ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十二話 ガレアとバーベキュー

「やあ、こんばんは。今日はキャンプの続きだね」


「パパー、僕もキャンプ行きたい―」


「そうか。さあ始めるよ」


###


僕らはずっと水の掛け合いに興じ、大分疲れてしまった。


「ちょっと休憩しようか」


僕とガレア、カンナと氷織はテントに戻る事にした。


「氷織ちゃん! 楽しかったねー!」


カンナはニコニコ氷織に話しかける。
この子の陽の空気は心の壁を取り払うのだろう。


「うん!」


氷織の返事も元気だ。
僕らは川辺から小高い丘を登ってテント場へ向かった。
中腹ぐらいまで差し掛かるとヒビキとグース、凛子さんと並河さんがバーベキューの準備をしているのが見えた。
するとカンナの目がキラキラし出して


「ご飯だご飯だ―! わぁーい!」


カンナが走り出した。
僕はこれは久々の……僕はそう思ったね。


「にゃー」


こけるカンナ。
また起き上がるのかなって思っていたらなかなか起き上がらない。
膝を抱えてプルプル震えている。


「カンナちゃん! 大丈夫!?」


カンナはプルプル顔を上げるともう涙目だ。


「竜司にーちゃん……」


膝が赤くなり血が流れている。


「はやく、グースの所に戻らないと……ガレア! カンナちゃんをオンブしてやってくれ」


【わかった、ほらカンナ。
ったくしょうがねぇなあ】


ガレアにオンブされるカンナ。
すると氷織が患部にそっと手を当てて


「いたいのいたいのとんでけー。
いたいのいたいのとんでけー」


僕の目線に気付いたのか氷織が説明する。


「これは両親がよくやってくれたんです……」


「そっか」


「私はお姉ちゃんなんですから……」


テント場に戻るまで氷織は甲斐甲斐しくずっと言い続けていた。


「カンナ!? どうしたの!?」


「そこで走って転んだんですよ」


僕が代りに説明した。


「全く……グースが居て良かったわ。
グースお願い」


【はいマスター


グースが手を翳す。
緑の光が患部を包む。
すぐに治った。
時間にしておよそ十秒。


凛子が柏手かしわでを打つ。


「さあさあ、気を取り直してお昼にしましょう」


「肉をどんどん焼いていくぜ」


並河さんが肉大盛の大皿とトングを持ちながら場所が開くのを待ち構えている。


「皆さんどうぞ」


僕はタレの入った皿と箸を配った。
ガレアはタレ皿だけだ。


【なあ、竜司―?
これはこの皿の汁に肉をつけて食えって事か!?】


「そうだよガレア」


【じゃあ……】


ガレアは素手で肉を数枚掴む。
タレにつけて食べる。


【美味いなっ!】


ガレアの食べるスピードアップ。
みるみるうちに肉が減っていく。


「やっぱ、その巨体だから食べるんだな……負けてられるかっ!」


並河さんがトングを器用に使い、空きスペースを肉で埋めていく。


「ガレアッ! ストップ!」


既に食べようとしていたガレアを制止する僕。


【竜司、何だよう?】


「ガレアいいかい? 料理を食べるのにもルールってのがある。
まず前提として肉は焼けるまで待つ。
そして肉は皆に行き渡るように食べなきゃだめだ」


【そうなのか?】


「ほら、カンナちゃんを見てごらん」


カンナがタレが入った皿と箸を持って苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「このままいつも通り食べ続けるとカンナちゃんに嫌われちゃうよ」


【そうか! じゃあ我慢する】


カンナを引き合いに出すと大抵ガレアは言う事を聞く。


肉が焼けるまでの間野菜などを食べつつ僕はヒビキに聞いてみた。


「そういえばヒビキ日本語の方はどうなの?」


【日本語かい? マザーグースにコツを聞いたからねっ。
見ててごらん】


「オハヨウゴザイマス」


並河さんも反応した。


「おっ!? 今聞こえたぞ!? おはようございますって!」


若干片言だったが確かに聞こえた。
するとグースが


【要は魔力の使い方です。
もう白の王は話す事が出来ますが舌の方がまだ慣れていないんでしょう。
おそらく明日辺りには話せるようになるでしょう】


「そうゆうもんなんですか?」


この後僕らは楽しく食事をした。
ガレアもちゃんとルールを守って食べていた。


腹も満腹になり、外にシートを敷いてくつろいでいた。
カンナは氷織の手を引いてまた川辺に向かった。


「さっ! 氷織ちゃん! 遊ぼう!」


「また走ると転びますよ」


氷織はすっかりお姉ちゃんだ。


「ガレアもついていってくれ。二人を頼んだぞ」


【はいよう】


ガレアは少し飛びながら二人の後を追った。


こんなにのんびりした時間を過ごすのは久しぶりだ。
僕がボーっとしていたら凛子さんが隣に座った。


「竜司君? どう? 楽しんでる?」


「はい、こんなのんびりした時間は久しぶりです」


「私の家を出てからどんな事してたか聞かせてくれるかしら?」


「はい」


僕は
ゲーセンで蓮との出会い。
げんとのケンカ。
奈良に行ってヒビキと氷織との出会い。
天涯との闘い。


その辺りを語った。


「ふーん、竜司君」


「はい」


「その蓮ちゃんの事好きなの?」


僕の顔が物凄く赤くなった。


「べべべっ! 好きとかっ! そうゆうのじゃ無くてっ!」


「じゃあ、嫌いなの?」


凛子さんがグイグイ来る。
僕の頭の中は蓮の顔がぐるぐる回る。


「いえ……」


僕は赤面して俯いてしまった。


「ウフフッ。まあ良いわ。
ここらへんで勘弁してあげる。
まだ私の家を出て二週間とちょっとだけどどうかしら?」


「はい、まず凛子さんの言う通り竜河岸たつがし同士引かれ合うというのがわかりました。
色々なスキルも見ましたし、それで何度か死にかけた事もありましたし」


「そう」


「あと凛子さんに聞きたいのですが、竜河岸たつがしというのはみんな心に傷を持っているものなんですか?」


「やっぱり竜河岸たつがしって特殊な人種だしね。
私も世界を回っている時に色々なスキルを持った竜河岸たつがしを見たけどみんなそれなりに苦労してるみたいだったわ」


急に凛子さんが自分の肩を抱いて震え出した。


「ただ一人……悪魔のような竜河岸たつがしも居たわ……」


凛子さんが震えている。


「あれは暴力を……殺戮を楽しんでいる……竜司君も出会ってしまったら逃げる事を考えなさい」


「それは日本人ですか?」


「そうよ……特徴として使役している竜の尻尾が複数あるわ」


するとグースが


【複数の尻尾を持つ竜は高位の竜ハイドラゴンの第三勢力“ロードの衆”の特徴です。
竜界は“王の衆”、“マザーの衆”、そして“ロードの衆”の三つの派閥によって均衡が保たれてます】


グースは更に続ける。


【ただ“ロードの衆”は少数精鋭。
現時点で三人です】


「その中で竜河岸たつがし付きの竜は何人ですか……」


【現在確認できているのはその悪魔の竜河岸たつがし一人のみです】


「その尻尾の数で強さが変わるんですか?」


【はい。
現在は四尾ロード・フォース
七尾ロード・セブンス
八尾ロード・エイスの三人。
ちなみに悪魔の竜河岸は八尾ロード・エイスを使役していると聞いております】


「その“ロードの衆”って強いんですか?」


高位の竜ハイドラゴンなので強いとは聞いていますが、遭遇する確率がかなり低いのです。
三人ですので。
伝え聞く所によるとロードの衆は“天災”と言われています】


「天災……? 地震とか台風とかですか?」


【はい、ただ人間界のそれとは規模が違います。
広さもおよそ地球の三倍。
台風も風速二百~三百メートル。
地震もM9からです】


僕は黙ってしまった。


【竜司様もくれぐれもご注意くださいませ】


「わ……わかりました」


注意って言われてもなあ、でも地球上に五万人いる竜河岸でその三人に出会う確率なんてねえと楽観的に考えていた。
いや、あまりに大きな話の為ピンと来ないというのが正しかった。


「じゃあ、僕も泳いできます」


「いってらっしゃい」


凛子さんに見送られガレア達の元にやって来た。


「おーい、ガレアー」


【おー。竜司―! ぷわっ!】


僕に手を振りよそ見をしたガレアの顔に氷織とカンナが水をかけた。


「ガレアちゃんっ! スキありっ! 氷織ちゃん! イェーイ!」


カンナが手の平を上にあげる。
おそらくハイタッチを誘っているのだろう。


「イ・イェーイ……」


初めてなので少し戸惑いながら恐る恐るハイタッチをする氷織。


とその時


氷織が消えた。水しぶきと共に。


「氷織ちゃん!?」


僕は異変に気付き川沿いを走って氷織を追いかける。
流れが穏やかだと言っても早い所があったんだろう。


「ガレアッ! ヒビキを呼んでこいっ!」


【わかった!】


ガレアは急いで飛んで行った。
どこだ? どこだ氷織ちゃん。
僕は水面を目を凝らして見た。


見つけた!


氷織が浮かんできた。
僕は氷織目がけて川へ飛び込んだ。


「氷織ちゃん! 手を掴めぇぇぇ!」


弱弱しい力で僕の手を掴む氷織。
僕はグッと氷織の手を掴みこちらに引き寄せる。
激流は激しさを増し僕と氷織を呑みこむ。


一度潜るか……
駄目だ……氷織ちゃんはもう気を失いかけている。
すると岸辺にヒビキが見えた。


【凍れっ!】


僕と氷織の身体は止まった。
ヒビキが川の一部分だけ凍らせたんだ。
川には氷の架け橋がかかった。


その氷の架け橋を渡り駆け寄るヒビキ。


【大丈夫かいっ!? 氷織っ! 竜司っ!】


ヒビキは指を鳴らす。
すると僕と氷織の周りだけ氷が霧散した。


「ハァッ……ハァッ……ヒビキ……助かりました」


僕は氷織を小脇に抱え穴から這い出て岸辺に辿りついた。


ヒビキは川を元の水流に戻す。
じきに氷織が目を覚ました。


「……ロリコン……」


第一声がこれだった。
僕は無視して氷織に話しかける。


「氷織ちゃん大丈夫かい?」


「ロリコンの人に心配してもらう必要はありませんっ」


と言い放ちプイッと横を向く。
するとその様子を見ていたヒビキが


【氷織】


と呼びかけヒビキの方を向いた氷織の頬を平手打ちしたんだ。
氷織の顔が右に揺れる。


【氷織っ! アンタ命の恩人に何て事を言うんだい! 竜司が居なけりゃアンタは死んでたかも知れないんだよっ!】


ヒビキが珍しく氷織を叱っている。
しばらく沈黙が流れる。
ずっと黙っていた氷織は本当に小さい声で


「ママじゃない……」


【何だい? 聞こえないねえ。
言いたい事があるならハッキリ言ってみな!】


「ヒビキはママじゃないっ!」


そう叫んだ氷織は走って行ってしまった。


「あ……」


僕もどうしていいかわからずヒビキを見ると


ガーン


そんな音が聞こえてきそうな程ショックを受けている。


###


「今日はここまで」


「パパー、氷織は子供だねー。僕だったら絶対そんな事しないよー」


たつはママがちゃんと生きているからね。そもそも境遇が違うだろ?」


「そっかー」


「自分と相手の境遇を照らし合わせないのに安易に人を馬鹿にするのは感心しないね」


「……うん」


たつが少ししょんぼりしてしまったようだ。


「大丈夫。たつは素直な子だろ?
今はいっぱい間違えて良いんだよ。ここから学んでいけば」


「うん!」


じゃあ、布団に入って……おやすみ


バタン

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