ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十四話 ガレアと鈴鹿サーキット

「やあ、こんばんは。今日も始めて行こうか」


「うん」


「今日は三重からだったね」


###


僕とガレアは電車に乗って一路三重を目指していた。
ガレアはばかうけを食べている。
僕はカバンからヒビキのノートを取り出した。


一枚目


[このノートを開く頃、アナタはもうここには居ないでしょう。
あ、間違えた私はこの世に居ないでしょう(ウソ)]


「な、何だこのノリは……」


前書きだろうか。
しかし何なのだこの軽いノリは。
しかも妙に達筆だ。
僕は目線を下に降ろす。


[冗談はさておき。
次のページから続く内容はかなり危険な行為と言う事を忘れないで下さい。
尚コレの使用による脳への後遺症。
四肢への甚大な傷害及び欠損に関しては嘉島かしま家は一切責任は負いませんのであしからず]


何だずいぶんな言い様じゃないか。
欠損て片腕片足になるって事か?
どんな事させるんだ。
地味に脳への後遺症も嫌だ。


[上記の内容で程よくブルッた竜司君!
しかしこれを使えるようになればかなりのレベルアップが望めます。
じゃあ! めくるめく万能魔力の世界を覗いてみよう。
チェケラッチョ]


若干このヒビキのノリにイラッとしつつページをめくってみる。


二枚目


[では発表します!
その名は……ダカダカダカドン(BGM)
魔力注入! ヒューヒュー
ちなみにこれは魔力注入と書いてインジェクトと読みます。
本気と書いてマジって読むみたいな?
吉祥寺って書いてジョージって読むみたいな?]


ここで僕はぺらぺらと先読みすると十ページほど書いてある。
僕はここでノートをそっとカバンにしまった。
おそらくこのノリが十ページずっと続くんだろう。
このまま読み続けるのは何かしんどい。


【おっ竜司、海だっ!】


電車の窓には太平洋の水平線。
日の出の時に見たかったなあとか考えてた。


【なぁなぁ竜司? どこまで乗るんだ?】


「ちょっと待ってね……」


僕はスマホを取り出し検索。


三重 観光


最初の観光サイトを覗いてみた。
なるほど伊勢神宮があるのか。寺は奈良で行ったしなあとか考えていたよ。
この時僕は寺と神社の違いはよくわからなかったからね。


ん? 鈴鹿サーキット? なになにモータースポーツテーマパークか……ここにしようか。


「ええと、白子駅で降りるんだってさ」


【ふうん。何があんの?】


「鈴鹿サーキットだよ」


【何だそりゃ?】


「有名なレース場があるんだよ」


【レース場?】


ガレアキョトン顔。


「ああ、F1とかがやってるんだよ」


【F1?】


「ああ、F1ってのはね世界最速を競う大会の事だよ速く走るためだけに開発された車に乗ってね。
チャンピオンになると音速の貴公子とか呼ばれたりするんだよ」


【音速の貴公子? ダセッ】


僕は否定できなかった。


「で、でもグランプリがやってるんだって! 迫力あるよ多分……」


【多分?】


珍しくガレアが懐疑的だ。


「だってしょうがないよ。僕だって見た事無いんだから」


【ふうん、まあいいか】


(白子―白子―)


「あ、ここだ。降りるよガレア」


駅から降りた僕とガレア。
もう最初に行く所は決まっている。
三重観光窓口に足を向けた。


「すいませーん、鈴鹿サーキットまではどう行ったらいいですか?」


(西側の停留所からバスが出ていますよ)


「ありがとうございます。あとこの辺りで食べれる三重の名物料理を教えて下さい」


(それではお昼は伊勢うどん。晩は四日市とんてきで如何でしょうか?)


「なるほど。伊勢うどんと四日市とんてきですね。わかりました」


(ありがとうございます。伊勢うどんでしたら駅から五分の所に津ね屋と言う所があります)


「はいありがとうございます」


確かに五分程歩くと該当の店に辿り着いた。


麺と大皿のおばんさい 津ね屋


店に入ると女性の給仕さんが案内してくれた。


(いらっしゃいませー、お二人でよろしいでしょうかー)


「はい」


メニューを見る。


伊勢うどん


並、大盛、竜用。
何だ竜用って。


「ガレアも伊勢うどんでいいか?」


【いいぞー】


「すいませーん、伊勢うどんの並と……この竜用って言うのは……」


(こちらは竜のお客様用となっておりまして麺は並の三倍となっております)


「じゃあ……それで」


待っている間またヒビキのノートをめくってみた。


[ではまず魔力注入インジェクトの注意点から


一、使い過ぎない


これは使い過ぎると廃人になるためです。
魔力注入インジェクトは要するに竜河岸たつがしの身体の部位に竜の魔力を注入するという事です。
竜司君も御存じの通り魔力は異物です。毒です。
そんなものを身体に入れ過ぎたら、はい一週間で廃人決定です。
ですので使い過ぎには注意しましょう。OK?]


まじめな部分が割と多めだったがやはり終始ノリが軽い。
目線を下にやる。


[二、何事も程ほどに


この魔力注入インジェクトは禁断の技なだけあって威力が半端ないです。
中ぐらいの魔力を注入しても山一つぐらい粉砕してしまいます。
ですので最初は少量の魔力注入から始めましょう]


「ふむふむ」


僕は更に目線を下にやり、読もうとしたら注文が来た。


(お待たせしました。伊勢うどんの並と竜用です)


僕とガレアの前に不思議なうどんが並べられた。


麺が普通のうどんより太い。
そして汁が少なく物凄く黒い。


まず一口。
汁が物凄く甘い。
麺もふわふわで柔らかい。
しかしなかなかに食べれる味だ。
珍味と言う物だろうか。


【甘いなあ、甘いけど美味い】


ガレアもそこそこ気にったようだ。
素手でうどんを食っている。
やはり食べ方は汚い


僕らは昼食を終えてバス停へ


鈴鹿サーキット行き


これだ。
直にバスも来て乗り込んだ。
バスに乗り込み着くまでの間僕はガレアに聞いてみた。


「ねえガレア? 元の時も天涯の時もそうだけど何で倒すの手伝ってくれないの?」


【ん? だってアステバンでも基本一VS一じゃん?
アステバンが戦ってる時長官とか助けに来ないじゃん】


やはりガレアの基準はアステバンなのか。


「そ、そうか」


【だから俺は他の竜河岸とケンカしてる時は手は出さねーよ。竜が出てきたら俺もやるけどな】


「そ、そうなのか」


これはガレアだからだろうか。
それとも竜が全般そうゆうものなのだろうか?


(次は鈴鹿サーキット前 鈴鹿サーキット前)


「着いたよガレア。降りよう」


鈴鹿サーキット


「中学生一枚 竜一枚」


(いらっしゃいませ 竜河岸のお客様ですね。こちらへどうぞ)


大きな門をくぐり中に入る。
最初は児童向けの小さなカートなどの乗り物が並んでいる。
これはさすがに乗れないなあ。
そんな事を考えているとガレアが


【人間って何かに乗るの好きだよなあ】


キャッキャと小さなカートに乗って遊んでいる子供を見てガレアがそう言う。
確かにその通りだ。
車、船、飛行機と人間社会に乗り物は多い。


「そうだね。
多分人間社会が発展して色々な所に街を作って、そことの行き来を楽にするために生み出されたんじゃないかな?」


【ふうん。
そっか、人間って飛んだりとか転移とかできねーもんなケタケタケタ】


F1って今はやってないのかな? そんな事を考えながら奥へと進んだ。


鈴鹿サーキット国際南コース


物凄く大きなレース場だ。
かすかにエンジン音が聞こえてきた。
僕は初めて生で見るF1に少し心が躍っていた。


【竜司、何か嬉しそうだな】


「だってF1だよ? そんなに興味があるわけじゃ無いけど生で見れるとなったら……ね?」


中に入り観覧席に上る。
振り向くと少し小さ目な車が数十台レースをしている。
車こそ小さいが結構スピードが出ている。
チェッカーフラッグを振っている人もいて本格的だ。


するとその傍らに白いレーシングスーツを着て小脇にヘルメットを抱えた少年と薄紫の竜が居る。
少年は金髪でツンツン頭。
背は僕より小さいか。
竜は薄紫色をしていて翼が生えていない。尻尾も一本だ。


「くそっ! あいつきったねーよな!
あんな所で幅寄せられたら躱せねーよ!
絶対あいつら大雅たいがの取り巻きの連中だぜ!」


駆流かけるが前に行きすぎだと思うよ】


「何だと!? 俺が前に出過ぎってのか!?」


少年が拳を振り上げる。


【ヒェッ! や、やめてよー駆流かける―……】


この竜は何かオドオドしている。
僕らの視線に気づいたのかこちらを向いた。
するとこの竜の顔つきが変わった。


【ガガガ……! ガレア!?】


この竜がプルプル震え目をパチクリさせている。


【あれ? マクベスじゃん? 何してんのこんな所で】


何だろうこの感じ。
そこはかとなくいじめっ子といじめられっ子の構図の匂いがする。


「にーちゃん、竜河岸か?」


少年が声をかけてきた。


「そうだよ。
僕はすめらぎ竜司りゅうじ
十四歳の竜河岸たつがしだよ。
そしてこの竜はガレア」


「俺は中院駆流なかのいんかける
十三歳! 竜河岸たつがしだ!
そんでこの竜はマッハだ!
にーちゃん何してんだこんな所で?」


「ちょっと事情があって日本を巡ってるんだよ」


するとパラパラと拍手が聞こえた。


(鈴鹿選手権シリーズ カートレース 第五戦。優勝は近衛大雅このえたいがくんです)


優勝した子にマイクが向けられる。


「ふははっ! この僕は未来のF1を背負って立つ男!
この優勝も当たり前! 当たり前! 当たり前ェェ!」


ちょっと変わった子なのかな?
僕はそう思った。次に大雅はこちらの方を指差し


駆流かけるくぅん!
今回は残念だったね。
まさか予選で不運なクラッシュに見舞われて予選敗退なんて!」


「ぐっ……くそっ……」


「これで君のランキングは三位に転落してしまったわけだが。
僕のライバルは君なんだ。
僕のレースをつまらなくしないでくれよ。
それではまた会おう!」


大雅は言いたい事を言って満足げに去っていった。


駆流かけるとマッハもレース場を後にする。
は興味本位で聞いてみた。


「君の言い分だと向こう側の人間の無茶な幅寄せが原因でクラッシュしたんだろ?
あの場で言ってやれば良かったのに」


駆流かけるは右拳と左手を胸の前で勢いよく合わせる。


「クラッシュしたのは俺だ……俺の責任だ。
それをあんな所で言うのは……男じゃねえ」


僕より年下なのにえらくかっこいい事を言う奴だなと思ったよ。


###


「さあ、今日はここまで」


「パパー? カートって遊園地にあるゴーカートの事―?」


「基本的にはそうなんだけどレース用はそれ用に改造されてあるんだ」


「ふーん」


じゃあ、また明日……おやすみなさい


バタン

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