No title_君なら何とタイトルをつけるか

天ノ

雲砅②

小雪が降り積もり始め、ハイネは屋敷へとやってきた。
「なっ…!」
出迎えたグレイの姿をみてハイネは驚いた。
「その怪我は…?」
「まぁ色々とありまして。お気になさらず」
「そうもいかないだろう…話を聞こうか?」
「いえ、お時間が無いので食事会を早く開きましょう」
「…少しだけでいい。時間をくれ」
「……はぁ、分かりました」
誰もいない廊下でグレイはハイネに怪我の事を話した。
「…また怒られたんです」
「そうか…怪我は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、ご心配なく」
「……グレイ。君が良いなら僕の屋敷で使用人をしないか?」
「それはとても面白そうな話ですね」
「じゃ、じゃぁ…」
「ですが、」
グレイを救おうとしたハイネの言葉は消された。
「ですが…、私は行きません」
「どうして?」
「…行けないかもしれないからです」
真剣なグレイの顔をみてハイネは諦めた様に俯いた。
「そう…か…」
「…ハイネ、ありがとう。貴方は私の神様です…私の求める物を貴方は見せてくれる」
「…神なんて存在しない…!君も良く分かっているだろう…?存在しても、神は人の味方なんかじゃない。自身の名誉のために働くクズだ…大切な時に神は人を裏切る。そんな事があるくらいなら神はいらない。存在なんてしない」
「…御免なさい」
「……」
殺気の入ったハイネの瞳は酷く悲しみに溺れていた。
「す、すまない…取り乱してしまった」
「…お父様達が待っています。行きましょう」
「あ、あぁ…」

静かに食べ進めるグレイ、雲砅夫妻と賑やかに会話するハイネの時間はあっという間に過ぎた。深夜近くになり いつの間にか屋敷に泊まる事になったハイネは就寝した。
静まり返った屋敷でグレイは動いた。息を殺すようにリビングへと歩み寄るとお父様とお母様が世間話をしながらお酒を飲んでいた。その様子をグレイは両親の背後に立ち見ていた。気配に気付いたお母様が小さな悲鳴をあげた。
「ヒッ…」
「…」
「どうしたんだ桜来?」
お父様は睨みつけるようにグレイを見つめた。
「なんだお前は。どうしたんだ?何の用だ…」
「…」
「黙ってないで何か答えろ!どうしたんだ!?」
「……」
「お前…!なめてるのか…!?」
私の首を掴んだお父様は首を絞めてきた。
あぁ…これが人間か…
私はポケットから拳銃を取り出しお父様の額にあてた。

気付けばお父様は床で倒れて、血が床に広がる光景をお母様は震えながら見つめていた。そんなお母様に私は拳銃を向けた。
「や、やめて…許して…!!」
2発の銃声に起きてきた使用人達にはリビングへ飛んで来た。だが使用人達も私が手を少し動かしただけで倒れた。リビングは血生臭い匂いに覆われていたがやがて灯油の刺激臭まで混ざり始め、裸足で血の海となった床をぺたぺたと私は灯油の入ったタンクを持ち1階の廊下まで歩いた。空となったタンクを捨て私は2階に向かいハイネを起こした。
「…ハイネ」
「…ん?…こんな夜中にどうしたの…?」
「人を殺した」
「……え」
ハイネは目を見開いた。グレイは血だらけで足は真っ赤だった。
「危ないから屋敷を出て欲しい」
「…わかった」
まるで自体を予測していたかのように冷静なハイネを私は寒い夜の外へ出した。
「グレイ…?」
「御免なさい…私は戻る」
私は扉に鍵をかけて外から入れないようにした。ハイネは私を戻そうと声を荒らげながらも叫び、扉を叩いた。そんな様子も気にせず私は使用人6人と両親のいるリビングに火をつけ、2階の自室に寝転んだ。清々しい気分だった。目障りな物が全て消えた時のスッキリした気持ち…。焦げ臭く、変な刺激臭と煙が漂ってきた。段々煙が濃くなってきて扉の隙間からは炎の光が差し込んでいた。
「グレイ…!!」
グレイは起き上がった。廊下は既に炎の海、そんな中 ハイネは部屋の扉を開けようと蹴り飛ばした。扉はあまりにも脆く感じるほどボロボロに壊れ 開いた。私の視界には今 炎に囲まれながらも手を伸ばしているハイネの姿があった。
「どうして来たの…私の罪は許されないんだよ?罪償いとして死ぬべきなんだ…」
「君は許されない!…だけど、死ぬんじゃなくて自分の犯した罪に苦しみながら生きろ!…それが神が与える君への罰だ」
「…神はいないと言った」
「僕が君の神様になる。今決めた」
「…」
「さぁ、行こう。ここでは君への罰は与えられない」
私はハイネの伸ばした手を握った。
泣きじゃくるグレイの手をハイネは引っ張り天井まで燃え上がる炎の中を走り咳き込みながらも進んでいた。階段を降り外までもう直ぐの時、炎の中から人影が現れた。足元が燃え 顔には酷い火傷、腹部からは血が垂れ出ていた。
「…っガキが!許さない…!」
女の使用人は果物ナイフを片手に持ちグレイに襲いかかった。私はハイネを突き放し ナイフをギリギリで避けた。が、グレイの髪の片方が落ち、赤いリボンが静かに燃えた。
「…」
女は崩れ倒れ起き上がる事は無かった。
「大丈夫か…?」
「…はい」
ハイネの元へ戻ろうとした瞬間 天井が崩れ落ちた。
気が付けば私はハイネを押し倒し腕で崩れ落ちてきた柱を止めていた。焼けている柱は熱く、私の皮膚を痛めつけてきた。
「…っ!」
「す、すまない。僕のせいで…」
「ハイネのせいじゃない。さぁ…出よう」
腕は大火傷し血が滲み出て皮膚が焼けかけていた。扉の外れた玄関を出ると夜空が不気味なくらいに綺麗だった。
「…た、助かった」
ハイネが安心したように雪の上に倒れ込み、グレイは座り込み燃えていく屋敷を眺めていた。
「ハイネ…私はこれからどうやって生きていけばいいのだろうか?」
「君は生きていないよ」
「え…?」
「君は人間に殺された。でも幽霊ってわけでもない。中途半端だ…だから自由になれ。何も君を縛る物はもう無い…好きにしたらいいさ」
「…それが罰?私は死にたい…生きる事が罰だというのなら仕方がない…」
「そうだよ、生きるんだ」
「私は…ハイネの傍に終わりの日までいる。いや、ハイネを命懸けで守る」
「うん……っえ!?」
遅れた反応でハイネは驚いた。
「好きにしろと言った」
「え…いや、そうだけど…」
「私は私の神様を守るの。…だから私の罰が無くなるまで居なくならないでね」
「…はぁ。僕が死んだら君はどうするの?」
「死なせない!…けどもし駄目だったら、その時は…分からない…」
グレイは俯いて雪を握り締めた。
「まだ何も知らない子供だなぁ…」
「ハイネは子供じゃないの?」
「んー、未完成な大人!」
夜明けがくるまで寒い外で2人は語り続けた。燃え上がる炎の熱気を頼りに寒さを紛らわせたせいか翌日、迎えに来たハイネの使用人が屋敷の様子と事態に驚きながらも風邪をひいたハイネと引き取られたグレイを連れて新しい居場所へと帰った。

「雲砅家の屋敷、火事で全焼。8人の焼死体が発見!」「雲砅家の長女行方不明」「消えた雲砅家」「雲砅グループ崩壊!」「SLS胡蝶ヶ丘学園の学園長 死亡。緊急退任、新しい学園長へ」「陸上団 団長、夫婦 使用人もろとも死亡」「消えた名家」昨夜の事が朝になると大ニュースとなっており街中はザワついていた。真っ黒になり、破れたりしていた赤いワンピースドレスは捨てられ新しい衣服を用意されていた。黒いワンピース、初めて女性らしさを感じない、雲砅家の者らしさを感じない物を着た私は少し嬉しかった。
「…風邪大丈夫かな?」
不安になったグレイは部屋を出てハイネの部屋へと訪れた。そこには椅子に座って本を読んでいるハイネがいた。
「どうした…?」
「風邪は大丈夫なの?倒れるほど酷かったじゃないか…」
「もう大丈夫だよ、こうみえて丈夫なんだ」
「…ふーん」
「信じてないだろぉ?」
「ふふふふ、元気そうでなによりです」
微笑むグレイを見てハイネはグレイの火傷した腕をみた。手の甲まで包帯が巻かれた腕は長袖で隠れてはいるが包帯を取れば火傷の跡が酷く残るような様子だった。
「…すまない。女性に怪我をさせるなんて…しかも一生残る傷跡だ」
「気にしないでください。傷跡なんてこれが1つじゃないんですから」
「しかし…!はぁ…本当にすまない。謝って済むものじゃないよな…」
「ですから、気にしないでください」
「いや、責任は取らせてくれ」
「えー…」
悲しそうにするハイネを見てグレイは困ったように言った。
「僕さ、春になったら海上団に入団するつもりなんだ…」
「え…軍人。両親は許したのですか…?」
「反対されたよ?…けど最高位につく事を約束したら許してくれた。海上団の団長になるってね」
「わ、私も海上団に入団する…!」
神を守るために。と決心した私は勢い余って海上団へと入団する事を決めた。が、入団試験が終了した今ではどうしようもなかった。
「お父様に海上団へもう一度試験を行ってくれないか取引きして貰おうか…」
「…!?ありがとうございます」
「けど、試験は簡単な物じゃないし…僕は特別進級だったから傍に居る事ができるかは君の力次第だよ」
「私を甘く見ないでくだい。その気になれば国だって取ってみせますよ」
グレイはニヤけて手遊びをし始めた。ハイネは行く末が心配そうながらも幸せを願って微笑んだ。
「…そうか。期待してるよ」
「はい…」


 
5年前の海上団は荒れていた。
先代による軍資金の大量消費、休みもろくにない日々、基地内の様子は乱れていた。そんな中 入団したハイネとグレイ。
「特別進級兵、リアム・ミラー」
「はい」
「新特別進級兵、ハイネ・スピリト」
「はい」
「准特別進級、サラ・グレイ」
「…はい」
「優秀兵、アイク・ザック」
「はい」
4人の姿はゆっくりと先代の前へと跪き誓いの言葉を発した。
「我々は海上団へ忠誠の意を込め、此処に誓う」



グレイはハイネとの過去について話した。入団後の2組の仲。真夏に着る暑苦しい着物は傷跡を隠すため。小説に書いた人物。全てを話し切った。
「…つまらないだろう?」
「いえ、お話を聞けて良かったです。指揮官、自分も団長の事 守りたかったんです…守れなかったのが悔しくて…辛くて…」
「君が弱気になるのは困るなぁ…私の意思をどうにかしてくれるんだろう?頼むよ」
グレイはヴェルザの頬を摘まんだ。
「…っい!い、痛いです」
「しっかりしてくれ…君だけが頼りなんだ。私の神様を連れ戻して…皆の団長を連れてきて」
「は、はい…」
驚きながらもヴェルザは応えたのだった。

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