ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十八話 竜司、ガレアとお風呂に入る

「やあ、こんばんは、今日も話して行こうか」


「パパー? 結局三重でも居候なの?」


居候なんて言葉どこで覚えたんだ。


「タハハ……」


###


僕は麗子さんに招かれ、リビングに進む。
廊下の広さもガレアの巨体がすれ違える程に幅が広く、辿り着いたリビングも多分今までの家で一番広かった。
一番びっくりしたのはF1カーがそのまま飾ってあったことだ。
車の周りには柵が張られている。
僕が呆気に取られてみていると麗子さんが


「これは主人がモナコGPを取った時に乗っていたものですの」


「そうですか……やはり凄い方ですね」


「女の私にはよくわかりませんが……」


「今ご主人はどちらに?」


「近々シンガポールGPがありますので現地へ行っております」


モナコ優勝ぐらいすると家にはほとんど居ないんだろうな。
僕は自分と重ねてしまった。
そんな事を考えていたら


「フンフーン カルピスカルピス~……ってにーちゃん!?
何してんだこんなトコで?」


「いやあ、ハハハ……やっぱり今日お世話になろうと思ってね」


僕の前まで駆流かけるが歩み寄る。


「すげーだろ? これ」


目線はF1カーを見ている。


「確かに凄いね」


「この車は父さんの偉業の象徴だ。
父さんがモナコを取るまでは日本人で誰も居なかったんだぜ」


駆流かけるの目が一層輝く。
華穏かのんの言う通り駆流かけるは父親を尊敬しているようだ。


「さすが“世界最速の男”……だね?」


「そうさ! 俺もいつかモナコに挑戦する。
そこで父さんとワンツーフィニッシュを決めてやるんだ」


僕は駆流かけるならやる。
そんな気がしてならなかった。


「もう、あなた達―、私も話に混ぜてよー」


麗子さんは眉をㇵの字に曲げ、両拳を握り、両方顎の下まで持ってきた。
いわゆるぶりっ子ポーズというやつだ。
確かに麗子さんは美人だが年齢的にそのポーズはちょっと。
僕が呆気に取られていると駆流かける


「もう母さん! 歳を考えてくれよ! ホラにーちゃんもひいてるじゃんか!」


「えー、そんな事無いわよねえ? 竜司さん?」


「あ……ええまあ……」


僕の煮え切らない返答に麗子さんは喜ぶ。


「ホラどう?
駆流かける
母さんもまだまだイケるわよぉ?」


「にーちゃんは大人だから気を使ってるだけだよっ!
母さんはもーあっち行っててくれよっ!」


「そう言う訳にもいかないわよ。
竜司さんにお部屋案内しないといけないしね」


「じゃあ、早くしてくれよ。
恥ずかしくってしょうがねえ」


「はいはいわかりましたー。
じゃあ竜司さんこちらへどうぞ……」


僕とガレアは二階に上がる。
駆流かけるの部屋の隣に案内された。


「こちらの部屋は海外からのお客様用のお部屋ですの。
ご自由にお使いいただいて結構ですわ」


「ありがとうございます」


「お部屋で一息つきましたらお風呂にお入り下さいな」


「わかりました」


部屋は駆流かけるの部屋より一回り小さいぐらいだが、ガレアと僕が寝るには十分の大きさだ。
特に飾り気が無いのはどの国の客にも対応できるようにだろう。
僕はベッドの脇にカバンを置き、ふとガレアに聞いてみた。


「そう言えば、ガレアってお風呂って入るの?」


【別に人間みたいに毎日入ったりしねーな。
向こうだと時々水浴びはしてたけどな】


地球と竜界とどう違うんだろ?
そんな事を考えながら僕は誘ってみた。


「じゃあ、一緒にお風呂に入る?」


これだけ家がデカいんだから風呂も広いだろうといった算段だった。


【別にいいぞ】


僕らは風呂に辿り着いた。
迷わず着いたのは案内板があったからだ。
個人宅で案内板があるなんて初めてだ。
しかも四ヶ国語ぐらい書いてあった。


「ガレア?
多分もう少し小さくなった方が風呂に入りやすいと思うよ」


【そうか? じゃあ……】


ガレアが優しい光に包まれ小さくなった。
僕は全裸になり風呂の戸を開けた。


案の定風呂は広かった。
普通に泳げるぐらいはある。
流石に水が出てくる獅子の置物は無かったが
こんなのアニメや映画だけだと思っていた。


僕は片足から全身風呂に漬かる。
ガレアも僕を習って片足から入り、全身漬かる。


「あ~~……」


【の~~ん……】


何やらガレアが変な声を上げている。


「プッ……何ガレア? その声」


【え!? 気持ち良い時出ない? の~んって】


「出ないよ」


僕とガレアはしばらく湯に漬かり、僕は体を洗う事にした。


すると困ったことが発生。
どれが石鹸でどれがシャンプーかわからない。
英語なら何とかわかるが何かボトルにはアラビア語みたいなのが書いてある三つある。
ボトル三つともだ。


「ど・どうしよう……」


【の~ん……】


僕が困ってるのを尻目にガレアは奇声を上げている。


どうしよう?
こう言うのは普通使う順番に並べられているものだ。
一番手前のボトルから使ってみる事にした。


ゴシゴシ


この泡立ちからしてボディソープで間違いないだろう。
何とかシャンプーで体を洗うという事態は避けれた。
頭までキッチリ洗った僕はガレアに声をかけた。


「ガレアーおいで。
背中流してあげるよ」


【の~~ん……ん?】


ガレアが浴槽から上がりのしのしとやってきた。
今まで見る事が無かったガレアの背中。
やはり大きい。
しかも先程まで湯に漬かっていたはずなのにもう乾き始めている。


ゴシゴシゴシ


ガレアの背中を洗う。


【うひゃひゃ】


ガレアがさっきと違う奇声を上げる。


「フフッ、ガレアもしかしてくすぐったいの?」


【クスグッタ……?
何の事かわからんが、竜司が背中を擦ると変な声が出る……うひゃひゃ】


背中は洗い終わった次は首に登る。
ガレアは首も長いから洗うのも一苦労だ。


【うひょひょ】


ガレアの奇声。一つ発見。
背中がくすぐったいとうひゃひゃ。
首がくすぐったいとうひょひょになる様だ。


首が終わり頭を見るとやはり後ろにコブがある。
ガレアの逆鱗だ。
ガレアを殺人者にするわけにはいかない。
僕はそこを何としても触るものかと避けて洗った。


「はいおしまい、じゃあ流すよ」


【はいよ】


やはりガレアは大きい。
泡を落とすのも一苦労だ。


ん? 大きい?
僕はふとした疑問をガレアに投げかけた。


「ガレア、入った時より大きくなってない?」


【そうか?
多分風呂が気持ちいいからサイズ調整の魔力が散ったんだな】


「ふうん」


僕とガレアは体を洗い終わりもう一度湯舟に漬かる。


「あ~~……」


【の~~ん……】


しばらく漬かって僕ら二人は風呂を出た。
脱衣所で身体を拭き始めたらもうガレアの身体は乾いていた。
湯気はまだ揚がっているのにも関わらずだ。
僕も急いで身体を拭き服を着た。


そのまま二階に上がりベッドに腰掛けた。


「ガレアって僕と出会うまでって何してたの?」


【出会うまでって?】


「だから何で人間界に来たのかとか」


【前にも言っただろ向こうで引き籠ってたって】


「それは聞い……」


トントン


「にーちゃん! 風呂から出たんだろ!? 話聞かせてくれよ!」


駆流かけるだ。


「ごめんガレア、話はまた後で」


【俺もう寝るぞ】


「わかった」


ガレアは丸まってしまった。
僕は寝たガレアを置いて駆流かけるの部屋に来た。
勉強で使ったテーブルの前に座った。


「で、何でにーちゃん旅してんだ?」


僕は迷った。
何だろうかこの時僕は駆流かけるに少し兄のような感覚が芽生えていたのかも知れない。
だから理由を言うのを躊躇った。


横浜事件の事。
僕が家出した事。
家で居場所が無い事。


それらは言わない事にした。
何かカッコ悪い気がしたからだ。


「ちょっと日本を見て回ろうと思ってね」


「学校とかどうしてんの?」


「休学届だよ」


「へー、そんなんでいいのか? いいなあ」


「でも馬鹿になるのは嫌だからね。勉強はずっとしていたよ」


「へー、最初はどこに行ったんだ?」


「最初は甲子園だよ」


奈良までの旅路を駆流かけるに話してやった。
やはりそこは男の子だ。
元とのケンカや、天涯との死闘などはワクワクして聞いていたようだ。


「へー、やっぱり色んな竜河岸がいるんだなあ」


駆流かけるはいつからF1に乗りたいと思ったの?」


「俺か? 生まれた時から……って言いたい所だけど、初めて乗りたいって思ったのは五歳の鈴鹿GPだなあ」


駆流かけるのお父さんが事故を起こしたんだよね】


マッハが話に加わった。


「そうだな。
鈴鹿の時に父さんが大事故を起こしてな。
何とか一命をとりとめたんだけど復帰は絶望的って言われてたんだ」


僕は聞いていた。


「でもな!?
父さんは諦めなかったんだ!
地道なリハビリから始めて、そして現役復帰したんだ。
そしてこっからが父さんの凄い所なんだぜ!
何と僅か五戦でモナコGPを取ったんだぜ!?」


「へぇ、凄いね」


その五戦が長いのか短いのかよく解らないので
とりあえずありきたりな賛辞を送った。


「へぇって何だよ! へぇって! 物凄い事なんだぜこれ!?
そっからだよ父さんが“世界最速の男”って呼ばれるようになったのは。
そんな父さんを見て俺もこの舞台に上がりたいって思ったんだ!」


【正確にはモナコの前からだけどね】


「マッハ、うるさい!」


駆流かけるが怖い顔でマッハを睨む。


【ヒエッ! ごめんよう】


嬉しそうに父親の話をする駆流かけるを見て、僕は自分の父親の事を思い出した。


「でも、お父さんは今も海外でしょ? 寂しくないの?」


「別に。
父さんからは必ず月に一度は動画付きのメールが届くし、それに父さんとは約束しているんだ。
いつかレース場でって」


そういえば父さんからそんな便りなんて受け取った事が無い。
僕は本当にすめらぎ家で生まれてきて良かったのか?
愛されているんだろうか?
とか考えて少し胸がチクッとした。


「その動画って今見れる?」


「いいぜ PC持って来る」


駆流かけるは奥からノートPCを持ってきて電源を入れた。
あるメールをクリックし動画再生。


[……あー、エヴァンス? これでいいのか?
では改めて……駆流かける! 元気でやってるか!?]


色黒で茶色い短髪のレーススーツの男が正面に居る。
眼と太い眉が特徴的な人だ。無精ひげが目立つ。


[シンガポールは暑いぞー!
でも生春巻きは美味いぞー!
父さんは予選二位で通過だ! まあまずまずと言った所だ]


僕のイメージではもっと落ち着いたクールな人という印象だっただけにこの砕け方は少しびっくりした。


[まあ、見てな!?
ここから上に行ってやるぜ!
俺は“世界最速の男”だからな!
お前も早くこっちへ来い!
レーサの高みにな!……エヴァンス?
これどこで切るんだ? ああここか……プツッ]


「何か気さくな人だね」


「そうか? いつもあんな感じだよ父さんは」


「でも……かっこいいね」


「だろ?」


駆流かけるは嬉しそうだ。


###


「はい、今日はここまで」


「パパのお父さんってどんな人?」


「巨大タンカーの船長だよ。どんな人かは後で出てくるからお楽しみにね」


「うんっ!」


「じゃあたつ……おやすみ」


バタン




          

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