ある夏の怪談!

内野あきたけ

決戦

 
 ヤナギと呼ばれる悪霊は妖艶な女の霊だった。


 髪は普通の心霊とは違った。バサバサとはなっておらず、日本人形のような綺麗な黒髪だ。


 赤色の和服を着ていたが重量感は全く無い。


 藤四郎がヤナギに向かって振り上げた木刀には呪文がびっしりと書かれていた。


 だが、突如として木刀はバキっという鈍い音をたてて真っ二つとなった。


「こういうことです。悟一さん」
 藤四郎が言った。


「……お前、どうして」
 悟一は目を見開いてヤナギを睨み付ける。


「そうだよ。悟一、こいつは、この悪霊はヤバい」
 麗之助はそれからこう続けた。


「こいつには、怨みや憎しみが存在しない。況して煩悩の欠片もない。在るのは俺たちと同じ、悟りの境地とこの世を支配するという意欲だけだ」


「……麗之助くん。煩悩は仏に敵わない。だから私は感情の一切を捨て、悟りの境地に至りながらも、世を支配する行動だけを取り残したのですよ」


 ヤナギという悪霊は美しかった。
 容姿だけではなく彼らと同じ悟りの境地に至っているという事実が妙に魅惑的だと思えたのだ。


 危険な安心感があるオーラを放っている。


 きっと、この世を支配するという感覚はヤナギにしてみれば怨みや煩悩などではなく、まるで呼吸をする感覚で実践しているのだろう。


「だが、それはこっちも同じ考えだ。お前に対する怨みや怒りは全く無いが、何のためらいもなくお前と戦える精神状態ってことを忘れるなよ」


 麗之助の目が輝く。


「怨みや煩悩の比率が他の悪霊より軍を抜いているって事を想像していたが、まさかその真逆だとはな」


 と、悟一。


「煩悩を愛しています。苦しみが全世界に広がることは悪いことでは無いのです」


「喜びが全世界に広がることも悪いことではありませんよ」


 そう言って藤四郎が腕を振り上げ呪文を唱えた。


「統合!意識世界!煩悩親歓喜!」





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