ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十三話 ガレアと並河の戦い

「やあ、こんばんは。今日も始めようか」


「パパー、氷織はどこに行ったのー?」


「それを今から話して行くよ」


###


走り去った氷織ポカンと見つめる僕。
そして固まってるヒビキ。


「ヒビキ! ヒービーキ!」


【ハッ! あぁ竜司かい……】


「氷織ちゃんどうするんです?」


僕は氷織の方向を見つめたままヒビキに問いかけた。


【フ・フンっ! 大丈夫だよ!
腹が減ったら勝手に戻ってくるさっ
ほっときゃいいんだよ!】


「そうなんですか?」


とりあえずヒビキの意見を尊重し、僕らはテントまで戻って来た。
ガレアとカンナが駆け寄ってくる。


「氷織ちゃんは……?」


「あぁ、僕とヒビキが助け出したから大丈夫だよ。
今はちょっと別の所で遊んでるけどね」


「そうなの?」


カンナちゃんは余り納得していない様子だ。


時間はそのまま過ぎていった。
ヒビキはずっと心ここにあらずと言った様子。
飲物を渡すと一瞬で凍らせる程だ。
しかもそれをバリバリ食べてしまう。


【おそらく魔力制御がうまく出来ないんでしょう】


グースは冷静にそう言う。
夕方になっても氷織は帰って来なかった。
山合の為暗くなるのも早い。


「氷織ちゃん、遅いですね……」


僕はだんだん心配になって来た。


「そうね……そろそろ暗くなるし探しに行きましょうか? ヒビキさんはどうします?」


【アタシは……いいや】


ヒビキが元気なさげにそう言う。


「そう、判りました。
じゃあ、竜司君とガレア、カンナもついてきて」


僕らは氷織が溺れた場所まで戻って来た。


「竜司君、全方位オールレンジお願い」


「あ、そうか」


魔力閃光アステショットの練習ばかりですっかり自分のスキルの事を忘れていた。


全方位オールレンジ展開。
山合が緑色のワイヤーフレームに見える。
いた
ここから下流五十メートル程の川岸に体育座りしている。
体調は特に問題ない様だ。
全方位オールレンジ解除。


「わかりました。
ここから下流五十メートル程の所で座っています。
じゃあ行きましょうか?」


「あ、待って竜司君。カンナ?」


「なーに? ママ?」


「それと竜司君、別の所で遊んでるなんてウソでしょ?
何でこんな事になったか説明してほしいの」


「はい……」


ヒビキが氷織をぶった事。
氷織が母親じゃないと言って走っていった事
氷織の両親はもう他界している事。


僕は知っている事を説明した。


「そう……じゃあ、ガレアとカンナ二人で先に行って氷織ちゃんを慰めてあげて」


【わかった カンナ乗れっ】


「うんっ」


ガレアの背中に乗ったカンナは飛んで行った。


「私たちも行きましょう。
カンナが話しているからゆっくりね」


僕と凛子さんはゆっくりと歩いて行った。
ふいに僕が尋ねた。


「何でカンナちゃんを先に行かせたんですか?」


「やっぱり年が近いという点と境遇が似ている点ね」


「境遇?」


「あの子父親の顔知らないのよ。
父親とは海外で知り合ってね。
結婚して身ごもった時に事故で亡くなったわ」


「外国人だったんですね」


「いえ、日本人よ。同じ医療を志す人で私が竜河岸たつがしとわかっても全然態度を変えない人だったわ」


「カンナちゃんは会った事あるんですか?」


凛子さんは首を横に振った。


「言ったでしょ。
身ごもった時に亡くなったって。
カンナは一目どころか父親の顔も写真でしか知らないわ。
話した事も無いしね。
だからそう言う部分で氷織ちゃんの気持ちを分かってあげられるんじゃないかなって」


「そうかもしれないですね」


少し小高い丘を上がった先に氷織とカンナとガレアが居た。


「お……」


僕が声をかけようとすると凛子さんが咄嗟に口を塞いだ。


「シッ……竜司君、静かにっ。
少し二人の話を聞いてみましょう」


僕らは話が聞けるぐらいまで近づいて身を隠した。


「氷織ちゃん、おかーさんとケンカしちゃったのー?」


「おかーさん? ああ、ヒビキの事ですか……ヒビキは母親じゃないです……」


「そーなのー? でも二人で歩いてるの見るとおかーさんみたいだよー」


氷織は答えない。少しの間沈黙が流れる。


「んー……あたしと同じだねっ」


「同じ……?」


「うんっ! あたしとママ。
氷織ちゃんとヒビキ。何だか嬉しいなっ」


「そう……」


少し氷織が笑顔になった。


「あたしもねっ
学校で友達がパパとママと仲良くしてるのを見て羨ましいなって思ったのっ。
アタシはパパ見た事無いから……」


カンナが見せる初めての寂しい顔だ。
でもすぐに明るい笑顔に戻った。


「でもねでもね! 平気なのっ。
怒ると怖いけど優しいママが居るもんっ
それに今は同じ氷織ちゃんが居るもんっ」


ぐぅ~


どこからか腹の虫が泣いた。


「ありゃ? エヘヘ」


カンナが頭を掻いている。
カンナの腹の虫だったようだ。


「ウフフ」


氷織も笑顔だ。


「ねっ? 氷織ちゃん、戻ろっ?」


「はい……」


「いけないっ戻ってくるわ。私たちも戻りましょう」


「はい」


僕達は素早くその場を去った。
帰り際凛子さんが


「ウチのカンナ、良い子でしょう?」


と聞いてきた。


「そうですね」


僕らが先にテント場に戻り、その五分後ぐらいに氷織、カンナ、ガレアが戻って来た。


まず最初に氷織がヒビキの前に行く。


「ヒビキ……ごめんなさい」


ヒビキは黙ったまま氷織の前に立つ。
氷織は少し怯えているようだ。


スッとヒビキの手が上にあげる。
ビクッとなる氷織。
僕も叩くのかって思ったよ。


そしたら力強く氷織を抱き寄せ


【うわぁぁん! 氷織心配したぞぉ! うわぁぁぁん!】


ヒビキが大粒の涙と鼻水を出しながら大号泣している。


【うわぁぁぁん! 氷織ィ! アタシを一人にしないでおくれぇ! うわぁぁん】


抱きつかれた氷織もじきに


「ごめんなさいごめんなさいヒビキ! ヒビキ! うわぁぁぁん」


と泣き出した。
氷織の中にも色々あるし思う所もあるのだろうが見た感じは完全に親子だろって思ったよ。


ここで凛子さんが柏手かしわでを打つ。


「さあさあ、晩御飯の準備をしましょう。
今晩はカレーですよ」


「カレー! 氷織ちゃん氷織ちゃんカレーだって!?」


カンナは大きな目をキラキラさせ、氷織は俯いてはにかんでいる。


【氷織もカレー大好きだからねっ】


ヒビキも話に加わる。
さっきの泣き顔はどこへやらだ。


「ご飯はもう蒸らし段階だぜ」


並河さんが焚火の前でサムズアップ。
野菜や肉などの下ごしらえはもう完了していたらしくもうルーを入れ、仕上げの段階だ。


「じゃあカンナいつものアレ取って来て」


「はぁーい」


カンナが袋を持ってきた中身は
ブラックコーヒー、キャラメル、チョコレート、はちみつ、鰹節、きなこ。


「凛子さん……まさかこれ……」


「もちろん全部入れるわよ」


僕は絶句した。
一体どんなカレーなんだ。
凛子さんは本当に全てぶち込んでしまった。
煮込む事十五分で完成。


各々にカレーとスプーンを配る。
驚いた事にガレアはスプーンは使えるらしい。


まずは一口。
何だこれ? 美味いぞ。
カレーって今まで辛いだけだと思っていたけど、このカレーは本当に色々な味がする。


「凛子さん、美味しいです」


「フッフー、ママのカレーは最高なんだからっ」


この前も聞いた。
要するに凛子さんは何作っても美味いのだろう。


「ヒビキのより美味しい……」


【こりゃ美味いねえ、凛子先生よ。後でレシピ教えてくれないかい?】


「ええ、いいわよ」


【美味いなこれっ! おかわり!】


「空の皿を差し出したって事はおかわりだなっ!
負けねぇぜっ飯盒手持ち全部使ったからなっ!」


「飯盒いくつ使ったんですか?」


「八つ!」


並河さんは勝ち誇った顔をしている。
この人は何と戦っているのか。


結局飯盒はさすがに全部食う事は無かったが消費ごはんは飯盒七つ半。
ヤバかった……。


食事も終わり片づけも終わった。
焚火の側のシートでカンナと氷織がもう眠っていた。
ヒビキと凛子さんがテントの中まで運ぶ。


【遊び疲れただろうね。よく眠っているよ】


「そうね、カンナも仲のいい友達が出来て嬉しいそうだわ」


【じゃあ、今から大人の時間と言う事で……ヘヘヘ】


ヒビキがビールを数本取り出した。


【凛子先生、アンタも呑むかいっ?】


「ええ頂くわ」


「いやー、ようやく洗い終わった」


飯盒七つを抱え並河さんが戻って来た。


「アンタも呑むかいっ!」


「あ、はいっ……って……えっ!? 今普通に喋って……」


「あれ? 何でだろ? わからん」


「そこはさすが高位ハイドラゴンと言った所でしょうか」


グースが並河さんにも解るように日本語で注釈をつけた。
並河さんが恐る恐る聞いてみる。


「さ・酒は何があるんですか……?」


「酒はね……ビールとあと“みむろ杉”があるよっ」


「おっ? 日本酒“みむろ杉”か! じゃあ、それ頂けますか」


「おっ日本酒だねっ
じゃあアタシも御相伴に預かろうかねっ」


「いやー、では改めて初めまして並河健なみかわけんです」


並河さんは手を差し出す。
するとヒビキがにやり。


「違いますよ。こっちです」


ヒビキがお猪口を差し出す。
すると並河さんがニヤリ。


「そうですね」


並河さんもお猪口を差し出す。
チン


「改めてアタシの名前はヒルメイダス・ビ・キールムット。
氷織からはヒビキって呼ばれているよっ」


「さすが竜……って本当に竜なんですよね?」


「そうだよっ。でもどうだい? アタシの言ってる事わかるかいっ?」


「はいっいやもう全く普通ですよ」


「そうかいっ。いやーこれで就職も何とかなるってもんだっ」


「そう言えば就職探しているって言ってましたね?」


「そうだけど?」


「じゃあ、ウチの建築事務所で働きませんか?」


「えっ?」


「いや俺、建築事務所経営してまして、業務拡大に向けて女性アシスタント一人募集してたんですよ。どうでしょう?」


「ぜひっ!」


「良かったじゃない。じゃあ、一緒に就職祝いもしちゃいましょう」


凛子さんもビール缶を上に向ける
ヒビキ、並河さんはお猪口。
僕はもちろんジュース。


「じゃあ、ヒビキの就職を祝いまして乾杯っ」


カンパーイ!


その日は飲み明かしたみたいだった。
僕は途中で寝てしまったけど。
これで奈良の問題はすべて解決した。
それは奈良を離れる事を意味する。


翌朝


手早く片付けも終わりみんな車に乗り込んだ。
さすが社長。アメ車なんて買えるわけだ。
車の座席は行きと一緒だ。
一点だけ違う。
僕は右端。氷織は真ん中だ。


もう車中で僕は


「ヒビキ、僕とガレアは帰って準備をしたら出発します」


「そうかい? 次はどこに行くんだい?」


「次は三重県に行こうと思います」


「なら近鉄奈良駅から行けるよっ。
それとだ……昨日“ロードの衆”の話してたね。
対策って訳じゃないが、とっておきのテクニックを教えておこうかい」


「とっておき?」


「ああ、禁断の技と言ってもいい。
ただアタシも聞いた所“ロードの衆”は天災だ。
もし遭遇しても逃げる事を考えなよ」


「ここでやるんですか?」


「っと……無理だね。
ノートとシャーペンあるかい?
それにポイントと注意点を書き込んでおくよ。
それを見て後は自分でやんな」


「わかりました」


ヒビキは着くまでの間ずっと書き込んでいた。
そしてタワーマンションに到着。
荷物を降ろし並河さんに別れを告げた。


「じゃあ、ここで私たちもおいとまするわ」


「そういえばグースって転移ってできるの?」


僕は最後の一点を消化すべく聞いてみた。


【造作もありません】


【アタシも出来るよっ】


さすが高位ハイドラゴン、問題ない様だ。


「じゃあね竜司君。道中気を付けてね」


「竜司にーちゃんバイバーイ」


三人はガレアの穴に消えていった。
その間僕は上に戻り荷物を取って来た。
ガレア帰還。


「じゃあ、二人とも色々お世話になりました」


僕は頭を下げた。


「いやいや、世話になったのはこっちだよっ。
竜司が居なければ日本語話せなかったし、氷織もまだ宗教で働いていただろうね。
ほら? 氷織もお別れ言いな」


「……私も……カンナちゃんを紹介してもらって……ありがとうございました」


何か罵られるのかな? って思ってたら意外に普通の返答だったため少し唖然としてたら


「何ですかその顔は?
確かにカンナちゃんの事は感謝してますが、あなたがロリコンでスケベなのは変わりませんからっ!
勘違いしないで下さいっ」


この不条理な悪態ももう聞けないのかと思うと少し寂しい気もする。


「じゃあ行きます! ノートありがとうございました!」


僕はヒビキと氷織に手を振ってその場を後にした。


###


「さあ、今日はここまで」


「すぅー、すぅー」


たつは寝てしまった。今回で二回目だ。もう少し長さを考えるべきか。
じゃあ、おやすみ……
バタン



          

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