ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第三十話 ガレア宗教を知る。

「やあ、こんばんは。今日も始めて行こうか」


「パパー、今日は奈良だねっ奈良って大仏がある所でしょ?」


たつ、良く知っているね。そうだよ」


###


(終点奈良駅~奈良駅~)


とりあえず当座の目的地に着いた僕。
まず降りて考えた事。
これからどこに行こう。


蓮や元とカッコよく別れたのに、いざ一人になってみると何をしていいやらわからなくなる。


【なあなあ竜司。ここはどこだ!? 何があるんだ?】


「ここは奈良って所で……何があるだろ……大仏とお寺かな?」


【何だ? ダイブツって?】


僕は歩きながらガレアのキョトン顔を見ていた。


「大仏ってのは大きな仏像の事だよガレア」


【ブツゾウって?】


ガレアキョトン顔。
まあそうなるわなって思いながら説明を続けた。


「仏像ってのは仏教って教えの中で出てくる仏を形どった像の事だよ」


【ブッキョウってホトケって何だよう!
色々新しい言葉ばっか並べんじゃねえよ!】


「わかったよガレア、全部教えてやるから」


【絶対だぞ!!】


僕が向かった先は駅前の観光窓口だ。


「すいません、大仏のあるお寺まではどうやって行ったら……」


(ありがとうございます。地図をお渡しします)


地図をもらうと同時に腹の虫が鳴った。
午後十二時半
お腹も空くはずだ。


「すいません、奈良の食べる物で名物ってありますか?」


(あるでぇ、奈良は美味いもんだらけやからな)


奥の頭が剥げた中年の男が話しかけて来た。
態度がフランクだ。


(昼は吉野うどん! 夜は飛鳥鍋で決まりやな)


「わかりました。ありがとうございます。ガレア行くよー」


観光窓口の人たちは僕とガレアを物珍しそうに見ていた。
そんな珍しいものでも無いだろうに。


そして、一軒の店に辿り着く。


吉野本葛 天源堂 奈良本店


(いらっしゃい、あらお兄さん竜河岸たつがしさん? 珍しいわぁ)


おっとりとした女性のウェイトレスが僕らを席まで案内する。
僕はメニューを見た。


吉野うどん。
これだな。


「ガレアはどうする?」


ガレアはその長い首を使って覗き込んだ。


【これっ冷やし吉野うどんっ! いっぱい食いたいっ】


「すいませーん、吉野うどん一つと冷やし吉野うどん……
これってうどんだけ三倍ってできますか?」


(ああ、ええですよ)


待ってる間にガレアに説明する事にした。


「ガレア、さっきの質問だけど、仏教ってのは人間が迷った時指示してくれる教えの事」


【学校みたいなもんか?】


ガレアは時々こうゆうかすった事を言って来る。


「そうだね。
ものを教えてくれるって点は共通する所があるかも知れないけど、仏教は何だろ……
死んだらどこに行くかとか、天国に行くにはどうしたらいいのかとか教えてくれるのかな?」


【死んだらどうなるって風化するだけだろカーチャンみたいに。
そんでテンゴクって何だ?】


「天国ってのは死んだら行くところって言われてるよ」


【死んだのに行くところがあるのか? それって死んでねーじゃん】


どんどん話がややこしくなる。
と思った時


(はいお待ちどうさん、吉野うどんと冷やし吉野うどんです)


冷やし吉野うどん。
三倍とはこうも山盛りになるのか。


(この冷やしうどんはこっちの竜ちゃんのとこでええのん?)


「あ、はい」


ガレアの前に置かれたうどんを見て不思議そうに首を振るガレア。


(ほんま珍しいわぁ。ウチ竜なんか実物見たん初めてやし)


「え? でも竜河岸たつがしがいれば大体竜もいるでしょ?」


(それがねぇ、奈良県って竜河岸たつがしがほとんどおらんのよー。
見ずに死ぬ人もおるって話やで)


僕は合点がいった。
だから観光窓口の人が珍しがっていたのか。
それに大阪では駅にちらほら竜が居たのに奈良に着いてからは一度も見かけていない。


(確か天涯市に何人かいるって言ってたわぁ)


【竜司―、これどうやって喰うんだよー】


「あ、ゴメンゴメン。これはねお箸で……」


待てよ?
ガレアのゴツイ指でお箸なんか持てるのか?
試してみるか?
ええいめんどくさい。


「……ガレア……その山盛りになってるうどんを手で掴んで隣の茶色い汁に付けるんだ。そして喰う」


【ふぅん、じゃあ……】


ガサッとうどんをとるガレア。
ベチャッとタレにつける。


【うわっ何かネットリとしてて気持ちわりぃなあ】


この吉野うどん。
タレに吉野本葛が使われているらしくドロッとしてる。
そのまま口に運ぶガレア。


【あ、でも結構美味い】


そこそこ気に入ったようだ。
食べ方は汚かったけどまあいいか竜だし。
僕はそう思った。


【うまうま……あ、そうだ竜司。
ホトケって何だよ。教えてくれよう】


「仏っていうのはさっき言った天国にいる偉い神様の事だよ」


【わっかんねーなぁ人間って。
死んだ後に行く所があって?
そんでそこにはカミってやつがいるの?
何してんのそいつらって】


「さあ? 人間を監視しているとは言われているけどね」


【監視? 何で?】


「人間を監視して良い事をしている人は死んだら天国に連れて行って、悪い事をしている奴は地獄に連れて行くんだよ」


【ジゴクって?】


ガレアのキョトン顔はまだ続く


「地獄っていうのは罪を犯した人が落とされる所。
針の山だったり、釜茹でだったり、血の池だったりいろいろな責め苦を味合わされるところだよ」


【どうやったらテンゴクって所に行けるの?】


「だからそれは仏教で説いている教えを守りなさいって事だよ」


【ムムム……わかんねぇ、竜司の説明の中で一番わかんねえ】


ガレアが悩んで首を左右に振る。
口元からうどんがピロピロなっている。


「僕もよくわかんないよ」


【要するにあれか。
カミって奴が死んだ人間をどうにかしてるって事?】


「まあそうだね」


当たらずともとうからじだったので僕は同意した。


【そんでテンゴクって所に行くための説明書みたいなのがあってその通りに人間って暮らしているって事か?】


「そうゆう事だね」


【竜司もか?】


「僕は無宗教派だからよく解らないけどね」


【ん?そのブッキョーって人間全員の説明書じゃないの?】


「それを信じる信じないは当人の自由だからね?
他にもイスラム教とかキリスト教とか色々あるんだよ」


【人間って何なの?
名前が違うって事は別の説明書だろ?
そんないくつも説明書あったらどれ信用していいかわかんねーだろ?】


「確かにそうだね」


ガレアは純粋なせいか核心を突く。


【こっちではあーしなさい。そっちではこーしなさい。
でないとジゴクに行くよって事だろ?
結局どうなりたいんだよ】


「何だろうね。
結局みんな幸せになりたんじゃないかな?
人間って生きてて満たされない人が多いから」


【こんだけ色んなもんがあるのにか? ケタケタやっぱし人間って不完全だなっ!】


「だから人間なんだよ。完全を追い求めようと進んでいくんだよ」


【うどんうめー】


少し良い事を言ったと思ったのにガレアはうどんに興味がシフトしていた。


僕らは食事を終え、大仏を見に行く事にした。


(いってらっしゃい、竜ちゃんも気を付けてなあ)


店の女性が手を振って見送ってくれた。


【竜ちゃんって誰の事だ?】


「ガレアの事に決まってるだろ」


僕らは歩きながらそんな話をしていた。
そんなこんなで辿り着いた。


東大寺 中門


【竜司でっけぇなあ、これ何で出来てんだ?】


東大寺を見上げたガレアが驚いている。


「多分木製だと思うよ」


【木製!?】


ガレアが更に驚いている。
確かに考えてみたら千年前に建てた木製の建物がずっと残っているのが不思議だ。
やはり人間の技術と言うのは凄い。


「さあ、中には入ってみようよガレア」


【おうっ!】


中に入ると大仏がお出迎えだ。
正直ここまで大きいとは思ってなかった。
当然だと思うが黙った顔で見下ろしている。


「な、何か凄いね……ガレア……」


【何か嫌いだ……こいつの目が嫌いだ……】


「でもこれも多分木製だよ」


【何!? そうなのか!? でもこんなデッカイ木なんて無いぞ!?】


「多分部分部分作ってそれを組み合わせてるんだと思うよ」


僕も大仏の作り方までは詳しくないので半ば適当に答えた。


【って事はこれ作った奴は出来上がりがこうなるって分かってたって事!?】


「そうなんじゃないかな?」


【……これっていつからあんの?……】


「確か奈良時代だから千二百年前ぐらいかな?」


【竜司……人間って凄いな……】


「うん、僕もそう思うよ」


僕は大仏殿を後にした。


すぐ近くに物凄く大きな原っぱがあった。
平日のせいか客もまばらだ。
僕はここで日課である魔力制御の練習をする事にした。
なるべく迷惑をかけないように隅の方に来た。


「ガレア練習付き合ってよ」


魔力閃光アステショットの練習か? いいぞー】


僕はまず空に浮かぶ雲に照準を合わせた。
撃とうとした時、僕は考えた。
空だから迷惑がかからない。
一度僕がやれるMAXで撃ってみようと考えた。
僕がイメージしたのは極太レーザー。


「ガレア、行くよ。口を上に向けて」


【はいよ】


ガレアが上を向いたのを確認した後、僕は叫んだ。


「ガレアー! シュートー!」


ギャンッ


ガレアの口から体の何倍もある閃光が上空に飛んで行った。
雲に当たるとその閃光を中心に雲が渦を巻いて四散した。
僕は余りの光景に絶句していた。


【あー気持ちいい。久々だなこんなに魔力を放出したの】


「ガレアってもしかして竜の中でも強いの……?」


【わかんねぇ、でも竜同士の争いで負けた事無いなあ】


僕はさっきの閃光を横に放ったらって考えたら寒気がした。


気を取り直して次だ。
次は絞ってみようと考えた。
でもグースとの練習の時みたいに煙だけでは駄目だ。
貫通させるのではなく木を抉るイメージ。


「よしガレア、次は僕の左手が指す方向を見て」


【はいよ】


魔力アステ……閃光ショット!」


僕は右手の人差し指を目標の木に向けた。


キュンッ……ボコン


出来た。
貫通せずに木が抉れただけだ。


「よし、ガレア、次は連続で行くぞ」


【はいはーい】


キュンッキュンッキュンッ


二本は命中。
そして最後の三本目が木に差し掛かる時。
女の子が木との間に立ち塞がった。


マズイッぶつかるっ
そう思ったら一人の女性が女の子の前に立ちふさがり身代わりに当たった。
すると、その閃光はカチカチに凍って下に落ちて割れた。


僕は急いで傍まで駆け寄った。


「すいませんっ! 大丈夫ですかっ!?」


【ちょっとちょっと! あんた達っ!
こんな所で魔力をぶっぱなすなんて何を考えているんだい!?
このスットコドッコイッ!】


その中年の女性は息巻いている。


「すいませんっ! 本当にすいませんっ!」


僕は深々と何回も謝った。


「ヒビキ……もういいよ、あたしびっくりしただけだし……」


【でも氷織ひおり……】


「ヒビキ」


【わかったよ……】


「……お兄ちゃんも竜河岸たつがしなの……?」


「そうだよ。
あ、僕の名前はすめらぎ竜司りゅうじ十四歳 竜河岸たつがしです。
そしてこいつは翼竜のガレア」


嘉島かしま氷織ひおりです。十一歳 竜河岸たつがしです。
そしてこの子は白竜のヒビキ……」


氷織ひおりはぺこりと頭を下げた。
銀髪のロングヘアが風に揺れる。
名前が示す通り肌も物凄く白い。
何処となく薄幸そうだ。


【アタシはヒルメイダス・ビ・キールムット。
氷織ひおりからはヒビキと呼んでいるよっ
竜界じゃあ”白の王”とか呼ばれていたねぇ】


ヒビキと呼ばれるその中年のおばさんは笑いながらそう言った。


###


「さあきょうはここまで」


「パパ、ガレアってもしかして物凄く強いんじゃない?」


たつが探るように効いてくる。


「でもヒビキは苦手だったみたいだよ。ガレアって結構苦手な竜が多かったなあ」


じゃあ、続きはまた明日……お休み




バタン

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