ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第九話 代打ガレア

「やあ、こんばんは。
昨日はガレアが野球をやると決まった所までだったね」


「うん」


さあ今日も始めよう


###


もちろんすぐに出来る訳ではなくて、まず瀬戸さんからバッティングを教わる所からだ。
やはりガレアは頭が良いのかすぐに覚えていったよ。
僕の通訳を挟む形になったからちょっと苦労したけどね。


「竜司くーん。ほらガレアのユニフォーム」


「はいりますかね……?」


「ウチで一番大きいサイズなんだけどなあ」


「ちょっと待って下さい……ガレア!」


僕はガレアを呼びつけた。


【何だよ竜司】


「ほらガレアのユニフォームだよ」


【おっ! 何かヤキューって感じがしてきたじゃねえか!】


「ちょっと待ってね……小さいな、ガレアもう一回り小さくなって」


【はいよ】


ガレアの体がやさしい光に包まれて少し小さくなった。


「よしこれで入るだろ」


ガレアは早速ユニフォームに袖を通した。


これがねえ……馬子にも衣装とはいうけれど何か凄く違和感があってね。
ガレアって首が少し長くてしかも体が緑だし着させられてる感が凄かった。
角もあるんだけど幅が狭いから間に挟まってヘルメットが浮いてしまうし。


「ガレアちゃんへんなのーー!」


カンナも観客席で笑っていた。


【うっせい!】


ユニフォームを着たガレアに自主練をさせている間相手のピッチャーの攻略を瀬戸さんと考えた。


「ごらん竜司君」


とにかく球が速い。
いったい何キロ出ているんだ。
瀬戸さんの表情も浮かない。


「ものすごく速いですね……」


「そうなんだ、だからなかなか球に当たらない。しかも当たったとしても……」


バットに当たったが、見事に砕けてミットに入った。


僕は絶句したよ。


「そうなんだ。
早いだけなら合わせていけば何とか打てなくも無いんだけど、あの球たぶん球質が異様に重いんだ」


僕はここでふと疑問に思った。


昔アニメで見たことあるけど球質が重い球っていうのはキャッチャーもとるのに苦労するそうなんだ。
でもすんなり向こうのキャッチャーは捕っている。


あっけなく三者凡退。
向こうの攻撃だったがこちらのピッチャーの頑張りもあり何とか0点で終えた。


七回表 こちらの攻撃


トップバッターがあっけなく三振した後少し異変が生じた。
ヒットが出たのだ。
しかもいい当たりで三塁打。


「おおっ! 打った! 打ったでー!」


ワタナベさんも大喜び。
何故打てたのか。
僕も不思議だった。
僕が考えてる所に


「竜司にーちゃん!」


「わあっ! カンナちゃん?」


カンナちゃんと凜子さんがベンチまで来ていた。


「今打てたのが何故かわかる?」


凜子さんが微笑みながら問いかけてきたんだ。


「いえ……」


「そっかなるほど……
竜司君はまだガレアと竜儀の式はやってないのね」


「どうゆうことですか?」


僕は最初言ってる意味が解らなかった。


竜河岸たつがしはね竜儀の式を終えると魔力の流れを見る事が出来るの」


相手ピッチャーが投げる。
ストライク。
凜子さんの瞳の色が少し赤くなった気がした。


二球目。


バットが砕け、ストライク。


「今向こうが投げる瞬間球に魔力が込められたわ。
そしてバットが砕けた瞬間一気に小さくなった」


三球目


空振り三振


「今もキャッチャーが捕る瞬間。
魔力が小さくなった。
私、野球は全然詳しくないからこれが何を意味するか分かる?」


僕は考えた。
あくまで仮説だが、球質を魔力でコントロールしていると考えた。
まずリリースする時に魔力を込めて球質を重くする。
そしてバットが折れた後魔力を無くし球質を軽くする。


「でも凜子さん、あれだけ早い球の魔力制御なんて可能なんですか?」


「あの東雲しののめさん、人間的には残念だけど竜河岸たつがしとしてのレベルはかなり高いわよ。
でもそんな高速での魔力制御なんてかなりの集中力がいるはずだわ」


「じゃあ、さっき打てたのは向こうの魔力制御が失敗したからって事か」


向こうベンチの方をよく見ると東雲しののめさんが脂汗をかいて息切れしている。
七三頭もバラバラに荒れている。


「そう、長くは持たないって事ね。
でもそこまでしてショッピングモール建てたいのかしら?」


すると


カキン


こちらがまた打って何とか一点を返した。
四対一
七回裏 何とか0点で抑える。
八回は両方とも0点で終了。


最終回となった。
先頭打者、次の打者、そして次々ヒットを打って満塁となった。
東雲しののめさんはもう限界なのだろう。


すると瀬戸さんが吠えた。


「ここだっ! 代打ガレア君!」


向こうはこちらサイドを完全に舐めきっていたらしくどよめきが凄かった。
たまらず東雲しののめさんがやってきて


「ちょとまてくーださい! 何でーすかその竜は!」


「何かおかしな事でも? 竜博愛の東雲しののめさん?」


瀬戸さんがドヤ顔で答える。


「ぐっ……」


東雲しののめさんはすごすごとベンチに引き下がった。


「ガレア」


僕は相手のやり方を伝えた。


【ふうん、ならこっちも魔力をバットに込めればいいんじゃね?】


ガレアはそう言ってたけど、何せスポーツというものに初めて触れるわけだし、心配は尽きなかった。
いくら魔力を込めたとしてもバットに当たらなければ意味が無いわけだし。


ガレアがバッターボックスに立つとカンナが大声を出し始めた。


「ガレアちゃーん! そんなウンコ色の竜なんかやっつけちゃえーー!」


若干僕は引いた。


「こらカンナ、女の子なんだから」


一球目 空振り ストライク


やはりあの剛速球を充てるのは至難の業のようだ。


二球目 空振り ストライク


「ぬぬぬぬぬ」


カンナが苦虫を噛んだ様な顔をしている。


三球目 ピッチャー投げる。


「ガレアちゃーーん! 打てーーー!」


カンナの応援が届いたのかガレアの目が光った気がした。


ガン


打った球はそのまま抜けるような青い空へと消えていった。


「いやったーー!」


「ガレアちゃん! かっこいい!!」


こちらのベンチは大騒ぎ。
ガレアはその場所から動かない。


【……ふふふ……はっはっは! どうだ見たか俺様の野球を!】


「ガレアー何やってるんだ。回ってくるんだよー」


ガレアは一周回って戻ってきた。
みんなガレアにペタペタ触っている。


「すごいやんけ! お前見直したわ!」


ワタナベさんも大きい口を開けてご満悦だ。


【何言ってんだ! 当たり前だろ?】


「えー、皆様の応援があったればこそだと申しています」


何か横柄な外国人の通訳の気分だったよ。


そしてゲームは三対四 こちらのリードで進む。


最後の打者は空振り三振。
向こうの竜や東雲しののめさんに動揺は見られなかった。


いよいよ最後。
ガレアはセンターを守ることになった。
キョトン顔で向かったのが若干気になる所ではある。


試合は先頭打者ファーストゴロでアウト。
次打者はショートフライでアウト。


「あっとひとり! あっとひとり!」


自軍ベンチが騒ぎ出す。
しかしここで向こうの竜がバッターボックスに立った。


ピッチャー投げた。


ガン


球は高く舞い上がり完全にホームランコースだった。


「何やてーー!」


ワタナベさんも焦りだす。
すると


パシッ


ガレアが空を飛んで普通に捕っていた。


【えっと確かボールを捕ったら投げるんだったな】


キョンッ


上空から閃光が飛来し、ホームベースあたりに直撃。
物凄い音がして砂煙が舞った。
やがて晴れると小さなクレータが出来ていて、真ん中にへしゃげたボールがあった。


「ア……アウト……でいいのかな?」


主審も戸惑っている。


【竜司―これでいいんだろー?】


ガレアが上から叫んでいる。


「このアホガレアーー! 投げなくてもいいんだよーー!!」


【えっ!? そうなの!?】


「少しは加減しろー! このバカガレア!」


【何だよちぇっ……】


ぶーたれながらガレアが降りて来た。
降りたガレアを最初に出迎えたのはカンナだった。


「ガレアちゃん! 凄かったよ! カッコ良かったよ!」


ブンブン赤い髪を回しながらガレアに賛辞を贈るカンナ。


【だろ? 見たか! 俺様の実力を!】


「最後のれーざーびーむも凄かったよ! あれカンナにも出来るかな?」


【おうよ! ただすぐには出来ねえぜ! 一に修行! 二に修行だ!】


ちなみにアステバンはスポ魂要素もある特撮で修業シーンが度々入る。
そこから引用したのだろう。


「わかった! ぬぬぬぬ……」


元気に答えたカンナは両手を合わせ熱心に祈っている。
滝行の真似かなと思ったよ。


そして試合終了。三対四でこちらの勝ち。
最後に向こうの竜が話しかけてきた。
少しびっくりしたよ。


【まんずー凄いの 俺の名はアレレ 次さ会うどきはもっど練習して負かしてやらかきやの】


「まんず……?」


「コラ! アレレ! 竜河岸たつがしがいるとーきは、方言をーひかーえなさいといつも言ってーるだろ」


最後にわかった事だけど、このカラシ色の竜はアレレ。
多分方言が気に入ってるんだろう。
東雲しののめさんに付いてるぐらいだから性格悪いのだと勝手に思い込んでいた。
ちょっと可愛いなあと思ってしまった。


「おぼえーてなさいっ!」


捨て台詞を残し、関連書類を置いて東雲しののめさんは去って行った。


「さあ! 帰って打ち上げだー!」


瀬戸さんが拳を上に上げた。
僕はこうゆう皆で何かを成し遂げるって事を体験した事が無かったから、凄く新鮮で自然と笑っていたよ。
あんな事件を起こした僕にこんな気持ちの良い日が来るなんてってね。


###


「さあ、きょうはここまで」


「パパー打ち上げってなにー?」


「要するにパーティの事だよ。
お祝いだからね」


「いいなー」


「君も直に体験するだろう。
その時もみんなで拳を上に上げてみるといい」


さあ、今日はここまで……続きはまた明日……おやすみ……


バタン

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