碧き舞い花
17:崩壊
「俺は引き続き『夜霧』を調べる。いまだ、グゥエンダヴィードの場所も定かではないからな」
「うん。わたしも旅をしながら調べるよ」
「なら、最近奴らが現れるようになったビュソノータスという世界を目指すといい。もちろん、遊歩を学んだらな」
「うん、あとマカもね」
アズの光り降り注ぐ森の中、ビズラスと名も知れぬナパスの青年の墓前。
セラは二人と亡くなった全てのナパスの民に祈りを捧げてアズを発った。
そんなセラが今いるのはヲーンだ。
幾何学的な形のビルという建物が乱立し、それらに巻き付き、貫き、うねリる大樹の群れ。崩れかけたビルからは鉄の棒がむき出しになり、赤茶けていた。
空には分厚い雲が広がり、今にも雫が垂れてきそうだった。クァイ・バルの白々しい森の祝いを打ち消さんばかりの、これからの彼女の旅を不安視させるような黒い雲。光が下まで届いているのが不思議なくらいだ。
天井はなく雨ざらしになり薄汚れ、雑草の生える砕けたビルの一室にセラは立っていた。砕けて先がなくなった床から下を覗くと、遥か下には地面はなく、暗い空を映した水面しか見えなかった。
「まずは『遊歩の達人』を探さないと」
セラは取りあえず、ビルとビルを繋ぐように貫いている大樹の枝を歩いていくことにした。
枝は枝というより幹と言えるほど太くしっかりしていて、洞はセラが入れるような大きさのものまであった。
「……んっ」
枝を渡り終え背丈程の段差をよじ登って隣のビルに入るセラ。リョスカ山で薬草採取をしていた彼女にとってはこれくらいの段差はなんてことはなかった。だが、彼女が三歩目を踏み込んだ途端、床が瓦解し重力の支配に下る。
セラは咄嗟に腕を伸ばしてビルに残った床の端を掴んだ。しかし、掴んだ床の端も崩れ、彼女と水面ともの距離が縮む。先に落ちていった瓦礫が激しく水しぶきを上げる。
彼女はしぶきと同じ高さまで落ちたところで碧い光を発した。
「危なかった」
斜めになり、面積の三分の一ほどが水に浸っている床に瞬間移動したのだ。ちょうど彼女が掴んだ床だった部分がきれいに着水した。
「さて……」彼女は上を見上げる。「結構落ちたなぁ」
彼女がさっきまでいた場所は遥か高く、床に穴が空いたせいで空まで見通せる状態になっていて、どうやら戻れそうになかった。
上を諦めた彼女は崩れてなくなっていた壁の向こうを見た。
ビルの中から続く水面。その水面からはちらほらと足場になりえそうな瓦礫の一角や顔を出した樹木の枝が見える。しかし、その一つ一つの間隔がぎりぎり助走をつけて跳べるかどうかといったところだった。
ミャクナス湖で泳いだ幼少期を持つ彼女は泳ぐことも考えたし、ナパードでどこか見えている場所に跳ぼうかとも考えた。
考えているうちについに雨が降ってきた。
仕方なく雨が当たらない場所に座り込み、止むのを待つことにする彼女。雨は次第に強くなり、水面を激しく叩き揺らす。クァイ・バルで耳にした雨音にも引けを取らない轟音で、他のものが立てる音を蹂躙する。
「――――」
「!」
轟音の中、セラは誰かが叫ぶのを感じた。音はまったくもって聴こえず、叫んでいるという事実だけを感じ取ったのだ。だから、彼女は辺りを見回した。世界は豪雨で白く霞む。その中で何かを見つけることなど不可能に近かった。当然、セラも誰かを視認することはできなかったし、ずっと続く誰かの叫び感じることしかできなかった。
「――――」
彼女は目を閉じ、周囲の轟音を排して誰かの叫びに集中する。
「――――!」
「――ろ!」
「逃げろ!」
その叫びを感じ聞き取った彼女はパッとサファイアを閃かせる。
「崩れるぞ!」
鮮明になった叫びと共に、ビルが小刻みに震えだした。その震えは次第に大きくなり、座っているセラにも手をつかせるものとなった。
すると、上の方から大きな音がして、巨大な瓦礫の塊がセラの目の前の水面に落ちて大きなしぶきを上げた。
「やばっ!」
巨大な瓦礫のあとに細かい瓦礫が続々と降り始め、元々崩壊しかけていたビルは大きな音を立ててその形を完全に失った。
セラは粉塵と水煙に姿を消した。
豪雨に崩落していくビルのシルエットを、二股になった大樹の枝から眺める一つの人影があった。
「間に合ったかな?」
心配そうに呟く人影の背後、薄暗いビルの一室が碧く照らされた。
「うん。わたしも旅をしながら調べるよ」
「なら、最近奴らが現れるようになったビュソノータスという世界を目指すといい。もちろん、遊歩を学んだらな」
「うん、あとマカもね」
アズの光り降り注ぐ森の中、ビズラスと名も知れぬナパスの青年の墓前。
セラは二人と亡くなった全てのナパスの民に祈りを捧げてアズを発った。
そんなセラが今いるのはヲーンだ。
幾何学的な形のビルという建物が乱立し、それらに巻き付き、貫き、うねリる大樹の群れ。崩れかけたビルからは鉄の棒がむき出しになり、赤茶けていた。
空には分厚い雲が広がり、今にも雫が垂れてきそうだった。クァイ・バルの白々しい森の祝いを打ち消さんばかりの、これからの彼女の旅を不安視させるような黒い雲。光が下まで届いているのが不思議なくらいだ。
天井はなく雨ざらしになり薄汚れ、雑草の生える砕けたビルの一室にセラは立っていた。砕けて先がなくなった床から下を覗くと、遥か下には地面はなく、暗い空を映した水面しか見えなかった。
「まずは『遊歩の達人』を探さないと」
セラは取りあえず、ビルとビルを繋ぐように貫いている大樹の枝を歩いていくことにした。
枝は枝というより幹と言えるほど太くしっかりしていて、洞はセラが入れるような大きさのものまであった。
「……んっ」
枝を渡り終え背丈程の段差をよじ登って隣のビルに入るセラ。リョスカ山で薬草採取をしていた彼女にとってはこれくらいの段差はなんてことはなかった。だが、彼女が三歩目を踏み込んだ途端、床が瓦解し重力の支配に下る。
セラは咄嗟に腕を伸ばしてビルに残った床の端を掴んだ。しかし、掴んだ床の端も崩れ、彼女と水面ともの距離が縮む。先に落ちていった瓦礫が激しく水しぶきを上げる。
彼女はしぶきと同じ高さまで落ちたところで碧い光を発した。
「危なかった」
斜めになり、面積の三分の一ほどが水に浸っている床に瞬間移動したのだ。ちょうど彼女が掴んだ床だった部分がきれいに着水した。
「さて……」彼女は上を見上げる。「結構落ちたなぁ」
彼女がさっきまでいた場所は遥か高く、床に穴が空いたせいで空まで見通せる状態になっていて、どうやら戻れそうになかった。
上を諦めた彼女は崩れてなくなっていた壁の向こうを見た。
ビルの中から続く水面。その水面からはちらほらと足場になりえそうな瓦礫の一角や顔を出した樹木の枝が見える。しかし、その一つ一つの間隔がぎりぎり助走をつけて跳べるかどうかといったところだった。
ミャクナス湖で泳いだ幼少期を持つ彼女は泳ぐことも考えたし、ナパードでどこか見えている場所に跳ぼうかとも考えた。
考えているうちについに雨が降ってきた。
仕方なく雨が当たらない場所に座り込み、止むのを待つことにする彼女。雨は次第に強くなり、水面を激しく叩き揺らす。クァイ・バルで耳にした雨音にも引けを取らない轟音で、他のものが立てる音を蹂躙する。
「――――」
「!」
轟音の中、セラは誰かが叫ぶのを感じた。音はまったくもって聴こえず、叫んでいるという事実だけを感じ取ったのだ。だから、彼女は辺りを見回した。世界は豪雨で白く霞む。その中で何かを見つけることなど不可能に近かった。当然、セラも誰かを視認することはできなかったし、ずっと続く誰かの叫び感じることしかできなかった。
「――――」
彼女は目を閉じ、周囲の轟音を排して誰かの叫びに集中する。
「――――!」
「――ろ!」
「逃げろ!」
その叫びを感じ聞き取った彼女はパッとサファイアを閃かせる。
「崩れるぞ!」
鮮明になった叫びと共に、ビルが小刻みに震えだした。その震えは次第に大きくなり、座っているセラにも手をつかせるものとなった。
すると、上の方から大きな音がして、巨大な瓦礫の塊がセラの目の前の水面に落ちて大きなしぶきを上げた。
「やばっ!」
巨大な瓦礫のあとに細かい瓦礫が続々と降り始め、元々崩壊しかけていたビルは大きな音を立ててその形を完全に失った。
セラは粉塵と水煙に姿を消した。
豪雨に崩落していくビルのシルエットを、二股になった大樹の枝から眺める一つの人影があった。
「間に合ったかな?」
心配そうに呟く人影の背後、薄暗いビルの一室が碧く照らされた。
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