ある夏の怪談!
最後の闘い
「………受け入れた」
悟一は呟く。
そうして、ゆっくりと立ち上がる事ができたのだ。
その光景を一同、固唾を飲んで見守っている。
「もう分かったよ。この業丸をお前との闘いに使うこと自体が間違っていたんだ。お前を倒すという事は、俺自身に破滅を導く事と同然だ」
悟一は、安らかな顔になっていた。
まるで、地獄の底まで慈悲の心で照らしあげるような、そんな表情。
「さあ。俺自身のトラウマは別に、無理矢理消し去ろうとする事はできないし、する必要も無いからね」
そんな事を言いつつ、悟一は業丸を構える。
「思いをたちきる意思の強さの象徴として、今、俺はこの業丸を使うよ。お前に光あれ」
その時だった。
「ん?」
麗之助が、妙な表情を浮かべた。
「以外だな、悟一の回りの雰囲気、あれ、一見すると闇堕ちしているように感じる」
「意識のレベルが全く下がりきっているようですね。彼は少し、マズイ状況かもしれない」
「藤四郎………悟一は大丈夫だ」
「いや、どうして………トテモ大丈夫なように見えない」
「君は今、彼が負けるかもしれないと感じているね、だが俺は違う。悟一の負けそうな感じは、勝利の前段階にすぎない」
「前段階?」
「あ………………きたよ」
次の瞬間だった。
辺りは、未だかつて無いほどの、崇高な気配に変わっていた。
それは、麗之助達が得意とする慈悲眼のそれとは、まるで各が違った。もっと常識を逸した、ありえないくらいのミチビキであった。言わば衝撃、驚愕、度肝を抜くような表現不可能の波動。
それが、今いっぺんに彼と生き霊の間を駆け巡った。
かと思うと、今までの悟一の精神低下が嘘のようだったかのような生き生きとした様子で、ナント、生き霊に向かって全力疾走をしたのである。
その異常な光景、そうして、業丸を降った。
「えっ」
藤四郎が困惑の声をあげた。
彼は、業丸を自分自身に突き立てていたからである。
「ウソでしょう!」
驚嘆の声をはりあげる藤四郎に向かって、麗之助が静かな声で宥める。
「大丈夫、業丸が斬れるのは、煩悩だけさ」
と。
そうして、悟一は再び、業丸を降った。
今度は、生き霊に向かってだった。
光と影が交差したその一瞬、生き霊の表情は安らかになっていた。
「フフ……お前が俺を倒してくれるのを、そう、この瞬間を、何年も待っていたよ」
「それは俺も同じこと」
ニヤリと悟一が笑みを浮かべたとき、生き霊が言った。
「行けよ………………高みへ」
「お前もな、生き霊よ」
気付いた時には、生き霊は消滅していた。まさに寂滅為楽。
こうして、一行は四大心霊の全てを倒したのであった。悟一は業丸を納めて、麗之助と藤四郎の方へ向かった。
「…………お帰り、悟一」
麗之助が言う。
「……ああ、ただいま。今帰ったぜ…………俺達の……………高みに」
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