碧き舞い花
88:開会式選手入場・下位八名
『第十六位! ファントム討伐数、百九十七体! ドード・ワンス!!』
「あ、俺っすか!」ボロ衣の少年が扉の方を見る。「通ればいいんすよね?」
「はい」ヒェエリが応える。
「よし、行ってきますっ!」
少年ははきはきとして、扉を潜っていった。
部屋の全員が壁に映されたコロシアムに目を向ける。
今さっき扉を抜けたドードが闘技場の中央に現れたところだ。会場は再び大きく盛り上がる。だが、今度は闘技場内の撮影機からの映像なのか揺れずに済んでいる。
『ドード選手はなんと今回の最年少出場者だ!! 大人たち相手にどこまでやってくれるのかぁ! 注目のところです!!』
ニオザの紹介が終わると、ドードはコロシアムで一か所だけ頭が飛び出た客席がある場所の前に用意された横長の台の上に、関係者によって誘導される。
頭一つ飛び出た客席には豪華な椅子が数脚並んでいて、そこにはいかにも高貴な者と言わんばかりの装飾豊かな服装と気品漂う佇まいの人々が掛けていた。だが、その中で一脚、真ん中の椅子が空席だった。
『参加者の皆様にはに貴賓席前に並んでいただきます。残念ながら、本日ドルンシャ帝は帝務のためにご不在です』
ドードが台の一番端に案内されるまでの間にニオザが少しトーンを落として説明した。
『では――』
『第十五位! ファントム討伐数、二百三十三体! フォーリス・マ・キノス!!』
「あれ? 俺かぁ~。女の子に負けるなんてなぁ、参ったな、こりゃ~」
黒赤紫の髪の女を口説こうと必死になっていた警邏隊の紋章を付けた男が、目の前の彼女を見て気まずそうに言った。当の女は全く関心を持っておらず、瞳一つ動かさない。
「ま、優勝すりゃ、問題ないっしょ。あくまで予選の結果だしな」
男は言って扉を抜けた。
『その実力はマグリアにも届くほど! ウィーズラル警邏隊のエリートがついに魔導・闘技トーナメントに参戦だぁ! ウィーズラル警邏隊の実力をどこまで示せるのかぁ!!』
会場に現れたフォーリスは観客、撮影機にいちいち視線を向けながら台に向かって行った。ドードとは反対側の端だ。
『第十四位! ファントム討伐数、二百四十五体! パレィジ・エサヤ!!』
「隊長、お先に失礼します」
気弱な顔つきの副隊長は上官にひとつ頭を下げてから扉に向かった。
「今年はだいぶ下だな、あいつ」とブレグが零す。
『我がマグリアを守る警邏隊副隊長様の登場だぁ! 予選で戦略的に討伐数を稼いだその頭脳! 本戦でも見せてくれぇ!!』
パレィジは丁寧に声援に応えながら、台に乗る。ドードの隣だ。
『第十三位! ファントム討伐数、二百四十七体! ロマーニ・ホルストロ!!』
ニオザの紹介に、気の抜けた表情の水色髪の男が動き出した。その足取りも、どこか気が抜けている。
『水を操りし魔闘士が初参戦で予選通過! まだ見ぬその実力はいかにっ!!』
気の抜けた足取りのままフォーリスの隣に納まるロマーニ。
その姿に観客の盛り上がりが落ち着きを見せる。
「あんなんで戦えんのか、あの人」とズィー。
「感じた魔素の量は予選落ちした参加者二人分は軽くあるよ、あの人」
セラはブレグとドードの話を聞くために部屋に感覚を研ぎ澄ませたときに感じたままを口にした。そして、ズィーに教えるような口調で続ける。
「それに、見た目とか表面的に感じたことだけで判断するのはよくないよ」
この言葉には彼女の実感がこもっていた。『夜霧』の部隊長二人の顔が浮かぶ。外在力使いも求血姫も格段と力を増す術を持っていた。
『第十二位! ファントム討伐数、二百六十三体! ポルトー・クェスタ!!』
「俺だ」ポルトーは言ってズィプとフェズを見る。「二人とも格上かよ~。やるなぁ~。じゃ、お先な」
ジャラジャラと首から下げた鍵の束を揺らしながら会場に移動したポルトー。その人懐っこい笑顔で客席に大きく手を振ってアピールする。
『首に下がるその鍵たちで、優勝への扉を開くことはできるのかぁっ!!』
彼がパレィジの隣に立つころには会場のボルテージは復活していた。
『第十一位! ファントム討伐数、二百八十一体! シューロ・ナプラ!!』
「はひぃっ!」
乳白色の髪の少年が裏返った返事をして、その黄色く縁取られた瞳をおろおろと泳がせながら扉に向かった。
『マグリア魔導学院の学生の本戦出場はジュメニ・マ・ダレ以来っ! 友達の推薦での出場と、その期待を背負い、どこまで勝ち進むのかぁ!!』
おっかなびっくり然として台に向かって行くシューロに「負けんなよぉー」「お前ならいけるって信じてたぞぉ」と歓声の中に友人のものと思われる声が向けられる。
だが、その声に彼の体はより強張った。
「だいぶ緊張してるね、あの子」
ジュメニが、自分以来の学生出場者と聞いて共感を覚えたのか、心配そうに呟いた。それに、ヒュエリも「そうだね」と同調する。
台に上がるときに少し躓きながらも、彼はロマーニの隣に立って、落ち着かずに辺りをキョロキョロとする。
『第十位! ファントム討伐数、三百九体! ィル・ペクタァ!!』
白衣を着た長身が動き出す。ナマズのような髭が尾を引くように部屋に最後まで残った後、扉を抜け出た。
『その地の良薬は皆さんもお世話になったことがあるでしょう! 『白衣の草原』からの挑戦者! 本戦ではどんな戦いを見せてくれるのか、私も楽しみだぁ!!』
「トゥウィント!」セラがニオザの言葉に反応する。「ベルツァ・ゴザ・クゥアルを知ってるかな?」
「誰だ?」
ズィーが首を傾げる。
「薬草術の賢者、かもしれない人。時間が出来たら訪ねようと思ってて」
「へ~、俺は興味ないけど、行くなら付き合うぞ」
「うん、ありがと」
「あー!」突然ヒュエリは声を上げた。「セラちゃん! その人は、その人は誰ですか! ユフォンくんが妬いてしまいますよぉ~!」
セラとズィーに詰め寄ってくる。そこで、ズィプの胸元にセラの首から下がる『記憶の羅針盤』と同じものを見つける。
「この人も渡界人……」ペンダントから視線を上げてズィーを見上げるヒュエリ。
ズィーは体を反らせて対応に困る。
「こら、ヒュエリ。ズィプくんまで困らせるなよ」助け舟を出したのはジュメニだ。「彼はセラちゃんの幼馴染で、噂の『紅蓮騎士』だよ」
「ほぇ~……」ヒュエリは納得がいったのか二人から離れる。「『紅蓮騎士』がセラちゃんの幼馴染ですか…………それはつまり、ユフォンくんにライバル出現ってことですか!?」
彼女はセラを覗き込む。
セラはそんなヒュエリに苦笑しつつ、ズィーについて軽く説明した。
その間にィルはポルトーの隣に辿り着いた。
『第九位! ファントム討伐数、三百二十八体! チャチ・ニーニ!!』
機械仕掛けの男が扉に目を向けた。そして、静かに歩き出す。
扉を抜けて会場に出ると、男の顔、額がパカリと観音開きに開いた。そして驚くことに、そこには小さな人間がいるのだ。それも女。機械男の頭の中にある椅子に座る彼女の髪は床を泳ぐほど長い。身体の倍以上はあると見える。
突然の出来事に一瞬どよめいたかのように見えた会場だったが、客席に向かってぺこりぺこりと頭を下げるその小さな女性に愛くるしい歓声が上がった。
『彼女こそチャチ・ニーニだぁ! そして、操りしはオルガストルノーン・Ω! 史上最小の参加者にして、史上初の人型の武器!! 予選では建物を破壊するなど、派手な戦いを見せてくれた彼女の期待は大だぁ!!』
機械仕掛けの男、オルガストルノーンの額が閉じ、彼女の乗るそれはシューロの隣に立った。
半分の参加者の名前が呼ばれた。
未だセラの名は呼ばれていない。一体自分は何位なのだろうと少しばかり、彼女の鼓動は早くなる。
『さぁっ! ここからは折り返し!! どんな対戦カードになるのかも見ものだぁ!!』
そして、上位八人の紹介が始める。
「あ、俺っすか!」ボロ衣の少年が扉の方を見る。「通ればいいんすよね?」
「はい」ヒェエリが応える。
「よし、行ってきますっ!」
少年ははきはきとして、扉を潜っていった。
部屋の全員が壁に映されたコロシアムに目を向ける。
今さっき扉を抜けたドードが闘技場の中央に現れたところだ。会場は再び大きく盛り上がる。だが、今度は闘技場内の撮影機からの映像なのか揺れずに済んでいる。
『ドード選手はなんと今回の最年少出場者だ!! 大人たち相手にどこまでやってくれるのかぁ! 注目のところです!!』
ニオザの紹介が終わると、ドードはコロシアムで一か所だけ頭が飛び出た客席がある場所の前に用意された横長の台の上に、関係者によって誘導される。
頭一つ飛び出た客席には豪華な椅子が数脚並んでいて、そこにはいかにも高貴な者と言わんばかりの装飾豊かな服装と気品漂う佇まいの人々が掛けていた。だが、その中で一脚、真ん中の椅子が空席だった。
『参加者の皆様にはに貴賓席前に並んでいただきます。残念ながら、本日ドルンシャ帝は帝務のためにご不在です』
ドードが台の一番端に案内されるまでの間にニオザが少しトーンを落として説明した。
『では――』
『第十五位! ファントム討伐数、二百三十三体! フォーリス・マ・キノス!!』
「あれ? 俺かぁ~。女の子に負けるなんてなぁ、参ったな、こりゃ~」
黒赤紫の髪の女を口説こうと必死になっていた警邏隊の紋章を付けた男が、目の前の彼女を見て気まずそうに言った。当の女は全く関心を持っておらず、瞳一つ動かさない。
「ま、優勝すりゃ、問題ないっしょ。あくまで予選の結果だしな」
男は言って扉を抜けた。
『その実力はマグリアにも届くほど! ウィーズラル警邏隊のエリートがついに魔導・闘技トーナメントに参戦だぁ! ウィーズラル警邏隊の実力をどこまで示せるのかぁ!!』
会場に現れたフォーリスは観客、撮影機にいちいち視線を向けながら台に向かって行った。ドードとは反対側の端だ。
『第十四位! ファントム討伐数、二百四十五体! パレィジ・エサヤ!!』
「隊長、お先に失礼します」
気弱な顔つきの副隊長は上官にひとつ頭を下げてから扉に向かった。
「今年はだいぶ下だな、あいつ」とブレグが零す。
『我がマグリアを守る警邏隊副隊長様の登場だぁ! 予選で戦略的に討伐数を稼いだその頭脳! 本戦でも見せてくれぇ!!』
パレィジは丁寧に声援に応えながら、台に乗る。ドードの隣だ。
『第十三位! ファントム討伐数、二百四十七体! ロマーニ・ホルストロ!!』
ニオザの紹介に、気の抜けた表情の水色髪の男が動き出した。その足取りも、どこか気が抜けている。
『水を操りし魔闘士が初参戦で予選通過! まだ見ぬその実力はいかにっ!!』
気の抜けた足取りのままフォーリスの隣に納まるロマーニ。
その姿に観客の盛り上がりが落ち着きを見せる。
「あんなんで戦えんのか、あの人」とズィー。
「感じた魔素の量は予選落ちした参加者二人分は軽くあるよ、あの人」
セラはブレグとドードの話を聞くために部屋に感覚を研ぎ澄ませたときに感じたままを口にした。そして、ズィーに教えるような口調で続ける。
「それに、見た目とか表面的に感じたことだけで判断するのはよくないよ」
この言葉には彼女の実感がこもっていた。『夜霧』の部隊長二人の顔が浮かぶ。外在力使いも求血姫も格段と力を増す術を持っていた。
『第十二位! ファントム討伐数、二百六十三体! ポルトー・クェスタ!!』
「俺だ」ポルトーは言ってズィプとフェズを見る。「二人とも格上かよ~。やるなぁ~。じゃ、お先な」
ジャラジャラと首から下げた鍵の束を揺らしながら会場に移動したポルトー。その人懐っこい笑顔で客席に大きく手を振ってアピールする。
『首に下がるその鍵たちで、優勝への扉を開くことはできるのかぁっ!!』
彼がパレィジの隣に立つころには会場のボルテージは復活していた。
『第十一位! ファントム討伐数、二百八十一体! シューロ・ナプラ!!』
「はひぃっ!」
乳白色の髪の少年が裏返った返事をして、その黄色く縁取られた瞳をおろおろと泳がせながら扉に向かった。
『マグリア魔導学院の学生の本戦出場はジュメニ・マ・ダレ以来っ! 友達の推薦での出場と、その期待を背負い、どこまで勝ち進むのかぁ!!』
おっかなびっくり然として台に向かって行くシューロに「負けんなよぉー」「お前ならいけるって信じてたぞぉ」と歓声の中に友人のものと思われる声が向けられる。
だが、その声に彼の体はより強張った。
「だいぶ緊張してるね、あの子」
ジュメニが、自分以来の学生出場者と聞いて共感を覚えたのか、心配そうに呟いた。それに、ヒュエリも「そうだね」と同調する。
台に上がるときに少し躓きながらも、彼はロマーニの隣に立って、落ち着かずに辺りをキョロキョロとする。
『第十位! ファントム討伐数、三百九体! ィル・ペクタァ!!』
白衣を着た長身が動き出す。ナマズのような髭が尾を引くように部屋に最後まで残った後、扉を抜け出た。
『その地の良薬は皆さんもお世話になったことがあるでしょう! 『白衣の草原』からの挑戦者! 本戦ではどんな戦いを見せてくれるのか、私も楽しみだぁ!!』
「トゥウィント!」セラがニオザの言葉に反応する。「ベルツァ・ゴザ・クゥアルを知ってるかな?」
「誰だ?」
ズィーが首を傾げる。
「薬草術の賢者、かもしれない人。時間が出来たら訪ねようと思ってて」
「へ~、俺は興味ないけど、行くなら付き合うぞ」
「うん、ありがと」
「あー!」突然ヒュエリは声を上げた。「セラちゃん! その人は、その人は誰ですか! ユフォンくんが妬いてしまいますよぉ~!」
セラとズィーに詰め寄ってくる。そこで、ズィプの胸元にセラの首から下がる『記憶の羅針盤』と同じものを見つける。
「この人も渡界人……」ペンダントから視線を上げてズィーを見上げるヒュエリ。
ズィーは体を反らせて対応に困る。
「こら、ヒュエリ。ズィプくんまで困らせるなよ」助け舟を出したのはジュメニだ。「彼はセラちゃんの幼馴染で、噂の『紅蓮騎士』だよ」
「ほぇ~……」ヒュエリは納得がいったのか二人から離れる。「『紅蓮騎士』がセラちゃんの幼馴染ですか…………それはつまり、ユフォンくんにライバル出現ってことですか!?」
彼女はセラを覗き込む。
セラはそんなヒュエリに苦笑しつつ、ズィーについて軽く説明した。
その間にィルはポルトーの隣に辿り着いた。
『第九位! ファントム討伐数、三百二十八体! チャチ・ニーニ!!』
機械仕掛けの男が扉に目を向けた。そして、静かに歩き出す。
扉を抜けて会場に出ると、男の顔、額がパカリと観音開きに開いた。そして驚くことに、そこには小さな人間がいるのだ。それも女。機械男の頭の中にある椅子に座る彼女の髪は床を泳ぐほど長い。身体の倍以上はあると見える。
突然の出来事に一瞬どよめいたかのように見えた会場だったが、客席に向かってぺこりぺこりと頭を下げるその小さな女性に愛くるしい歓声が上がった。
『彼女こそチャチ・ニーニだぁ! そして、操りしはオルガストルノーン・Ω! 史上最小の参加者にして、史上初の人型の武器!! 予選では建物を破壊するなど、派手な戦いを見せてくれた彼女の期待は大だぁ!!』
機械仕掛けの男、オルガストルノーンの額が閉じ、彼女の乗るそれはシューロの隣に立った。
半分の参加者の名前が呼ばれた。
未だセラの名は呼ばれていない。一体自分は何位なのだろうと少しばかり、彼女の鼓動は早くなる。
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