ある夏の怪談!

内野あきたけ

『一騎討ち』の怪

「藤四郎、その壁に掛けてある刀は本物か?」
 悟一が言う。


「ほう、ほう。先輩にはこれが見えるのですね」


「見えるのかって聞くところをみるってぇと霊的な物質らしいな」


「ええ、あれば人間の煩悩を切り裂く刀で、業丸ごうまると呼ばれています」


「無駄ですよ」
 ヤナギは冷たい声を発した。


「お前には煩悩がないから意味がないという訳か」


「ええ。その通りです」


 悟一はすかさず業丸を鞘から抜いた。


 本物の刀と違って霊感のある人物にしか使いこなせない、つまるところ物質は切ることが出来ないため安心して振り回せるという事だ。


 悟一が狙ったのはヤナギの足元であった。


 仮に奴が剣道の有段者だとしても足元には意識が向かないと考えたからだ。


 しかし、軽くそれを交わし、藤四郎の折れた木刀を拾い上げた。


「……ディセンション」


 呪文のようだった。


「マズイな。奴はそいつに対してディセンションという事象そのものを名前にしました。先輩には気を付けてもらわないと」


「なるほど、戦いは精神的に負のスパイラルの一途を辿る一方になると言う訳か」


 だが、悟一はためらわず斬りかかる。


 お互いの武器は霊的な物質のため、通常の現実世界のルールが通じないのだ。


 妖気と光が混じり合い火花が散った。数秒間、二人のつばぜり合いが繰り広げられる。


 再び、鋭い音を立てて火花が散る。
 業丸で悟一がヤナギに斬りかかる。


 攻撃は直撃し、奴の体の一部が光と化していくのが目に見えた。


 しかし、まともに食らった攻撃であるのにも関わらず奴には全く効いていないのだ。


「だからいったでしょう?私には煩悩なんて一つもないのですよ。あるのはただ呼吸をする感覚で世界を破局へと導くための行動を起こしているだけですから」


「中途半端な悟りを開いたな、ヤナギ」
 悟一が静かに声を発する。


 奴はほのかに笑みを浮かべた。


「だが、まだお前は完璧じゃない」


「私は、人を殺してみたいのではありません。全人類の存在を抹消して、世の中を白紙に戻したいのです」


「じゃあ俺は、普遍的な慈悲と対極の存在しない喜びで世の中をカオスへと進めたい、それが悟りさ」


 二人は、武器を構えた。


 一瞬であった。


 すれ違い様にお互いがお互いを切りつけたように見えた。


 倒れたのは、悟一だった。
「ううっ!」
 彼の体から邪悪な負のエネルギーが溢れだしていた。


「悟一!」
「先輩!」


「……いいえ。私の敗けです」
 だが何故か、奴は敗けを認めた。


「格闘技なら私の勝ちですが、今の戦いは概念のぶつかり合いです。私は彼に論破されました。私は完全な大いなる宇宙そのものの意識ではなく、ただ個人の自我で事実を信念としていただけだったみたいです。彼は、本当に悟りを開いている学生さんですね」


 そう言って、ヤナギは姿を消した。













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