碧き舞い花
97:求めること。極めること。
「こう言い張るんだ」とヤーデン。
するとそこへズィーとポルトーが肩を組んで部屋に戻って来た。
「おぅん? なんだなんだ?」
鍵使いは何やら起きている室内に対して眉をひそめた。
そんな彼を連れながらズィーはセラとユフォンのもとへ歩みを進める。「どうした?」
「うん」セラは彼に外在力について訊きたかったが、質問を飲み込む。「あの人、棄権するみたいなの」
「棄権? せっかくここまで来たのにか?」とズィーと離れて壁に寄りかかるように座るポルトー。
「別に違反してるわけじゃないでしょ? そもそも、初戦で当たる人の予選での戦い見てたのよ、わたし。順位はわたしの方が上だけど、いざ対戦ってことになると相性が悪いわ。状況を鑑みて棄権するのは妥当でしょ?」
「そうですね」とブレグの後ろからパレィジが口を開く。
「まあ、そうだな」とブレグが彼に頷く。そして、チャチの乗るオルガストルノーンに目を向ける。「そういうことでいいですか?」
ブレグの問いかけに機械男の額が開き、小さき娘が姿を現す。
「はい。相手の方がそれでいいのであれば。戦闘データが取れないのは残念ですが」
「わたしは、もう、決めたことだから」と静かにナギュラ。
「はぁ、そうか、もったないな」ヤーデンはまるで自分のことのように肩を落とす。が、すぐにナギュラに笑顔を向ける。「ま、そういうことなら仕方ないが、最終日には帝居でパーティがある。せめてそれくらい参加していきなさいな」
「……」
ナギュラは黙ってヤーデンを見返すと、控え室を出て行った。
ちょうど彼女が部屋を出るとコロシアムの人間が扉をノックして入って来た。第一試合の前に現れた若い男だ。
「ナギュラ選手、チャチ選手、入場を……あれ、また、いない、うそ、なんで連続で、やばい、まじか、やばい、まじかやばい、やばい」
またも慌てふためく彼に、これまたブレグが肩に手を置いて事情を説明する。
「了解しました。それでは、第四試合のロマーニ選手とヤーデン選手はご準備を、上に報告した後に再度入場の案内に来ます」
若い男は頭を深く下げてから部屋を出て行った。
会場は次の試合が始まらないことに徐々に盛り下がっていく。
ヤーデンは持ってきた大量の袋を部屋の端にまとめてから体を動かし始めた。逆に水色髪のロマーニは全く動く気配を見せず、気の抜けた顔で闘技場の方を見つめていた。
突然にできた時間にセラはズィーに尋ねる。勝利の祝福など二の次で、外在力についてだ。
「ズィー、あれって外在力でしょ?」
「あ、ああ。そうだけど、なんだよ、突然。勝ったことについては何もなしか?」
「負けた」
「はぁ? いや、俺負けてねーわっ!」
「わたしが歯が立たなかった『夜霧』の男。そいつも外在力使ってたの。ねぇ、どこで習ったの?」
「どこって、そりゃ……秘密だ」にやりと、したり顔のズィー。
「なんで!?」セラが大きく声を上げてズィーに詰め寄る。
「そうだよ、ズィプ。教えてあげるべきだ」
「いや、駄目だ。そういう約束で教わったからな。空気を纏う技術は門外不出なんだとさ」
「もう、ズィーに教えてんじゃん……」
セラは拗ねて見せて、彼の対応の変化を期待した。
「俺はいいんだ、英雄だからな。てかよ、セラにはマカがあるだろ?」
「そうだけど、限度があるもん」
セラは下腹部に手を添える。へその下、丹田の位置だ。ヒュエリの助けを借りて、激痛の中ユフォンの温もりを感じて手にした力はそこから湧いてくる。しかし、ホワッグマーラの人間ではないセラには使えるマカに限界がある。
見たところズィーが使った外在力はヌロゥのものと遜色ないようだった。
今、外在力をものにできるのなら、願ったり叶ったりだ。
『皆さん、ここで情報が入りました。えー、残念ながら次の第三試合、ナギュラ・ク・スラー選手の棄権により、チャチ・ニーニ選手の不戦勝となります。よって、続いては第一回戦第四試合を行います』
会場からは一瞬溜め息に似た音が聞こえてきた。
先程の若い係りの者が戻ってきて、控え室からヤーデンとロマーニが出て行く。
「お、次、始まるみたいだぞ」と、ズィーは開口部の外に目を向ける。これ以上、外在力について訊くのは無理そうだった。
「残念だったね、セラ」ユフォンが闘技場を示しながら優しく声を掛けてきた。
「うん」応えて、自分も闘技場に目を向ける。「マカの鍛錬をするよ」
求めるだけでは駄目なのだろう。今あるものを極めることも大切だ。ヒィズルに行ったことで剣術や闘技の技術は高まっただろう。少なくともこの場にいても恥のないものにはなっているはずだ。一人だけで跳ぶことは未だにできないが、ナパードの精密さもイソラとの修行で増した。ケン・セイの背を取れるまでに。
ではマカは?
ここがマカの地であることを差し引いても、一般の魔闘士に及ぶか及ばないかと言ったところだろうか。
セラがそんなことを考えているとニオザの実況が会場を煽り、盛況させるのだった。
『それでは気を取り直して第四試合! 選手の入場です! 予選第十三位、ロマーニ・ホルストロ! 予選第四位、ヤーデン・ガ・ドゥワ!』
するとそこへズィーとポルトーが肩を組んで部屋に戻って来た。
「おぅん? なんだなんだ?」
鍵使いは何やら起きている室内に対して眉をひそめた。
そんな彼を連れながらズィーはセラとユフォンのもとへ歩みを進める。「どうした?」
「うん」セラは彼に外在力について訊きたかったが、質問を飲み込む。「あの人、棄権するみたいなの」
「棄権? せっかくここまで来たのにか?」とズィーと離れて壁に寄りかかるように座るポルトー。
「別に違反してるわけじゃないでしょ? そもそも、初戦で当たる人の予選での戦い見てたのよ、わたし。順位はわたしの方が上だけど、いざ対戦ってことになると相性が悪いわ。状況を鑑みて棄権するのは妥当でしょ?」
「そうですね」とブレグの後ろからパレィジが口を開く。
「まあ、そうだな」とブレグが彼に頷く。そして、チャチの乗るオルガストルノーンに目を向ける。「そういうことでいいですか?」
ブレグの問いかけに機械男の額が開き、小さき娘が姿を現す。
「はい。相手の方がそれでいいのであれば。戦闘データが取れないのは残念ですが」
「わたしは、もう、決めたことだから」と静かにナギュラ。
「はぁ、そうか、もったないな」ヤーデンはまるで自分のことのように肩を落とす。が、すぐにナギュラに笑顔を向ける。「ま、そういうことなら仕方ないが、最終日には帝居でパーティがある。せめてそれくらい参加していきなさいな」
「……」
ナギュラは黙ってヤーデンを見返すと、控え室を出て行った。
ちょうど彼女が部屋を出るとコロシアムの人間が扉をノックして入って来た。第一試合の前に現れた若い男だ。
「ナギュラ選手、チャチ選手、入場を……あれ、また、いない、うそ、なんで連続で、やばい、まじか、やばい、まじかやばい、やばい」
またも慌てふためく彼に、これまたブレグが肩に手を置いて事情を説明する。
「了解しました。それでは、第四試合のロマーニ選手とヤーデン選手はご準備を、上に報告した後に再度入場の案内に来ます」
若い男は頭を深く下げてから部屋を出て行った。
会場は次の試合が始まらないことに徐々に盛り下がっていく。
ヤーデンは持ってきた大量の袋を部屋の端にまとめてから体を動かし始めた。逆に水色髪のロマーニは全く動く気配を見せず、気の抜けた顔で闘技場の方を見つめていた。
突然にできた時間にセラはズィーに尋ねる。勝利の祝福など二の次で、外在力についてだ。
「ズィー、あれって外在力でしょ?」
「あ、ああ。そうだけど、なんだよ、突然。勝ったことについては何もなしか?」
「負けた」
「はぁ? いや、俺負けてねーわっ!」
「わたしが歯が立たなかった『夜霧』の男。そいつも外在力使ってたの。ねぇ、どこで習ったの?」
「どこって、そりゃ……秘密だ」にやりと、したり顔のズィー。
「なんで!?」セラが大きく声を上げてズィーに詰め寄る。
「そうだよ、ズィプ。教えてあげるべきだ」
「いや、駄目だ。そういう約束で教わったからな。空気を纏う技術は門外不出なんだとさ」
「もう、ズィーに教えてんじゃん……」
セラは拗ねて見せて、彼の対応の変化を期待した。
「俺はいいんだ、英雄だからな。てかよ、セラにはマカがあるだろ?」
「そうだけど、限度があるもん」
セラは下腹部に手を添える。へその下、丹田の位置だ。ヒュエリの助けを借りて、激痛の中ユフォンの温もりを感じて手にした力はそこから湧いてくる。しかし、ホワッグマーラの人間ではないセラには使えるマカに限界がある。
見たところズィーが使った外在力はヌロゥのものと遜色ないようだった。
今、外在力をものにできるのなら、願ったり叶ったりだ。
『皆さん、ここで情報が入りました。えー、残念ながら次の第三試合、ナギュラ・ク・スラー選手の棄権により、チャチ・ニーニ選手の不戦勝となります。よって、続いては第一回戦第四試合を行います』
会場からは一瞬溜め息に似た音が聞こえてきた。
先程の若い係りの者が戻ってきて、控え室からヤーデンとロマーニが出て行く。
「お、次、始まるみたいだぞ」と、ズィーは開口部の外に目を向ける。これ以上、外在力について訊くのは無理そうだった。
「残念だったね、セラ」ユフォンが闘技場を示しながら優しく声を掛けてきた。
「うん」応えて、自分も闘技場に目を向ける。「マカの鍛錬をするよ」
求めるだけでは駄目なのだろう。今あるものを極めることも大切だ。ヒィズルに行ったことで剣術や闘技の技術は高まっただろう。少なくともこの場にいても恥のないものにはなっているはずだ。一人だけで跳ぶことは未だにできないが、ナパードの精密さもイソラとの修行で増した。ケン・セイの背を取れるまでに。
ではマカは?
ここがマカの地であることを差し引いても、一般の魔闘士に及ぶか及ばないかと言ったところだろうか。
セラがそんなことを考えているとニオザの実況が会場を煽り、盛況させるのだった。
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