ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第三十三話 竜司とヒビキ

「やあ、こんばんは。今日も話して行こうか」


「パパー? 氷織ひおりの家の鍋何で大きいの?」


「ガレアもそうなんだけど、ヒビキも一緒でよく食べるんだよ。
だから鍋も大きいの」


「ふうん」


さあ、今日も始めようか


###


僕はとりあえずガレアがある程度満足するまで給仕を務める事にした。
見ているとガレアのおかわりの速さの秘密がわかった。


ガレアお椀を持つ。
ダイレクトにそのまま口へ。
おかわり。


このサイクルである。
そりゃ速いはずだ。
デカイ土鍋の三分の二ほど亡くなった段階でガレアが


【プフー】


と一息。
ようやく落ち着いた様子。


「ガ、ガレア……もういいかい?」


【おう! 腹いっぱいだ】


ようやく僕も食べることが出来る。
何か余りもの感がして気は乗らなかったがまあ一口。
ん? 美味い。
なるほど十分に煮込まれたため下の具材やダシのが味が濃いという訳か。


【竜司、アタシは酒飲むけどアンタはどうする?】


何故、周りの年上は僕に酒を勧めるのか。


「いえ、未成年ですので」


【そうかい?
じゃあ、勝手にやらしてもらうよ】


ヒビキはビール二本と一升瓶とあたりめをキッチンから持ってきた。


【あっ竜司。
これアレだろ?
気持ち良くなるやつっ!】


【おっガレア。
アンタ、イケる口かい?
いいよ、じゃあ一本やろう】


ガレアは差し出されたビール缶を手に持つ。
僕は安心していた。
だってヒビキは高位ハイドラゴン「白の王」だよ?
絶対にヘンな事にはならないって思っていた。


【じゃあ、はい】


ヒビキが頬杖付きながらぶっきらぼうにビール缶をガレアに差し出す。


【ん? 何だ?】


【何だじゃないよ。
乾杯しようって言ってんの】


ガレアドヤ顔。


【知ってるぜ!
アレだろ始まりの合図だろ?
カンパーイ!】


ガレアは高々とビール缶を頭上にあげた。
ああ、ガレアは乾杯って知っていたけど多人数の宴会席でしか知らないんだな。


【アッハッハ何だいそりゃ?】


【えっ!?
違うのかっ!?
竜司!?】


「あのねガレアそれはね……」


とりあえず僕は説明した。


【わかったぜ!】


ガレアが呑み込みが早いのはこの素直さからだろうなって思ったよ。


【じゃあ改めて、はい乾杯】


ガン


「ヒビキ、飲み過ぎちゃ駄目だからね。
約束守ってね」


【わかってるよ氷織ひおり
ビールは一日一、二本。
日本酒は徳利一本……だろ?】


氷織ひおりちゃん優しいね。
ヒビキの身体を心配してるんだ」


「いえ、そうじゃありません。
家計の事を心配してるんです。
ヒビキは制限かけないといつまでも呑んでるんだから」


「あ、そう……」


宴もたけなわ。
酒も手伝ってか、ガレアは窓の側で丸まって寝てしまった。


「ん……」


氷織ひおりが目を擦っている。


【おや、氷織ひおり? もうおねむかい? じゃあ、風呂に入ってきな】


氷織ひおりはフラフラと風呂へ消えていった。
僕は片づけを手伝っていた。
さすが手馴れている点と二人で片づけをやったのですぐに終わった。


【竜司ありがとうね。
片付け手伝ってもらっちゃって……
はい、お茶】


ヒビキは湯呑を置く


「ありがとうございます」


【そういや竜司。
そろそろ夏休みも終わりだろ?
学校の準備とかはいいのかい?
宿題とかさ】


やはり来た。
ヒビキとも仲良くなるんだし話さないと駄目なんだろうな。
この話をするの何回目だろ。


「いえ、事情があって学校には行ってないんです……」


【そうかい、まあいいさね。
人生色々って言うからね】


僕がこの話をするのは何回目だろうか。
ただ反応は聞く人それぞれだ。
凛子さんみたいに自身の事を語ってくれる人もいれば、蓮みたいに励ましてくれる人も居たり、ヒビキみたいに察して流してくれる人もいる。


「ヒビキは元々何で人間界に?」


【さあてね、忘れちまったよ】


「忘れた?」


これは意外な反応。


【もともと氷織ひおりのお爺ちゃんの代から嘉島かしま家にお世話になってるからね。
もう昔の事なんて忘れちまったよ】


僕は黙って聞いていた。


【今は強いて言うならコレだね】


ヒビキは笑いながらお猪口を口に持ってきて呑む真似をする。


「お酒ですか」


【竜司、旅の途中って言ってたけど、どこまで行くつもりなんだい?】


「横浜です」


【へえ、横浜に何かあんのかい?】


僕は自分が引き起こした事件の事。
家で居場所が無くて家出同然で出てきた事。
淡々と話したよ。


【そうかい……逆鱗にねえ……
竜司、アンタもヘビーな人生送ってるんだねぇ……】


「ええ、まあ……
だから横浜には供養の為に行こうかと」


【親御さんとかには連絡してるのかい?】


「兄にはメールを……
両親は共働きで家に居ないので家には祖父と黒の王とヘルパーさんだけですし」


これを言い終わった瞬間。
何か空気が急激に冷えた気がした。
ヒビキを見ると笑顔は笑顔だが何か先程とは迫力が違う。


【へえ……黒の……王……ね】


「ヒビキ……ヘックション!
ヒビキ! 落ち着いて! ハックション!」


いかん、これでは風邪をひいてしまう。


【ハッ!?……
悪かったね!大丈夫かい?】


僕は鼻水をすすり鼻をかんだ。
秒数にして五秒から六秒。
二十℃ぐらい下がったんではないだろうか。
さすが高位の竜ハイドラゴン


【ごめんよ竜司。
黒の王とは向こうで色々あってね。
これだけはいつまでたっても忘れないよ】


「何があったのか聞いても良いですか……?」


【なんて事の無い喧嘩だよ。
とにかくアイツはイケ好かない奴でねえ。
会えば揉めてたよ】


何て事の無いとは言っているが、そこは高位の竜ハイドラゴン同士。
僕は聞いてみた。


「……被害はどれぐらいだったんですか……」


【デカい湖が三つ消えて、三つ新たに出来たぐらいかな?】


僕は初め聞いて理解できなかった。


「どうゆう事ですか?」


【アタシが湖を凍らせる。
それで黒の王は重力を操るから氷ごと根こそぎ抉る。
それの繰り返しさ】


「……どうやって終わったんですか?」


【マザードラゴンが仲裁に入ったんだよ。
マザーは全竜にテレパスを送ることが出来るからね。
何千年か前の話だけどね】


マザードラゴンが向こうの世界でいう一番偉い竜なんだなって理解したよ。


【まあ、アタシも若かったって事さね。
昔は血の気が多かったしね。
今は氷織ひおりの成長を見守ってるのが楽しいしね】


「そう言えば、日本語はどれくらい喋れるんですか?」


ヒビキがテーブルにへたり込んだ。


【それが全く……
読むのと書くのは出来るんだけどねえ。
話し方ってのは解らないんだよー】


僕は一つ思い出した。
高位の竜ハイドラゴンで日本語を話す竜が居た。


「あの……
僕に日本語を話す竜の心当たりがあるんですが。
その竜にアドバイス聞いてみます?」


【えっ!?
いいのかい!?】


「多分竜が日本語を話すって人間の本を読んでもわからないと思うんですよ。
だからいいですよ」


【そうかい、悪いね。
お礼として奈良に居る間はずっとウチに居ていいよっ!】


当面の宿確保。
僕はこの旅でホテルとかに泊まると思っていたけどまだ一回しか泊まっていないなあ。


【さっ明日も早いんだ。
サッサと風呂に入って寝ちまいな】


「明日何かあるんですか?」


【明日は氷織ひおりと一緒に天涯教のお勤めさ】


「そうですか」


ヒビキにあてがわれた部屋で僕は眠りについた。


その日僕は夢を見た。
僕は浮遊霊のように上から見ている目線だ。
何か古ぼけた部屋に三人。
何か話をしている。


「で、竜司よ。これからどうすんねん? 渋谷区はワイの部隊がぶっ潰したでぇ」


げんだ。
その部屋にはげんが居た。
格好は今と変わらないが若干年取ったような気がする。


「私は明日埼玉へ飛ぶわ」


蓮も居る。
蓮は大人になっていた。
相変わらず可愛いなあ。


「僕は明日は永田町にガレアと行く」


僕が居る。
初めは解らなったが、ガレアの名前を口にした事から多分僕なんだろう。


「竜司! ワレ正気か?
あっこには「王」の衆の大半がおるねんぞ!
死にたいんか!?」


「竜司、解ってると思うけど戦闘は極力避けてね」


大人の蓮が心配そうに僕を見る。


「もちろん……ただ説得が通じる相手ならねハハハ……じゃあ……」


三人は右手を握り左胸に当てた。


そして一斉に。


「人と竜に革命の火を!」


僕は静かに目を覚ました。
何だこの夢は?
妄想の夢にしても登場人物がリアル過ぎる。
何だ革命って。
僕は将来革命家になるのか?
何か血生臭い世界だった。
そんな世界嫌だ。
純粋にそう思ったよ。


だが僕はこの夢の内容をすぐに忘れてしまう。
僕は壁の時計を見た。


午前七時


僕は着替えリビングに向かった。
リビングニはヒビキと氷織ひおり、ガレアも起きていた。
僕が一番遅かった。


【おっ? 竜司おはよう】


「おはようございます」


氷織ひおりはすでに出かける準備万端だった。


「おはよう氷織ひおりちゃん、準備万端だね」


「朝食を食べたらすぐに出ますので……」


僕らは朝食をごちそうになっている時、誰かの携帯の着信音が鳴った。
ヒビキの携帯だ。


【……あっちゃぁ~、バイトで欠員が出たから入れないかってメールが……】


「どうするんですかヒビキ。
私は一人でも平気ですが……」


【どうしようか……】


「あの……よろしければ僕が行きましょうか? どうせ暇ですし」


僕も一度天涯教がどうゆう所か見てみたいってのがあったから提案してみた。


【行ってくれるかい? 悪いね】


ヒビキは片手で軽く謝罪した。


僕らは朝食を済ませ、各々準備をした。
ヒビキは清掃業の制服に首にタオルを入れている。
僕らも準備を終えて外に出る事になった。


「じゃあ、ヒビキ。頑張って来て下さい」


氷織ひおりもね。
竜司さんの言う事聞くんだよ】


「はい、それでは」


僕とガレア、氷織ひおりは天涯教本部を目指すことになった。


###


「さあ、今日はここまで」


「パパ、夢の事忘れたって言ってるのに何で話せるのー?」


「ああ、それは何日か先なんだけどコレ系の夢を見たら日記をつけるようにしたからだよ。
不思議なもので字にして書くと忘れた夢も思い出すんだよ」


「ふうん」


じゃあ、そろそろ眠りなさい……おやすみなさい




バタン

          

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