ある夏の怪談!

内野あきたけ

亜死というアヤカシ 前編

 
 命に対する冒涜とは、何か?
 麗之助はあの時知ったのである。


 まだあどけない十年前の夏の日の、暑さが残る夕暮れ時だ。


 麗之助が悪霊退治に生命を賭けるきっかけとなった戦いがあった。それは生きるための戦争『霊界戦争』と呼ばれた。


 そして麗之助が最初に会い、まみえた悪霊の名を「亜死」と呼ぶ。


 史上最強にして、麗之助の父親でもある。
 そして時は十年前、彼が7才の頃であった。


 東京都の北区。狐の町とも呼ばれている王子に彼はいた。


 母と二人暮らしだ。


「ねえ、麗之助」


「何?」


「もう、何度も聞いた話だと思うけど……」


「いいよ。何度でも。母さんの話は好きだ」


「そう?ありがとう。お父さんの事知りたい?」


「うん。知りたいけど、話が難しすぎて理解できない」


「でも好きなんでしょう?だったら教えてあげる」


 その時だ。


 入り口に背の高い男が立っているのを、麗之助は発見した。


 沈みかけた日差しが、そいつを照らしている。


 母親の顔は何故か安らいでいた。安心の意味ではない。


 まるで死の瞬間に全てを悟り、受け入れた顔だ。


「……麗之助。俺の顔に見覚えがあるな?」


 男が声を発した。


「はじめましてだね……お父さん」


「初対面で申し訳ないのだが、俺の頼みを聞いて欲しい」


 そう言って男はコップと氷を出した。


「この氷の中には一つだけ猛毒の入ったものがある。どの氷に毒があるかは俺も知らない。これから交互に口に含んでいき毒の入ったものを食べた奴が死ぬ」


「あなた!何も麗之助とやることはないじゃない!」


 母親が叫んだ。


「もう取り返しがつかないんだ!600年以上昔から俺は自分の宿命を捨てちまいたかったのだ!さあ!早くせねば氷が溶けて毒が溢れてしまうぞ」


 麗之助がいつも母親から聞かされていた話。


 それは、自分の父親は不老不死の化け物であるということだった。


 「いつ死ぬか分からない」それが人間であり生命であるということ。


 したがって、死ぬことのない化け物は死ぬことによって本当の生命を手に入れるということ。


 「いつ死ぬか分からない」そんな人間に憧れた化け物は、人間と殺しあう事により、殺しあいの時だけ人間と同じ生命を手に入れる。


 それが目的で人間を襲う、それがこの「亜死」というアヤカシであった。


 7才の彼には、理解できなかったが、しかし今この瞬間、彼は理解した。


「……命に対する冒涜じゃないか」


「わかっているな小僧!だが早速始めようじゃないか」


「……いいだろう。ぶっ潰してやるよ」


 そう言って彼は、コップを床に叩きつけた。


 ガラスは粉々に砕け、その音が鼓膜に響く。


「俺にはあんたと同じ、化け物の血が流れていたんだな!最悪な気分だ」


「何を言っている!確かに同じだが、お前は遺伝子的に人間じゃないか!よかったな。これから死ねるぞ」


「そういうことじゃない!」


「なんだ」


「俺は死にたいなんて思ってない、だが不老不死を手にいれたいとも思わない」


「何が言いたい!」


「何が言いたいかって?知らないよ。でも人間は死ぬために生きている訳じゃない」


「じゃあ他に何のために生きているんだ!」


「……世界中のどんな言葉を集めたとしても、きっと説明できない」


「どうせ説明できないんだろ?」


「言葉ではね。確かに、ちっぽけな人間がちっぽけな頭で考えた言葉っていう手段では、この生命ってものを表現できないんだろうね。でもそこには人間の理解を越えた何かがきっとあるんだよ。生きる理由いみがあるんだよ」


「くだらない!そんな綺麗事に付き合っている暇はない」


「俺がいつかお前と本気で殺しあいが出来る年齢になったら、その時に殺し会おう」


 すると奴が微笑んだ。


「よかろう。その方がずっと面白いかも知れない」
























 そして今、再び奴と出会う日が来たのである。



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