異形を巡る物語
第一話「その始まりについて」
僕がその少女と出会ったのは、高校一年生の春の季節の事だった。
入学式が終わって、教科書を手に入れて、桜の花びらが窓の外を舞っていたのを覚えている。
そのとき、僕は新しい生活に胸を踊らせていた。
まあ、普通に友達もできたし、勉強もそこそこついて行けたと思う。
部活や生徒会などには入らなくて、ごく平凡な生活としてこの三年間を生きる事になるだろうなと思っていた。
少女と出会ったのは、そんな生活に少し慣れてきた頃だった。
ふと廊下で誰かとすれ違ったとき、僕はただならぬ違和感をおぼえた。
誰か、とはもちろんその少女の事で、目が合ったときいきなり脈拍が上がった。
というのも、これは特に恋愛感情的な意味があるわけではなく、どちらかといえば恐怖にも似た感情だった。
まるでホラー映画を観賞する直前のような、恐怖とトキメキが僕の胸に渦巻いていた。
その少女は、僕と目が合うと軽く会釈をした。
色白の肌に、さらりとした黒髪が印象的だった。
確かに美人ではあったが、しかしクラスの男子は、そんな少女のことよりも2組の北田さんに注目していた。
北田さんは、誰がどこかえら見ても綺麗で、人当たりがよく普遍的でかつ王道な人だったから、もちろんそれまでは僕も北田さんに注目していた。
しかしそんな注目は、このとき少女へと完全に移り変わってしまった。少女は僕の興味の的を、すべて完全に奪いさっていた。
なぜなら……と、その理由を表現しようとしても、うまい言葉が見つからない。
例えるなら、好きな食べ物をなぜ好きかと説明するときのように。嫌いな食べ物をなぜ嫌いかと説明するときのように。
美味しいから、とか、不味いから、とかいう言葉でしか見つからないのと同じように。
この少女の場合は「存在が異常だったから」としか表現できなかった。
見た目は特に変わりない……というかむしろ美人だったけど、少女はそこにいるだけで異常だった。
砂漠にシロクマがいる、空にクジラがいる、この学校に少女がいる。それは通常の事態ではなかったのだ。
僕は、彼女の名前が石峰さんという事を知る。
僕は、石峰さんに話しかける機会を伺っていた。
しかしどう話しかけたらいいか分からないし、気があると思われても困る。だから絶妙なタイミングがいまいち分からなかった。
そうして月日は経過して、二学期の秋のこと。とうとう僕は、学外オリエンテーションの日、彼女と自然に話しをする機会に見回れたのだった。
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