碧き舞い花

御島いる

筆師の中書き 異世界概論

 セラが賢者巡りをする物語を語る前に、ここで異世界について説明しておこうと思う。しかし、異世界の観念というのはとても複雑だ。ずばり一言で言えるほど簡単ではないし、特異なものも存在する。だから、ここでは基本も基本、異世界という概念を知っている世界の住人なら誰しも知っていることを主に説明していく。本当に異世界について学びたいなら、『異空の賢者』であるゼィロスが記した『異世界・異空間理論』(原題:ナパトス・ナトラセタ)を読むことをお勧めしよう。理解できるかは保証できないけどね。
 では、始めていこう。


 世界は紐だと思ってほしい。
 それぞれの紐がそれぞれ一つの世界だ。
 そして、その紐は一本の棒に螺旋状に巻き付いている。棒というのは時の流れだ。ゼィロスの言葉を借りれば『時軸じじく』だ。
 時軸の先端と紐の先端は永久的に伸び続けていて、これが各世界で時という概念があり、時が流れている理由だ。
 つまり、時の流れという棒にたくさんの紐が螺旋状に巻き付いている。これが異世界だ。世界によってはその紐が纏まって綱となっている世界もあるが、これは基本ではないので今回は参考程度だ。


 時軸がある地点から一年分進んだ時、時軸に巻き付いている全ての世界でも一年の時が経つ。しかし、世界は時軸に巻き付いているので真っ直ぐ一年間を進むわけではない。
 仮に、一年で時軸を二周する世界と五周する世界があったとする。二つの世界で経った時間はもちろん一年だが、二周する世界に比べて五周する世界の方が人や生き物の歳の取り方は早く、物の経年劣化も早くなる。一年という時が二周する世界より五周する世界の方が濃密になるのだ。
 ずっと同じ世界にいる者にとってはまったく気にすることではないのだが、異空を旅する者はこういった時の濃度の違いは無視できない。濃度に大きな差がある世界間を移動して、行った先の世界で長いこと過ごした後に元の世界に戻ると、ずっとそこにいた人と経過した時間は一緒だが、年齢が違うという現象が起きるからだ。


 異世界、時の濃度ときて、次は異空間移動だ。
 異空間移動、異世界間移動は時軸に対してほぼ垂直方向にしかできない。ほぼ、というのは空間と時間の性質、関係上どちらか一方の移動はできないから、少しだけ時軸が伸びる進行方向側に傾いているということだ。どんなに一瞬の移動であっても時は経っているのだ。
 また、時の流れに対して逆行するような移動をすることは出来ない。これまでに時軸を遡って異空を渡った者は存在しないし、時間の流れに逆らう形(時軸の伸びと反対方向)で時軸に巻き付いた世界も確認されていない。
 時を遡ることだけは誰にも、どこにも許されないのだ。


 と、まあ、こんなものでいいだろうか。基本も基本。キホンの『キ』の字程度は説明できたはずだ。
 筆師である僕の全力を持ってして文字だけで説明したが、本当は図解の方が感覚的に掴めていいと思う。僕の説明で分からなかった人は『図解 異世界論』という本があるのでそれを読んでほしい。とても分かりやすい本だ。


 それでは、引き続き『碧き舞い花』を楽しんでほしい。


               『舞い花に誘われし筆師 ユフォン・ホイコントロ』

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