ユニコーンのはらわた
ユニコーンのはらわた
少女は部屋の中にいた。その日は夜で、時間は夜の七時くらいである。
母親は、仕事に出かけていて、家には少女一人しかいなかったので、彼女はこの時間帯を自由に過ごす事ができるのだ。
彼女には友達が少なかった。クラスでも特に目立たない色白で少し儚い女の子だった。
いつもは教室の片隅で、本を読んでいる。話しかけられたら、笑顔で受け答えをすることもできるし、学校生活において、特に不自由しているという訳では無いのだけれど、彼女は一人でいる事がとても好きみたいで、あまり友達を作らなかった。
なぜなら、この少女の友達といったら、彼女の部屋で、帰りを待ってくれている沢山のぬいぐるみ達であったからだ。
彼らに会うために、部活にも、委員会にも、生徒会にも所属はしていなかった。
彼女は家に帰って、すぐにユニコーンや、くまさんや、お人形さんの所に向かうのである。
それは彼女の友達であり、同時に、えげつない趣味でもあった。
さて、それはどのような趣味か。
ここで一つ、気を付けなくてはならない点がある。
それは、彼女はかなりの異常性癖をもっていて、これらのぬいぐるみに対して、あらん限りの強い愛情を注いでいるという点である。
そうしてこの日も、それは行われるのだ。
母親がいない間だけ、彼女の部屋は彼女だけの秘密の空間になる。
まっ白な壁に掛けられたピンク色の時計が、七時半を指し示す。
少女は「あら、もうこんな時間」と思って、本棚に目を向ける。
本棚には、もちろん沢山の本があったけれど、それよりも多くのお人形さんたちがザワザワとひしめいている。少女は、このお人形さんたちの視線がたまらなく好きだった。
お人形さんたちが、彼女に注ぐ愛の眼差しは、彼女を捉えて離さない。
彼女の全身の血管が、ギュッと縮まって、ゾッと鳥肌が立って、たくさんの、それはもうたくさんの、赤い目とか青い目とかに見つめられてしまうのが、たまらなく快感だったのだ。
彼女はその、大勢のお人形さんの、一体一体に途方もない愛情を注いでいる。
例えば、そこにくまさんがいる。
少女は、このくまさんと遊ぶとき必ずくまさんのお尻の所に、ホッチキスを打ち込むのである。
何回も、ガチャリと打ち込むのである。
「ねえ。痛い? 痛いの? やめて欲しいの?」
少女は、くまさんに、そんな言葉をかける。でも、決してその行為をやめようとはしない。少女は、少女自身の快楽の為であれば、手段を選ばないのだ。
少女はくまさんのお尻の所にホッチキスがだいたい七本から八本打ち込まれたところでやめる。
そうして彼女は一言、
「大好きよ」
といって、今度は丁寧に一本ずつ、取り外して行くのである。
ゆっくりと、しっかりと時間をかけて、わざと雑に取り外したり、あるいはブチっといきなりむしり取ったり、そのようにして、くまさんのお尻がズタズタになるまで繰り返すのである。
彼女は、この一本一本を取り外すときに、快楽を感じるのである。
「ねえ。どんな気持ち? 今、どんな事を考えているの? 苦しい? 痛い? じゃあ、いっぱい痛くなってね」
そう言いながら、くまさんの、表情もない顔から、苦痛の感情を読み取って興奮するのである。
それが彼女の楽しみであった。
それから、ユニコーンである。
彼女はユニコーンのぬいぐるみを、持って来ると、すぐに裁縫用のハサミでお腹を切ろうとする。けれども、すぐには切らないのである。
切るか切らないかの所で、彼女は手の動きを止めて、ユニコーンのルビーのような赤い瞳をまじまじと覗き込むのである。
もちろんユニコーンには、表情はないけれども、その表情のない顔から、恐怖の感情を読み取って興奮するのである。
そうして彼女は、ちょっとハサミでお腹を切ると、そこに指を入れて、中にある綿をほじくり出すのである。
その時の彼女の瞳がどういう瞳なのかと言うと、それは煽情的で、猟奇的だった。
彼女は、ユニコーンの綿を再び戻すと傷口をホッチキスで止めた。
そうして、
「大好きよ」
と言って、さらに指で傷口を広げようとするのである。
この行為に、彼女は快楽を感じるのである。
それからお人形さんである。
彼女にとって、お人形さんと、どのように遊ぼうかという事は非常に難しい問題であった。
例えば、目玉をくり抜こうとする。
しかしお人形さんは人間に近いので、そんな事をすれば、ただ痛いだけで、全然キモチヨクは無いのである。
だから彼女は、女の子のお人形さんの服をぬがして、それから男の子のお人形さんの服もぬがして、二人を重ね合わせて、こすり合わせて、そうしてあげようと思うのだけど、それだと興奮しないのである。
で、あるからこれは非常に難しい問題だった。
そこで気が付いたのは、このお人形さんたちにも、たくさん興奮して、たくさんキモチヨクなってもらおうと思ったのだ。
だから、少女は洗面所に行って、剃刀を持ってきた。その刃はまだ新しくて、銀色の光沢をシュッと放っている。この、あまりにも鋭い剃刀の刃は、少女を充分に興奮させた。
それを無口のお人形さんの、清らかな口の中に挟んだのである。
可愛らしいフランス人形さん、であった。
白い素肌と青色の瞳は可憐で、芸術的で、そうしてある種の猟奇的さも、持ち合わせていた。
「ねえ、お人形さんたち……私が苦しむ姿をみて、たくさん……たくさんキモチヨクなってね」
少女は、剃刀の加えられた人形を、自分の喉のところに近づけた。
でも、すぐには切らないのである。
切るか切らないかの所で、このお人形さんは動きを止める。
少女は恐怖した。因果応報というように、自分のやった事は自分に帰ってくるのである。
少女は、自分の手でお人形さんを持っていながら、そのお人形さんに命を支配されている事に恐怖していた。またそれと同時に興奮していた。
お人形さんは、彼女の喉に少し傷を付けた。
このちょっとした痛みで、少女の快楽は増幅した。
「大好き」
少女が発したこの愛の言葉はそこにいた、くまさんや、ユニコーンや、さらにはお人形さんの体内に忍び込んだ。
お友達は皆、彼女の事が大好きである。
夜はまだ深くなる。
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