ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第十四話 ガレアと竜儀の式

「やあ、こんばんは。
今日は暑そうだったね」


「暑いの嫌い―」


たつは暑いのが苦手らしい。
野球やるのに大丈夫かな。
それじゃあ、今日も始めようか


昨日は……そうそう、確か竜儀の式をやる事に決まった所からだったね。


###


了承をガレアからもらった後、リビングに戻った。
凛子さんは今診察中だ。
僕はリビングでボーっとしていた。


頭の中はスキルの事でいっぱいだった。
僕のスキルはどんなんだろうってね。
氷とか炎とか出せたりしちゃうのかな?とかね。


え? 何だか元気そうって?
ああもちろん怖い気持ちもあったよ。
でも凛子さんもグースもいるし、やる前にガレアの逆鱗の場所を聞いておこうとも思ったしね。
超常の力を使う自分の事を考えてウヒヒと笑みがこぼれてしまってた。


「ガレアちゃん、竜司にーちゃん気持ち悪いね」


【ああ、カンナ気持ち悪いな】


「ああ、ごめんごめんちょっと考え事を……」


「ねー」


【ねー】


この息のぴったり具合がほんの少しイラッと来た。


「ただいま~」


直に凛子さんが帰って来て、昼食を取った僕らは身支度をし始めた。
そしたらカンナちゃんは駄々をこね始めたよ。
どうやら僕の式に同行したいらしい。


「いやだいやだ! わたしもいくーー! いくのーー!」


「しょうがないでしょカンナ。
今日はピアノのお稽古があるんだから」


「やーすーむーー!」


「それはママが許しません。
一日やらないとその分だけへたっぴぃになるのよ」


「カンナちゃん、凄いねピアノが弾けるなんて」


僕も凛子さんに助け舟を出した。


「え……そう?
もうねキラキラ星とかも弾けるんだよ」


カンナちゃんもまんざらではない様子。


「カンナ、今難しい曲を練習してるんじゃなかったっけ?」


「うん! めぬえっと!」


「へーメヌエットを練習してるんだ偉いね。
是非僕にも聞かせてほしいなあ」


カンナちゃんの顔がみるみる赤くなって手の平と顔をぶんぶん振り出した。


「だめだめだめっ! まだちゃんと弾けないのっ! ちょっと失敗しちゃうの……」


凛子さんが笑いながら


「なら、やっぱりお稽古を休むわけにはいかないわねえ」


凛子さんがパチリと僕にウィンクをした。
僕も察した。


「僕もちゃんとしたメヌエットを弾けるステキなカンナちゃんが見たいなあ」


「わかった……おけいこいく……」


凛子さんが柏手かしわでを打つ。


「それでこそ私の娘だわ。
じゃあ、今日ちゃんと行って来たら晩御飯はハンバーグにしてあげる」


「はんばーぐ!!」


カンナちゃんの大きい目が更に大きくなりキラキラし出した。
それだけ凛子さんが作るハンバーグは絶品なのだろう。


「じゃあいってきまーす!」


カンナちゃんがニコニコしながら大きく手を振っていた。


「いってらっしゃい車に気を付けるのよ」


「はぁーい」


「いってらっしゃい」


【何だ竜司そのイッテラッシィって】


「イッテラッシィじゃ無くていってらっしゃい。
家族とかを送る時に使う言葉だよ」


【ふぅーん、あ、そうか人間はテレパシー使えないもんな。
ケタケタやっぱ人間て不完全おもしれー】


ガレアは大きい口を開けて笑っている。


【ではカンナ様を送った所で我々も参りましょうか】


【ん? 誰だ……マ、マザーグース!?】


【お久しぶりですねガ・レルルー・ア】


【いえ、あなた様もお変わりなく……】


何かガレアの様子が変だ。


「ガレアどうしたの?」


そしたらガレアが顔を僕の耳まで寄せて


【前に言っただろ? 高位の竜ハイドラゴンが居るって。
俺たちは普通の竜だけど】


「名前もマザーグースって」


僕も耳打ちし返す


高位の竜ハイドラゴンってのは何個かの派閥になっていてマザーグースが居る処はマザードラゴン率いる「マザー」の衆だよ】


「とにかく偉い人ってわけね」


【アイツ怒ると怖いんだぞ。
そりゃ俺も死にたくないからかしこまるさ】


【ガレア、竜語は理解出来るもの全員の脳に直接響くもの。
耳打ちやボリューム調整は意味がないですよ】


【はっ! 申し訳ありません】


敬語を使うガレアに違和感を覚えつつ、グースは癒しの力なのに強いってどうゆう事だろ?
とかそんなこんな考えている内に素戔嗚すさのお神社に到着した。


「やあ凛子ちゃんいらっしゃい」


境内を掃除していたメガネをかけた優しそうな初老の男性が声をかけてきた。
袴姿からこの人が神主なのだろう。


「この子が……へえ」


僕の方をマジマジと見る。


「初めまして竜司君。
私はここの神主をしています。
名前は木場直光きばなおみつ竜河岸たつがしです」


すると木場さんの目が赤く光った気がした。


「……辛い過去がおありだったんですね」


僕がびっくりしているのを見た凛子さんから


「木場さんのスキルは過去透過パストスキャン
過去に会ったトラウマの出来事とかを見る事が出来るの」


と言う事は僕のトラウマの事も丸わかりと言う事だ。


「今日は竜儀の式でしたね。
私の竜にも手伝ってもらいましょう。
おーいダリン」


すると神社の屋根の方から一人の竜が空を飛んできた。


【ワタクシ、こうゆうものでして……】


短い手から紙切れが手渡された。そこには


株式会社 素戔嗚すさのお神社
営業課長 ダ・リングベル・ン


と書いてあった。


ダリンも今まで見た事ないタイプの竜で、全身は薄緑。
いわゆる蛇型っていうのかな? 中国の伝記に出るような竜だ。
髭も生えている。


【ワタクシ、この素戔嗚すさのお神社の従業員でして営業課の課長をやらしてもらっています】


「こらドリン、お客さんが戸惑っているじゃないか」


【社長! 大変失礼しました。
つきましては切腹で果てる所存……】


「わー大丈夫ですっ」


僕は慌てて止めた。


要するにドリンが好きな人間文化ってサラリーマンなんだろうなって思ったよ。
後、時代劇も混ざってるっぽい。


「じゃあ、始めようか。ドリン」


【はい社長、こちらでございます】


何やら大きな紙を持ってきたそれを地面に敷く木場さん。
なにやら読めない言語やら陣みたいなものが書いてある。


「これって……」


僕はたまらず聞いてみた。


「ああ、君が十二歳の頃にした式は簡易的なものだったんだろうね。
本来なら式はこんな感じで執り行うんだよ。
じゃあ、竜司君とガレア陣の上に立って」


その前に済ませておきたい事があった。


「ねえガレア、君の逆鱗てどこにあるの?」


【俺か? 俺は頭の後ろのコブだよ】


確かに頭の後ろにコブがある。
全然気がつかなかったよ。


【竜司、絶対触んなよ】


「わかっているよ」


陣の中心に来た僕とガレア。


「では竜儀の式を執り行う」


【はい社長!】


ドリンから白い光が出て、僕らに向けられた。
半径一メートルの白い発光円筒が空に向かって伸びていく。


「さあ、ガレアよ跪きなさい……」


木場さんがそう言うとすんなり言う事を聞いたガレア。


「竜司君、背中に乗りたまえ」


僕は恐る恐る背中に乗った思った以上に柔らかく座り心地が良いと思ったよ。


「よしそのまま……ドリン魔力放出をやめろ」


【はい社長】


白い光が止むと、白い円筒も消えた。
ガレアは正気に戻ったようだ。


【お!? おお!? 竜司今乗ってる!? 乗ってる!?】


「ああ、そうだよガレア……」


僕は泣いていたよ。
何の涙かはわからなかったけど。
こんな簡単な事が何故あの時できなかったのかとか。
ガレアだから出来たのかな? とか色々頭を回っていたよ。


返答しなくなった僕を案じてかガレアが首をこちらに向けた。


【どした竜司? っておい! なんで泣くよ!】


「うるさい……」


僕は涙をふくので精いっぱいだった。


【泣くなって! ほら、ばかうけまたやるから!】


「ガレアは慰める時いつもそれだね」


【だってばかうけ美味いじゃん】


【社長! これは順風満帆と言う事で不肖ワタクシが一本締めで〆たいと思います!
皆様お手を拝借……】


「ドリン、それはいいから」


木場さんがやれやれという顔をしていた。
でもその時の僕は違ったよ。


「いえ、やりましょう一本締め」


「クスクス、いいんじゃない?」


凛子さんも笑っている。


【さすがお得意様はわかっていらっしゃる】


「ほら、ガレアも」


僕はガレアから降りた。


【何だ何をするんだ?】


「こうやって合図が来たら……」


「まあ竜司君が良いというなら」


木場さんも観念した様子


【さあ、皆様ようござんすね? ようござんすね?】


ここに居る全員が準備完了。


【いよぉーおっ】


ポン! バン!


「あれ?」


確かに二回鳴った。


【ミスった竜司】


「しょうがないなガレアは」


この日も僕は笑って過ごしたよ。
言っただろ? 楽しい事しか思い出せないって。


###


「さあ、今日はここまで」


「むー」


たつがぶーたれている。僕は理由を聞いた。


「だってパパ、今日スキルの話するって言ってたじゃん!」


「ごめんね。明日は絶対話せるから。この続きはまた明日」


おやすみ……


バタン

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