ある夏の怪談!

内野あきたけ

『病棟にて』の怪⑤

三階、とうとう病棟の最上階である。


柚華には、このほこりくさい臭いが いやだとは思わなかった。
この臭いの中に、悟一がいるかもしれない。
この階に悟一がいなければ 彼はここにはいないことになる。


二人はまた、悪霊たちに囲まれていた。
辺りには、ホラー映画なんかで見るよりも、ずっとおぞましい顔や手が這いつくばっている。
「周りに結界は?」
「いや、張っていない」
「どうするの?」
「俺はここで一体づつ迎え打つ、だからそんなに緊張するな」
「……うん」


次々と遅い来る悪霊を麗之助は全て打ち払った。


「お前達が信じている怨みとか、呪いとか、そんなのはうわべだけのクソッタレさ。どんなに強い呪いだろうと、たとえそれで死んだとしても、魂はくたばらねぇんだよ!」


麗之助はずっと戦い続けた。
柚華はずっと麗之助の後ろ側を守っていた。


いつしか、悪霊の数も落ち着き、二人の疲労は限界に達していた。


悪霊とは格闘技のように体で戦うのでは無く、高い精神状態で霊的な者との波長を相反するものにすることで、霊がそれに干渉され成仏をするのだ。


だが、それはある程度、弱い霊との戦い方であって、ここでは体力も必要になってくる。


もう外は漆黒の闇のようだ。


一通り、除霊を済ませた。
さすが麗之助である。


ふと横を見ると、古びたベッドがあった。
もうだいぶ使われていない。
どんな患者が使っていたのであろうか?




麗之助はそこに横になる。
「……ちょっと睡眠」
「ここで寝ちゃうの?」
「ああ、すまない」
「廃墟だよ」
「……知っている」
「そう?それじゃあ、私も」


そう言って、柚華は麗之助の隣に寝そべった。


天井は、不気味に汚れ、地面は砂まみれ、ベッドなんかホコリの溜まり場だったが、二人は嫌だとは思わなかった。






そして、次の日の朝だった。
「……起きて。ねえ起きてよ」


柚華に肩をさすられ麗之助は目を覚ます。


朝だというのに、悪霊はびっしりと居た。
「……どうしよう」


「……これは、無理かも知れねぇ」
麗之助が呟いた、その時だった。


一瞬だけ、光がほとばしった。
すると、悪霊たちは、面白いように、吹き飛んで行った。


「そんな!君はまさか!」
「……悟一くん!!」


「……待たせたな。お二人さん、ずいぶん俺を探し回ってくれたみたいじゃないか。本当にありがとよ」


「どうして、無事だった?」
と、麗之助が聞く。




「この廃墟には悪い霊ばかりじゃなかった。俺を真剣に手当てしてくれる、可愛い幽霊もいたからね」


「なるほど、世の中には、悪い霊ばかりじゃない。確かに優しい幽霊いるべきだよな。良かったな、悟一そんな良い霊に手当てをしてもらって」


「ああ」


「あれえ?もしかしてこの子?」
柚華が言った。


かわいらしい和服姿の少女だった。
この廃病院の座敷わらし的な存在だったのかもしれない。











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