ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第十五話 竜司とスキル

「やあ、こんばんは。昨日の続きだね」


たつがスキルの事を楽しみにしているのは知っていたから
すぐに話を始めた。


###


僕は竜儀の式を終えた後、神社の中に入り木場さんから話を聞いた。


「さて、竜司君。
君は無事竜儀の式を終えたわけだが、まず君が出来るようになった事を教えよう」


「まず魔力を制御できるようになる。魔力については?」


木場さんが聞いてきた。


「はい、竜の力の源と……」


「そうその通り。
元々竜儀の式は大量の魔力を制御するためにグースの衆の長マザードラゴンが考えた対処策なんだ。
人間界で竜が暮らすためにね」


僕には初耳の事ばかりで戸惑っていた。


【マザードラゴンは人間と竜の安寧を常に考えていらっしゃるお方です】


とグース。木場さんも同意した。


「昭和初期、太平洋戦争期に世界各地にゲートが開き、大量の竜が人間界にやってきた。
人間同士の戦争も一時中断し、人間対竜の戦争に少しの間なったんだ」


こんな事は授業で習わなかった。


「戦争は竜の圧勝。
大勢の死傷者が出たよ。
そんな状況を見かねたマザードラゴンが人間に和平を持ちかけて来た」


僕は黙って聞いていた。


「和平の内容は人間文化への接触と提供。
そのころ竜界は衰退の一途を歩んでいたからね。
完全に竜に心を折られていた人間は和平を快く了承した。
人間は条件をいくらか提案したみたいだったけど、ことごとく却下されたらしい」


「それってどんな条件だったんですか?」


僕は疑問を投げかけた。


「魔力の研究・実験用の竜の提供とかだよ」


「うわぁ……」


僕は人間の浅ましさみたいなものを垣間見た気がした。


「でもマザードラゴンはそんな事飲むはずもなく。
島が一,二個消えて人間側が条件を撤回したんだ。
何とか条件として飲んでくれたのは人間界の歴史に関わる事は触れないだったかな?」


「そして考案されたのが竜儀の式で魔力の手綱を人間に委ねたと……」


僕は竜儀の式を理解した。


「君はもうガレアの魔力の制御が可能だ。
もちろん全てコントロールするにはまだまだ練習と経験が不足している」


「練習ってどうやれば……?」


「要はイメージトレーニングだね。
あとは反復練習あるのみだよ。
最初のほうは失敗するけど焦らなくていいよ」


木場さんは優しく微笑みながらそう答えた。


「あとは固有スキルだね」


僕はピクッとなってしまった。
それを見た凛子さんはクスクス笑っていたよ。


「固有スキルっていうのはその人の性格や竜に対する気持なんかが反映されると言われている。
例えば凛子さんの流透過サーチ
あれは人を治したいって思った凛子さんの気持ちからとされている」


「私の流透過サーチはね、グースがどこにどれぐらいのどうゆう魔力込めているかがすぐにわかるの。それで魔力の量を調整して人を治してたってわけ」


確かに凛子さんにはうってつけの能力だ。


「じゃあ僕は!?」


僕は木場さんに食い入るように聞いた。


「じゃあやってみようか」


木場さんは奥から箱を持ってきた。
中にはゴツイ蝋燭と紙が入っている。


「じゃあ、竜司君。この蠟燭に火をつけて持ってくれるか」


蠟燭に火をつけそれを持った。
下で木場さんが紙を支えている。


「じゃあ、僕が合図したらその火を紙に近づけてくれるか。
その時思う事はガレアと何がしたいのかガレアとどうなりたいのかだ」


「わかりました」


僕は考えたガレアと……
色んなものが見たい。
色んなものを見て感じてガレアとずっと笑っていたい。


「よしいいぞ」


僕は火を落とした。
火は見る見るうちに紙を焦がしていった。


「ふむ、なるほど……わかったよ」


僕は唾を飲み込んだ。


「君のスキルは範囲補助だね。
ある一定の範囲の人間や竜を感知できる能力だ」


微妙。
正直僕はそう思ったね。


「名前は好きに付けるといい」


「この範囲って全方位ですか?」


「みたいだね、地下まで届くみたいだよ」


「全方位……オールレンジか……」


僕は少し誇らしくなった。


「決めました。僕のスキルは全方位オールレンジで」


「なかなかカッコいいじゃないの」


凛子さんに褒められると嬉しかったよ。


「固有スキルの注意点として初めは回数がそんなに使えないって点だね」


「私の流透過サーチも最初は一日二回が限度だったわ」


「ここぞって時にしか使えないって事ですね。
わかりました」


「じゃあ、竜儀の式はこれでおしまい」


「木場さん、今日はありがとうございました」


「いやいや、君も過去に負けないようにね」


「はい!」


【それではお疲れさまでしたー】


「ああ、ダリンも元気でね」


【社長あの事は……】


「ああ、それはいい。
それはおいおいわかる事だろうからね」


後ろでそんな事を言っていたが僕は気にも留めなかった。
自分に酔っていたからね。
僕の頭は全方位オールレンジを使いこなすようにならないとって思っていたよ。


僕らは凛子さんの家に帰って来た。
午後三時。
カンナちゃんはまだレッスン中だろうか。


「じゃあ、私は診療所に戻るわ。
何かあったらここに連絡を頂戴」


凛子さんから紙を受け取ったきれいな字で電話番号が書いてあった。


「わかりました。いってらっしゃい」


【イッテラッシィ】


「ガレア、また間違えてる」


「クスクス、じゃあいってきます」


僕は魔力制御の練習をガレアとする事にした。
グースにもお願いして。


【では竜司様。あそこの岩のみを砕くよう魔力を制御して見てください】


「イメージイメージ……」


僕はイメージした。
水滴が落ちるような絵を。


「ガレア! 行けっ」


僕は最初ガレアの口から閃光が出るものとばっかり思っていた。
しかし実際は


ポスッ


【あれ?】


ガレアの口から煙が上がっただけだった。


【なんじゃこりゃー!】


ガレアが喚いている。


【竜司様。
イメージするポイントが違います。
破壊するというイメージを持つことが大事です】


僕は勘違いしていた。蛇口から水が出るようなイメージなのかと。
次は大流が板を破壊するイメージを想像した。


「ガレア! いっけえ」


キュンッ!


次は閃光が放たれた。
が、岩もろとも地面をえぐり少し小さいクレーターが出来た。


【今度は破壊イメージが強すぎましたね】


ホント魔力制御は難しかったよ。
僕は薄暗くなるまで練習したよ。


【では今日はここまでにしましょう】


「はい……」


僕はリビングに戻った。
すると電話が鳴り、僕は受話器を上げた。


「もしもし」


「お前の娘を預かった。返して欲しかったら一億用意しろ」


僕は何を言ってるのか理解できなかった。


「聞いているのか?」


「ママー!」


後ろでカンナちゃんの声が聞こえた。
ヤバイ! これはマジだ! 瞬時に僕はそう判断したよ。


「どこに持っていけば……」


「甲子園港に続く第四交差点の電話ボックスに金を置け。
金を確認次第娘は解放してやる」


僕は冷静を装ってたが内心バクバクだったよ。


【竜司? どうした?】


受話器を置いた僕は緊急を二人に伝えた。


【なにぃ! ユーカイってあれだろ? アステバンでもあった!】


「そうだよ」


【とりあえず凛子に連絡を取りましょう】


僕は冷静さを取り戻し、電話で事の次第を凛子さんに告げた。


「わかったわ。診療所は閉めてすぐに戻るから待ってて」


凛子さんも焦っている様子だ。


###


「さあ、今日はここまで」


「ねーパパ、今はスキル使えないの?」


「今はもう使えないよ。使う理由もないしね。
確か使えていた頃の最高記録は半径二十キロだったなあ」


「パパ、カンナちゃんどうなんの?」


「どうなるんだろうね? この続きはまた明日」


おやすみ……
バタン

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