはそう言って控え室を出て行った。
間もなくしてニオザの声。
『これより、ブレグ警邏隊隊長により、煙の除去が行われます。尚、試合は継続中です』
コロシアムが煙突と化し、上空に向かって煙が逃げていく。
ゆっくりと、ゆっくりと視界が開け、二人の舞台が明らかになっていく。
『お、おおっ!』ニオザにも見え始めたのか実況をしようと声を出し始める。『おおっと!! これはっ!!?』
姿を現した開拓士と機械人間。
ヤーデンは仁王立ち。
オルガストルノーンは静かな佇まい。
二人とも微動だにしない。
煙の中、ずっとその場に立っていたのだろうか。
『両選手、立っております。ヤーデン選手は耐え抜いたぁ!!』
さっきの爆発に引けを取らない、歓声。
それは攻撃を放ったチャチに対してよりも、その凄まじい攻撃に耐え抜いた生ける伝説に対してのものが多かった。
そんな中、その称賛の的であるヤーデンが、ゆらゆらと、まるでブレグの起こした風に揺られるかのように前後し始める。やがて揺れは大きくなり、後方に倒れ出す。
『これはっ!? 気を失っている!?』
倒れ始めた生きる伝説に、会場が大きくどよめきの声を上げた。
次いで、そのどよめきは安堵の溜め息に変わる。
ブレグがヤーデンを支えたのだ。「試合はチャチ選手の勝ちだ!」
『……』ニオザは一瞬考えてから声を張る。『勝者、チャチ・ニーニ!!! 生きる伝説を下し、ブレグ選手との準決勝へと駒を進めたぁ!!』
セラはヒュエリに尋ねるように呟いた。
「『動く要塞』……えっとジュコなどの世界では自然現象など学ぶことをそう言うみたいですよ。わたしも興味あります。マカは科学ではどう捉えるのか」
「自然現象を学ぶ……確かにおもしろそう」
薬草術の役に立つことがあるかもしれないと、セラは思うのだった。
「だが! 俺が使うのは炎のマカだけではないぞ」
チャチの話を理解していないにしても、一つの戦い方が通じないと分かると、ヤーデンは鎧のマカを纏った。そして、単純な肉弾戦に持ち込んでいく。
「重い拳、鋼のような肉体。単純に殴り合いで決着をつけようか、チャチ女史!」
「構いませんが、オルガは生身の人間には負けませんよ」
殴り合いだというのに、重々しい音がする。
確かにオルガストルノーンの肉体は機械仕掛けで、誰がどう見ても金属の腕だから不思議ではない。だがヤーデンに関しては鎧のマカを纏っていようとも正真正銘の人間の肌。異常な音だ。
二人の肉体がぶつかり合うたびに、重厚な鐘が鳴るようだった。
その激しい肉弾戦にヤーデンの炎が消えて温度が下がり始めた会場を、今度は観客たちの熱気が暖め始める。
「機械仕掛けの人形というのも、なかなかいい動きをする」
「当たり前です。関節の数は人間と同じですからね」
「そういえば、予選では爆発を起こしていたようだが?」
「ええ、他の参加者の方を巻き込まないように押さえながらでしたけど」
「ほお! では本気でやったらどうなると?」
「そうですね……試してみますか?」
最後の鐘の音が響き渡ると、二人は距離を取った。
「受けて立とう!」
機械人の手のひらが開拓士に向けられる。
抜けるような駆動音が新たに響き始め、凄まじい力がオルガの手のひらに集まるのがセラには分かった。
「高エネルギーの光の球が放たれます。着弾と共に爆発しますので、どうぞ止めてみてください」
言われたヤーデンは身構え、鎧のマカを解くと体の前にとても分厚い障壁のマカを張った。「来い!」
会場に静寂が訪れる。
今から二人が何かを始めるらしいと察したらしい。これから何が起こるのか、皆が期待の眼差しを向けている。
パフゥィン――。
静寂を破ったのは気の抜けるような高い音。
そして、すぐに会場は轟音と震動に包まれた。
客席からは悲鳴が上がる。
爆発の威力は想像以上で、障壁のマカで囲われた闘技場は爆発に包まれて中の様子がまったくわからない。次第に爆発による音と揺れは収まったが、依然、闘技場の中は煙で見えない。
『ど、どうなったんだぁ!? さっきのはチャチ選手が予選で見せていたものだが、その威力はケタ違いだぁ!!』
ニオザがどうにか実況しようとするが、この闘技場の様子ではセラでも状況を説明するのは不可能だった。
ただ、煙が引いていくのを待つ。
「障壁のマカがなかったら、どうなってたんだろうな……?」
ジュメニが口を開く。
「すごいエネルギーでしたね」とセラが続く。「守られてなったらコロシアムも危なかったかも」
「そうですね。これが科学の力ですか!」と目を輝かせるヒュエリ。
「俺ならマカで再現できるな」とうんうん頷くフェズルシィ。
そんな彼の発言を聞いて、セラは少しばかり不安になった。さすがにあれほどの爆発を防ぐ自信は彼女にはなかった。ナパードで逃げるのが精いっぱいだろう。ヤーデンのように真正面から受けることなどもってのほかだ。
「あれを本気でこの壁に向けて撃っていたら、壊れていたかもしれんな」
ブレグが開口部に張られた障壁をコツコツと叩いた。
「あの武器、ストックしたいなぁ」と零したのは鍵束を弄るポルトーだ。
まだ、煙は立ち込めている。
「まだ見えないですね、先生」
「そうだな。もし、ヤーデンが重傷だったらまずいことになる。俺が大会側に風を起こしていいか訊いてこよう」
ブレグはそう言って控え室を出て行った。
間もなくしてニオザの声。
『これより、ブレグ警邏隊隊長により、煙の除去が行われます。尚、試合は継続中です』
コロシアムが煙突と化し、上空に向かって煙が逃げていく。
ゆっくりと、ゆっくりと視界が開け、二人の舞台が明らかになっていく。
『お、おおっ!』ニオザにも見え始めたのか実況をしようと声を出し始める。『おおっと!! これはっ!!?』
姿を現した開拓士と機械人間。
ヤーデンは仁王立ち。
オルガストルノーンは静かな佇まい。
二人とも微動だにしない。
煙の中、ずっとその場に立っていたのだろうか。
『両選手、立っております。ヤーデン選手は耐え抜いたぁ!!』
さっきの爆発に引けを取らない、歓声。
それは攻撃を放ったチャチに対してよりも、その凄まじい攻撃に耐え抜いた生ける伝説に対してのものが多かった。
そんな中、その称賛の的であるヤーデンが、ゆらゆらと、まるでブレグの起こした風に揺られるかのように前後し始める。やがて揺れは大きくなり、後方に倒れ出す。
『これはっ!? 気を失っている!?』
倒れ始めた生きる伝説に、会場が大きくどよめきの声を上げた。
次いで、そのどよめきは安堵の溜め息に変わる。
ブレグがヤーデンを支えたのだ。「試合はチャチ選手の勝ちだ!」
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