ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第三十二話 ガレアはやはりばかうけ

「やあ、こんばんは。今日も始めて行こうか」


「うん」


###


僕とガレア、ヒビキと氷織ひおりは近鉄奈良駅に戻って来た。


【ああ、二人とも、こっちだよ】


てっきり電車で行くのかと思ったらバスに乗る事に。
バスの入り口は狭い。


「ちょっとガレア、もう一回り小さくなって」


【はいよ】


優しい白色光に包まれたガレアは少し小さくなった。


【なあなあ竜司、これ電サとは違うのか?】


「電サじゃ無くて電車ね。形も全然違うだろ」


【何で人間って色々移動方法持ってるの?】


ガレアが聞いてくる。


「色々無いと不便だからだよ。
電車だって利用するには線路を敷かないといけないから、山の上の方だと難しいし」


【ふうん】


ガレアは軽いキョトン顔


「だって人間は竜と違って翼も生えてないし、魔力も使えないだろ?」


【そうだな】


「となると山の上の方に住んでる人は買い物とかでいちいち降りてこないと駄目だろ?」


【腹減るもんな】


「そういう人たちが移動しやすいようにバスとかタクシーとかがあるんだよ」


【やぁーっぱ、人間って不完全だよなあ。
転移とかも出来ないんだろ?】


「ガレアは転移って出来るの?」


【普通に出来るよ。
地球の裏側まで余裕】


「どうして僕との旅で使わないの?
ガレアの魔力なら僕も一緒に転移できるだろ?」


【バッカだな竜司。
そんな事したら全然面白くねえじゃん。
お前と色んなモノ喰って、色んなモノ見て、一緒に遊んで。
それが楽しいんだろ?】


ガレアはさも当然のようにそう言う。
僕はガレアがこの旅を楽しんでいる事にホッとした。
特に僕と一緒にと言ってくれた所が凄く嬉しかった。


「そっか」


ふと隣を見ると氷織ひおりがじっとこちらを見上げていた。


「……仲、良いんですね……」


なにやら不思議そうだ。


「……竜ってもっと勝手な生き物だと思ってました……」


「そう? でもガレアも勝手な時はあるよ。
まだ知り合って一カ月ぐらいだけどね」


「……でも何かお二人は信頼し合っているというか繋がりみたいなものを感じます……」


氷織ひおりちゃんにもヒビキがいるじゃない」


氷織ひおりはヒビキに気を使ってか


「……ヒビキは……違います……私の保護者といった感じなんです……」


【言っただろ? 奈良県は竜河岸たつがしが少ないんだよ。
少ない上にこの子と同年代の竜河岸たつがしなんてねえ。
だから友達が居ないんだよ】


氷織ひおりはそう言うヒビキを見上げ少し寂しそうに俯きながら


「別にいいもん……友達なんて居なくったって……寂しくないもん……」


大人びた言動が目立つ氷織ひおりが初めて見せた等身大の姿だった。


「じゃあ、僕とガレアと友達になる?」


僕はしゃがんで目線を合わせ提案した。


「お兄さん、ロリコンですか?……」


あからさまに嫌そうな顔をする氷織ひおり。
こいつ人の善意を……って思ったよ。
この子と打ち解けるまでまだまだ時間がかかりそうだ。


【ハッハッハ、ごめんな竜司。
この子周りが大人ばっかりのせいかなかなか取っつきにくいんだよ】


ヒビキが豪快に笑う。


「そうかー、せっかく紹介したい竜河岸たつがしの女の子も居るのになあ」


【カンナか?】


「そうだよガレア」


これを聞いた途端、氷織ひおりの顔が変わった。
興味津々の様子。
やはり十一歳なんだなあって思ったよ。


「その子はどんな子ですか!?」


「蘭堂カンナって子で十歳の女の子だよ。
元気のある子」


「カンナちゃん……友達になれるかな……」


カンナと友達になっている自分を想像したのか、にやける氷織ひおり
するとハッと我に返って


「ハッ……べべっ別にカンナちゃんと会いたいとか、仲良くなりたいとかじゃないですからね!」


取り繕っている氷織ひおり
ヒビキもやれやれといった顔で見つめている。


「何ですかその顔は?
でも、あなたがどうしても私と友達になりたいと言うならなってあげても良いですけど……」


でもの意味が解らないなと思いつつ、僕は少しだけ意地悪い返答をしてみた。


「えー、でもなあ僕も旅の途中だしなあ、どうしよっかなあ?」


この返答を聞いた氷織ひおりの顔色が一瞬で不安そうになった。
もう少し楽しんでいたかったが少し可哀想になったので


「ウソだよ、氷織ひおりちゃん。
じゃあ友達の証として握手をしよう」


「はい……よろしくお願いします」


少し笑いながら僕とガレア両方と握手をした。


(次は天涯駅―、天涯駅―)


【おっ着いたようだね。降りるよっ】


バスから降りるとまず目についたのが天涯教の看板だ。


ようこそおかえりなさい 天涯教


おかえりなさいってなあって考えて周りを見ると


信者詰所電話番号一覧


とかもあった。
何か変わっているなあって思っていたらヒビキが


【ホラ、行くよ】


スーパーに向かうようだ。
行く先々で色々な人から声をかけられた。


(天神様こんにちは)


(大天神様、お元気ですか?)


なるほど、周りの反応を見ていると、ヒビキが天神様で氷織ひおりが大天神様なのか。
氷織ひおりも手馴れたものでまるで皇族のように手を振る。
僕が呆気に取られていると


【驚いたかい? 最近じゃまわりはこんな感じだよ】


「ヒビキも天涯教に関わっているんだね」


【一応ね。
氷織ひおり一人じゃ不安だしね。
仕事の無い時は協力してるのさ。
アタシは天神様だってさ】


ヒビキは少し恥ずかしそうだ。
白の王って呼ばれてるのになあって思ったよ。
そんな会話をしている内にスーパーに辿り着いた。


【じゃあ氷織ひおり、牛乳とゴボウと……
竜司、嫌いなものはあるかい?】


「いえ好き嫌いは無いです」


こうゆう気配りを見ていると普通の主婦だ。
ヒビキがとても竜とは思えない。


【いいね、好き嫌いの無い男の子はおばさん好きだよ】


ヒビキはそう笑っている。
じきに氷織ひおりが食材を入れたワゴンを転がしてきた。


【あ、氷織ひおりこの鶏肉は傷んでいるね】


【ばかうけ買ってくれよう】


二者それぞれの会話だ。
僕は別でばかうけを探すことにした。


「ばかうけ……あった……え?」


僕は少し驚いた。
何がってばかうけの味のバリエーションが増えていた。


ばかうけ大学芋味。
ばかうけじゃがバター味。


「ガレアどうする?」


【全部】


即答だ。
コイツはばかうけさえあったら何でもいいんじゃないのか?
とりあえず、各味三袋づつ。合計九袋購入。


【竜司、アンタ何だいそのばかうけの量は?】


「いえ……これ全部ガレア用です……」


【やらねえぞ】


コイツは感謝って知らないのか?
僕がやれやれって顔でガレアを見ていたらヒビキが


【竜司、アンタもタイヘンだねえ】


まさか竜に気を使ってもらえるなんて。
買い物を済ませた僕らは氷織ひおりの家を目指した。
スーパーから五分ほどの所にあるタワーマンションがそれだという。


【ここの十二階だよ】


家に上がる僕ら。
さすがタワーマンションってだけあって家は広かった。
本棚には


初めての日本語
サルでもわかる日本語


など日本語の本が並んでいた。


【さあ、くつろいでくれよ】


買い物袋をキッチンに持って行ったヒビキは料理開始。


僕とガレア、氷織ひおり
僕は打ち解けるために話しかけてみた。


「そういえば氷織ひおりちゃんのスキルってどんなの?」


「私のは氷消瓦解オーバークーリング……
液体ならなら何でも過冷却状態にするの……」


「過冷却ってあのTVとかでやってる水が摂氏零度になっても凍らないってやつ?」


「……そう……」


僕はある疑問がわいた。
それは人体、いわゆる血液も可能なのかどうか。
ただこの子を怖がらせるのは忍びないと思い、話すのを止めた。


「そうなんだ、凄いね」


僕のその場繋ぎの受け答えを氷織ひおりは好意的に受け止めたようで何も言わないが俯いて笑っていた。


氷織ひおりちゃん、カンナちゃんがどんな子か知りたい?」


やはりこの子は同い年ぐらいの竜河岸の友達が欲しいのだろう。
急に目を輝かせた。


「うん!」


「カンナちゃんはねえ、元気のある活発な女の子だよ」


「ふんふん」


僕の話に熱心に食いついてくる。


「赤毛のツインテールの髪型で……ッフフフ……あとねえ、走るとよく転ぶんだよ。何にも無い所で転ぶんだよ」


「なあにそれ」


氷織ひおりが笑った。
会って初めて見た笑顔だ。


「それでね、転ぶ時も可愛くてにゃーって言っちゃうんだよ」


「何それ可愛いフフフ」


氷織ひおりが笑った。
良い笑顔だ。
今は無理かもしれないが笑顔でいればいいのになあ。


氷織ひおりちゃん、笑顔だとすっごく可愛いよ」


僕は感じたままを伝えた。
が、氷織ひおり


「はっ……何を当たり前の事を言ってるんですか」


また普段の氷織ひおりに戻ってしまった。


「カンナちゃんと……仲良くなれるかな……?」


「大丈夫だよ、カンナちゃんは良い子だから。
ねえガレア?」


【そうだな、カンナはナリこそちっこいが頑張る奴だ。
何だ? 氷織ひおり、お前カンナと友達になりたいのか?】


「……うん……」


【お前暗ぇから無理かもな】


ガーン


そんな音が聞こえてきそうな程ガレアのKYな発言に動揺した氷織ひおり
アワワアワワとなっている。


「こらガレア、お前はもうちょっと言葉をだな……」


アワワアワワが収まらない氷織ひおり
今にも泣きだしそうだ。
僕はすかさずフォローを入れた。


「大丈夫だよ氷織ひおりちゃんっ!
大人しい子だなって思われるかもしれないけど、ちゃんと仲良くなれるって!
そんな事でカンナちゃんは嫌いになったりしないって」


「……ホント?……」


不安そうに僕を見つめる氷織ひおり
やはり十一歳の女の子なんだなあって思ったよ。


【はいはーい、そろそろ出来るよ、氷織ひおりっ準備しとくれ】


キッチンから土鍋が運ばれてきた。
な、何かデカい。
相撲部屋かと思うぐらい鍋がデカい。
土鍋の中は白濁色のスープが並々注がれ、鳥や野菜などがグツグツ煮えている。


【さあ、食材もたくさんあるからどんどん食べとくれよ】


「はい」


とは答えたが全部食えるのか不安だった。


「あ、ガレア、ガレアの分は僕がよそってあげる」


箸が使えないガレアの為に、鍋をよそってやった。
割と大量に。


【サンキュー竜司】


僕も自分の分をよそった。


【では皆さん、手を合わせて……】


「いただきます」


驚いた事にガレアはいただきますという言葉は知っていたようでちゃんと言えたんだ。


鍋を一口。
これがなかなか美味い。
牛乳がコクを出しゴボウが味に芯を与えている。
あっさりしているのに深い味わいでいくらでも食べれる感じだ。
美味しいのでもう一口と言った所で


チョイチョイ


僕が振り向くとガレアがニコニコしながらお椀を僕に差し出している。



【竜司これ美味いな。おかわり!】


僕は自分の箸を止め、またガレアによそってやった。
さあ、僕も食おう。


【おかわり!】


僕は箸を止めガレアによそう。


【おかわり!】


ガレアによそう。


【おかわり!】


僕はひとまず食べるのをあきらめた。


###


「さあ、今日はここまで」


たつを見ると少し涎が出ている。


「パパッ飛鳥鍋、僕も食べたい!」


「じゃあ、明日作るようママにお願いしておこうか?」


「やったあ!」


さあ、今日も聞いてくれてありがとう……おやすみなさい




バタン

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