田舎娘、マヤ・パラディール! 深淵を覗きこむ!

島倉大大主

エピローグ:その一 事後処理と結婚式への招待

 日が傾き始める頃、警官隊が駆けつけてきた。その三十分後には軍隊が駆けつけ、全員が事情聴取の為、移送されることになった。

「ここは何処の国ですの? フランスからどのくらい離れて――」
 ロングデイの質問に初老の軍人は、煙草をくわえたまま口の端を上げた。
「いやいや、まだフランスなんですよ、マダム。グランヴィルです」
「あらまあ……それで、私たち、家がなくなってしまったんですが、その……」
 初老の軍人は首を捻った。
「私に聞かれても困りますが――まあ、大丈夫でしょう。
 ここだけの話ですが、こういった事態は予測されていたらしくてですね、一次大戦で荒廃しちまった田舎に移住させようって計画らしいですな。
 あ、これは内緒に。私も立ち聞きしただけなんで」
 ロングデイは頭を下げた。初老の軍人は敬礼をすると、よーし、全員にワインとパンを配れと周りの兵士に命令した。
 レイがハムもくれと叫ぶと、軍人たちから笑いが起こった。

 その夜のうちに全員が、ドーヴィル郊外のホテルに移された。
 簡易な取り調べが行われ、客たちは次の日に解放された。
 従業員及び階層警察官達の取り調べは四日に及んだが、大した成果は得られず、フランス政府高官は苦虫をかみつぶしながら、納得した。

 ――あの残酷大公が、人間に心を許し、秘密を漏らすはずがない――

 報告書の最後には、そう書きなぐられていた。

 ジャンとマヤは一緒に取り調べを受けた。
 だが、ガンマが二人の書類を改ざんし、ジャンがどこかに電話をかけた。それだけで、二人はすぐに解放された。
 いまだ取り調べ中のヨハンセン一家に会いに行くと、中々の広さの部屋に、数十人の子供達と一緒に一家は収容されていた。テスラ氏は偽名でモルガン某と名乗っているらしい。
「ヨハン! 俺達はもう行くよ」
 子供達の歓声の中、ヨハンセンはジャンの手を取った。
「そうか。俺たちゃサン・ジャン・ドコールとかいう村に移住が決まった。
 孤児院をやることになったよ。
 今度は陸地だ! 遊びに来てくれよ、友よ! それと――」
 ヨハンセンは声を潜める。
「できることなら、太った姿で来てくれ! 家内がうるさくてかなわん!」
 マヤはロングデイにお辞儀をする。
「お世話になりました。皆様のご健康をお祈りいたします」
 ロングデイも静かに礼をする。
「ありがとうございました。お嬢さんこそ健やかに……」
 アデルモが渋い声で、またいつか! と言い、ジャンが笑う。

 レイとダイアナが走ってくると、マヤに礼をした。
「ありがとうな、姉ちゃん!」
「御恩は一生忘れません。あの――結婚式には呼びますので」
 ダイアナ以外の全員がギョッとし、部屋が静けさに包まれた。
 レイが頭を掻きながら、真っ赤になって笑った。
「ま、十年後かな?」
「八年後よ」
 ダイアナの声は祝福の歓声で満たされた部屋の中でもマヤの耳に確かに聞こえた。

 マヤは二人を抱きしめた。

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