ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十九話 竜司の初インジェクト

「やあ、こんばんは。今日も始めようか」


###


僕はそんな父親を持つ駆流を少し羨ましく思っていた。


「にーちゃん、ゲームやろうぜ? F1」


そんな僕の気持ちを知らずに笑顔で僕を誘って来る。


「ああ、いいよ」


僕は応じた。
本日二回目。
いざゲームを始めると意外に善戦したんだ。
ある場面では駆流の前を走ったりね。
駆流もその時は焦ってたね。


「何人たりとも俺の前は走らせねぇぇぇ!」


とか叫んでたっけ。
とにかく駆流は一位じゃないと嫌なんだろうね。
僕に抜かされた時の表情が尋常じゃ無かったよ。
眼が血走り、葉をガクガク震わせ、額にじんわり脂汗が出ていた。


「うぉぉぉぉっ!」


ヘアピンカーブに差し掛かり駆流が叫んだ。
カーブを曲がる瞬間立ち上がり身体全体で曲がっているそんな印象だった。
結局そのレースはまた僕の負け。
結局その夜は二、三時間F1ばかりやっていたよ。


僕はゲームを終えて寝室に帰って来た。
ガレアは二、三時間前と同じポーズだった。
ふと時計に目をやる。


午前一時
大分夜も更けていた。
僕はとっとと布団に潜り込んだ。


その日僕は夢を見た。


また時々見る夢だ。
僕の視線は宙を彷徨っている。
辺りは荒廃しきっていて日本なのかどうかも定かじゃない。
僕が上からぼろぼろになった標識を見た。


渋……5キロ


標識が折れ曲がり錆びつきちゃんと読む事が出来ない。
おそらく渋谷へは五キロと書いてあるんだろう。
ただそこにはTVで見たような渋谷の景色とは全然違っていた。
ビルはあるのだがちゃんと立っているのは無く、どこも途中でボロボロに崩れている。
地面は瓦礫が散乱しており、ニュースで見たような戦時中の中東のような風景だった。
僕の意識は空を飛びその荒廃した渋谷を飛んでいた。


じきに人影が見えた。
緑の竜と人が見える。
側まで飛んで行って、前まで回り込んでみた。


これは……僕なのか?


頭に薄汚れた頭巾と言うのかターバンを巻いていて、元が着ていた様な革ジャンを羽織っている。
ただ所々解れたりしていて状態は良く無い。
ボトムも同様あちらこちらが破れている。


フラフラとよろめきながら前に進んでいる。
ただ一番驚いたのがその顔だ。
痩せこけていて目も虚ろ、唇はかさかさに乾ききっていて半開き。
ただ目は虚ろなのだが瞳はぎょろぎょろ動き、まるで警戒しているようだ。


僕はいまいち確信が持てず、また後ろに回り込んでみた。
その男が持っていたカバンは僕が旅に出る時に持ってきたものだった。
そして竜の後頭部にコブがあった。
この二点で確信した。
何年後かは解らないがこれは僕だ。
僕とガレアだ。


すると辺りが騒がしくなった。


【見つけたぞ!】


するとどこからか竜が沸いてきてあっという間に囲まれてしまったようだ。
でも囲まれた本人は笑っていた。


「フフフ……数を集めれば“竜狩り”に勝てると思ったの……?」


え? 今何て? 何だ竜狩りって。
言った単語を考える間もなく戦闘が始まった。


魔力注入インジェクト……」


【照射ー!】


円形に囲んだ竜達の口から閃光が次々に放たれた。
周りの竜の口から出た光によってパアッと明るくなる。
と同時に爆音と煙が辺りに立ち込める。
煙が広がるスピードはビル倒壊等の映像で見た時と同じぐらい速い。
瞬く間に辺りは視界不良になった。



【やったか?】


この台詞。
ああ、こいつらはやられるんだろうなと思ったよ。


本人とガレアらしき竜は上空に飛んでいた。
というか二十メートルはあろうか。
それをこんな一瞬で。
僕は魔力注入インジェクトの凄さと怖さを知ったよ。


上空に居る本人はつぶやいた。


標的捕縛マーキング……」


いつもの全方位オールレンジのような円形が辺りを包む。
そして上空の僕? はカッと目を見開き笑いながら叫んだんだ。


「ガレアァァァ! シュートォォォ!」


叫ぶと同時にガレアとおぼしき竜の口から何十もの閃光が放出された。
辺りは囲んだ竜が起こした煙で視界不良なのにも関わらず、放った閃光はまるで意志を持っているかのように煙の中に消えていった。


上空の僕? は地面に着地。
あれ程高い上空から降りたというのに平然としていた。


「行くか……」


やがて煙は晴れると、囲んでいた竜達は全員倒れていた。
全て一撃だ。
どの竜も胴体に大きな風穴が空いていた。
その竜の屍を顔色一つ変えずにまたいでフラフラと僕は歩きだしていった。


僕はここでゆっくり目が覚めた。
なんて夢だ。
この夢が正夢なら最悪だ。


僕は閃いた。
すぐにバッグからヒビキのノートを取り出す。
今見た夢の事を詳細に記録した。
全て書き終えた後時計を見た。


午前五時十分。


僕は寝転び考えた。
あの渋谷がいつの時代なのか?
竜狩りって何だ?
僕は一体どうなったんだ?


何か色々ごちゃごちゃ思惑が頭を巡り、考え疲れて僕は寝てしまった。


「……にーちゃん!? 朝だぜ!? 起きろって!」


駆流の声で僕は目が覚めた。


「んぅ? ……あぁ、おはよ駆流」


「おはよじゃねーよ。
にーちゃんもう七時半だぜ!?」


ようやく目が覚めた僕は駆流の方を向く。
駆流は学生服を着ていた。
僕はすぐに着替えて駆流と一緒に降りていった。


「麗子さん、おはようございます」


「あら? 竜司さんおはよう」


ピンポーン


玄関のインターフォンが来客を告げる。


「あ、華穏が来た。
そんじゃにーちゃん! そんじゃあ俺とマッハは学校行ってくるわ!」


「いってらっしゃい」


【イッテラッシィ】


「ガレア、また間違えてる」


僕は用意された朝御飯を食べながら駆流を見送った。


「竜司さん、今日のご予定は?」


「あ、僕は午前中は少しやりたい事があるので……あ、この辺りで大きい広場ってありますか?」


「ありますわよぉ 星の広場って言う所が。
駅からバスが出ていますわよぉ」


「わかりました。
ありがとうございます」


「さて、そろそろ私も準備しなくちゃ」


「麗子さんも出かけられるんですか?」


「そうよ、私こう見えても女社長なんだから」


僕は片づけてた食器を落としかけた。


「お・女社長!?」


「そうよ、女性下着の販売会社なの」


「じょ・女性下着……?」


僕は赤面してしまった。


「あら? 可愛いわね。
想像しちゃったかしら?」


「もう! からかわないで下さい!」


僕はむくれてそっぽを向いてしまった。


「あはは、ごめんなさい。
あ、いっけないそろそろ行かないと」


午前八時


「じゃあ、僕も出ます」


僕は急いで二階に上がった。
さっきは気づかなかったがガレアはまだ寝ていた。


「ガレアー、行くよー! 起きろー」


【うす】


やはりガレアは目覚めは良い。


「ガレア出るよ準備して」


【はいよ】


僕はガレアと一緒に外に出て駅を目指した。


近鉄四日市駅


四日市駅に辿り着いた僕は観光課を目指そうとした。
バス乗り場を探すためだ。
するとガレアが


【なあなあ竜司。ハラヘッタ】


そう言えばガレアは朝食を食べてない。


「わかったよ。バス乗り場を確認してからな」


三重県観光課


僕は入り訪ねた。


「すいません、星の広場へはどうやって行ったらいいですか?」


(それなら六番乗り場から宮妻口行きに乗って行けます。
六十一番か六十五番にお乗りください)


「わかりました、ありがとうございます」


僕は観光課を後にした。


「ガレアーわかったよ」


さあ、次はガレアの朝食だ。


「ガレア何が食べたい?」


【肉】


即答だ。
でもこんな朝早くに肉って言ってもなあ。
とりあえずコンビニに向かったよ。


ファミリアマート


ここはファミトリが美味いんだ。
とりあえずガレアに確認。


「ガレア、肉だったら何でもいい?」


【いいぞー。ハラヘッタ】


カウンターに行く。
ちょうどファミトリを大量に作った所だった。


「すいません……ファミトリ十個」


手さげにファミトリ十袋に詰め込みガレアの元へ急いだ。
袋からの鳥臭が凄まじい。


「はいガレア」


【おっ? サンキュー】


ガレアは僕から袋を引ったくり、ファミトリをがっついた。
ファミトリがどんどん無くなって行く。
瞬く間に十個全てのファミトリが無くなった。


【プフー……】


少し腹がいっぱいになったのか、ガレアは鳥臭い息を吐いている。


「じゃあ、行くよガレア」


【おう!】


僕らはバスに乗り目的地へ向かった。


少年自然の家口


目的地到着。
少し進むとだだっ広い原っぱに着いた。
さすが平日、人っ子一人居ない。
ここなら奈良の様な事にはならないだろう。


僕は原っぱの中心でドカッと座りヒビキからのノートを開いた。


[そして練習法なのですがまずはやってみましょう。
イメージです。
力が体内に流れ込むイメージ。
はい! どうぞ!?]


はい、どうぞったってなあ。
まあとりあえずやってみる事にした。


「フー……魔力注入インジェクト!」


僕はガレアの身体から少し力を分けてもらうイメージを浮かべた。
何やら緑色の小さなもやもやしたものがフワフワこちらに飛んでくる。
フワフワフワフワ飛んできたその小さなもやもやは僕の身体の中に消えていった。


ん? 何ともないぞ。
そんな事を考えていた矢先。


ドクン!!


胸が跳ね上がる程に僕の心臓が大きく波打った。


「え……?」


何だ!? 何か体がおかしい、両手足がだんだんしびれて来て感覚が無くなりそうだ。
とか思ってる内に感覚が無くなった。
足の踏ん張りが効かなくなり僕は前のめりで倒れた。


【おーい竜司。どうしたんだー】


ああ大丈夫だと言いたかったが口も満足に動かない。


ドクン!!


また先程と同じくらい心臓が波打った。
体中の骨が軋んでいるような感覚だ。
腹も死ぬほど痛くなってきた。
体の中で内臓がねじれているような感覚。
毒とは聞いていたがまさかここまでとは。


ドクン!!


また来た。
内臓がキリキリ痛み出した。
物凄く痛い。痛い痛い痛い!
何だ魔力ってここまで毒か!?


プチン


あ、何か身体の中で何かが切れた。
と思った瞬間


「ゲホッ! ゲホッ!」


【あー竜司お前血吐いてるぞ!? アステバン第十七話“病の意味は”みたいになってんぞ!?】


僕はそのまま気を失った。


###


「はい、今日はここまで」


「パパー? 魔力を身体に入れるのってそんなに苦しいの?」


「そうだね。最初はホントに死ぬぐらい苦しかったよ」


たつは黙ってしまった。


「ゴメンゴメン、怖がらせちゃったね。
さあもうこんな時間だ……布団に入って……おやすみ」


バタン


          

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