ある夏の怪談!

内野あきたけ

 
 廃墟は夜の暗闇に包まれていた。
 1人の少女は後悔した。
 遊び半分でこんな場所にくるのでは無かった、と。
 だが、もう取り返しはつかない。


 目の前には、モゾモゾと動く黒い塊がいくつかあり、手には刃物が握りしめられていた。


 叫びたいが、声すら出ない。
 すると、その中の一つがこちらへ向かってきた。
 姿はほとんど人間だが、おおよそ生きているモノとは思えなかった。
 そいつがゆっくりと近づいてくる。


「……がく様。また殺してしまうのですか?」
 黒い塊が言葉を発する。
 愕と呼ばれた悪霊は振り返る。
「勘違いするな。殺すのではない。我々の勢力範囲を広げる為の道具になってもらうのだよ」
「さようでございますが」


「……俺たち悪霊が、人間を恐怖と奈落に叩きつけ、悪霊として頂点を目指す。このために必要なことはなんだと思う?」
「人間の、心を支配してしまうことです」
「そのとうりだ」
 そう言って愕は白い粉を取り出した。
「これは麻薬だ。麻薬というのは良くできているとは思わないか?コイツで人の心を支配し、まずはこの小娘から絞れるだけ負のエネルギーを搾り取るのだ!」


 少女は背中に冷水を浴びせられたような感覚に襲われた。そしてこれが悪い夢であることを願った。


 しかし、夢ではなかった。
 日常から離れ、一歩だけ心霊の世界に足を踏み入れてしまったことは果たして罪であるか。


がく様。」
 薄暗い空気の中で、悪霊が声を発する。
「……ん?」
「また興味半分でここにやって来る人間が、4人ほど」
「……構わん。呪い殺せ。警察かもしれない。麻薬で心を支配するのはそのあとでいい」
「それが出来ないのです」
「何故だ!」
「わかりません!私の呪いは非常に強いです。興味半分でこの廃墟にくる人間は全員、潰してきました。ですが今回来る人間共はどういう訳か、呪いが効かないのです」
「バカな。そんなはずは……」
 その時だ。
 扉が勢いよく開く音がした。
 街灯の光が写し出す彼らのシルエット。
 四人の男女。
 ……麗之助たちであった。


 麗之助れいのすけ志保しほ悟一ごいち汐里しおりの4人は愕の前に立ちはだかった。


「……おいおい。女の子1人をヤクに溺れさせようとはな。悪霊のくせしていい度胸してんじゃねぇか」


 麗之助の静かな声が廃墟に響き渡った。


「……麗之助か。お前のことは聞いている」
 愕はそう言うと黒い塊からナイフを受け取った。


「ちょうどいい。お前の心を支配し、負のオーラを搾り取ってやる」
 ナイフが降り下ろされたが、麗之助はその腕を捻り上げる。
「よく聞け、悪霊。どんなにお前の呪いが強かろうが、霊力があろうが俺たちの心を支配することはできねぇ」


「ほおう。できねぇだと?信念があるとか、そんなくだららねぇ話は要らねぇ」


「ああ、信念じゃねぇ。もっと絶対的なことだ」
「ほおう。では聞かせてもらおう」


「……いいか? 一回しか言わねぇからな。よく聞け。
 ……俺はお前に、ぜってー勝てねぇ!…………ん?なんか違う?言い間違えた。ごめん!もう一回言い直させてくれ」


 その間、女子からクスクスという笑い声が聞こえた。
「麗之助、今度はちゃんと格好つけてくれよ!」
 悟一が言った。


「……お前は俺に、ぜってー勝てねぇ!」


「……よかったな。ちゃんと言えて」
 愕が言った。


「麗之助くん。敵にディスられてるよ」
 と、志保。


「さあ、気をとり直して!」
 汐里が言った。


「……まあ、それはさておき、勝負しますか?」


「……いや、俺たち悪霊やめて普通の幽霊になろうかな?」


「えっ?何で!」


「肝心のヒーローがぐだぐだってなると、俺たち悪霊も張り合いが無いって言うか、正直悪霊やっててもつまんないんだよね。さすがに、キメ台詞くらい格好よくやっててもらわないと、こっちのメンツが……」


「なんだよ!ノリが悪いじゃねぇか!それに人間を支配するんじゃ無かったのか?」


「いや、その肝心の人間がこのレベルでしたってなると正直、支配する意味ないねって」


 そう言って、愕たちは帰って行った。




 ……数分後


「これ、どっちの勝ちなんだろうね?」
 麗之助が言った。
「まあ、女の子も無事で人間界も支配されずに済んだっって事で……俺たちの勝利じゃねぇ?」


 と言うことで、麗之助たちの勝ちでした。
 めでたしめでたし。













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