No title_君なら何とタイトルをつけるか

天ノ

裏舞台

海風が心地いい日 1人の赤い目をした少女をハイネは見ていた。
「…赤眼なんて物騒な者だな」
「どうされました?」
アイクはハイネの独り言に気付き反応した。
「いいや、何でもないよ。…僕は艦内に戻るよ」
「え!それはさすがに…団長としての挨拶がこの後あるんです…が…」
「大丈夫。グレイが何とかするはずだよ」
ハイネの戻って行く姿はアイクを振り返る事は無かった。扉が閉まると同時に艦が大きく揺れ団員達は体制が崩れ、煙で咳き込む者もいた。
「いやぁ…御免ね?」
呑気なグレイの声は明らかに場違いだった。
そんなグレイに対して容赦無く怒鳴るイグニスの姿や遠くから拝見しているアイやメコ アイク リアムがいた。
「あの武器 メコが作ったんでしょ?後でイグニスに文句言われるわよ」
「はははは、でも凄いだろ?あの威力は誇れる程の自信作なんだ」
「はぁ…サラとメコの相手をするイグニスが可哀想だわ」
呆れ気味にアイは倒れている団員達を看護しに去った。

「副団長…確か妹殿が入団するそうで?」
「…あぁ、そうだな。アイク 」
「はい?」
「私はいつまでもこのままなのだろうか…」
「…それにお答えする事は出来ません」
「……小賢しい彼の人が私は嫌いだ」
リアムの憎しみに溢れた目は嫉妬や悲しみ、怒りが確かに見えた。
「あの計画が成功すれば副団長の望みが叶うとは限りませんよ…副団長の本当の望みは!」
「黙れ…喋り過ぎだ」
「…っ!申し訳ございません」
リアムはそれ以上何も言わず艦内へ去って行くと司令室へ入った。そこには1人 青年の姿が見えた。
「やぁリアム、お疲れ様」
「…お疲れ様です」
ハイネは騒々しい外の様子を見物していた。
「グレイが起こした騒動だ。君には責任は無いよ」
「…団長」
「?」
「私は団長が羨ましい…」
何かを言ったリアムだが扉の勢い良く開く音にその言葉は掻き消された。
「団長!!」
「こら!サラ 静かにしな」
司令室には元気良くハイネの背中に抱き着くグレイを叱るアイが現れた。
「ど、どうしたんだい?」
「団長!あのね!私 お友達できたの」
嬉しそうにグレイは笑った。
「お友達?」
「うん。ヴェルちゃんっていう子…灰色の髪で目が赤いの」
ハイネは「赤い目」と聞いて先程見ていた少女だと検討が着いた。
「そうか…良かったじゃないか」
「うん!」
「正確にはヴェルザ・ブルームフィールドというそうですよ」
「ヴェルザ…か」
ハイネのモノクロ写真の記憶の中には豪華な屋敷を背景にハイネ1人と屋敷の窓から映り込んでいる少女に似た女の子が写っていた。
「今度 僕にも紹介してくれよ」
「良いよ」
仲が良さげな雰囲気に1人取り残されたリアムはいつの間にか司令室を出て会議室の頑丈な壁を何度も叩いて、皮膚から血が滲んでいた。

清々しい晴れた日は一気に暗闇と化した。
真剣な顔をした3人の男がマリーを袋の中に入れ見張っていた。ハイネが後から来ると全て計画通りの今、ハイネが路地裏を入った。
路地裏を入って直ぐに隠れて息を潜めているヴェルザという少女がいた。
「君、此処で何をしているの?」
ヴェルザは驚きそれに気付いた3人の男が騒ぎ出した。逃げようとしたヴェルザはハイネに手首を捕まれ一瞬で取り押さえられた。少し計画が揺れた状況の中 リアムが街に現れたが誰もリアムを見ることなく怪しまれずにリアムは路地裏へ入った。そこには妹のマリーと居る予定では無いヴェルザが居たが何の迷いもなく叫び散らすマリー(妹)の首をナイフで引き裂いた。
静寂になったその場でヴェルザの泣き声だけが響き続けた。計画にかかった時間に比べて片付ける時間はあっという間に過ぎた。リアムとハイネは一言と話さず街を出て行きそれぞれの部屋に戻った。リアムは頭からシャワーを浴び手から流れ落ちるマリーの血が足元を赤く染めていた。

ヴェルザの泣き声が頭から離れないハイネは机いっぱいに並んだ仕事に集中出来ないでいた。
「…はぁ」
ポケットから取り出した水色の猫のストラップを見てハイネは余計に集中出来なくなった。

ハイネからヴェルザを連れて帰ることを頼まれていたグレイは静まり返った街に月の光に照らされながら現れた。
「毒だね…」
僅かに痙攣しているヴェルザを見てグレイは冷静だった。声が出ないヴェルザは段々 気力が無くなりやがて倒れた。
「ごめんね…」
グレイは倒れたヴェルザを抱え医務室まで運んだ。
「…終わったの?」
「うん、ヴェルちゃんを宜しくね」
アイは用意していた薬をヴェルザの口に入れた。
「目が覚めたらきっとヴェルザは…」
「まだ分からない事を言わない方がいい」
「…そうね」
苦しそうに眠るヴェルザの乱れた前髪をアイは心配そう顔をしかめて整えた。グレイは何も言わずに医務室を出て行った。深夜を回った建物内は静かで寮棟からは静かな話し声が聞こえていた。
「…」
グレイを待っている様子の黒衣装の者達が廊下に立っていた。
「指揮官 亡骸を焼きました」
「わかった。その後の処理は…海に返してやれ」
その言葉に黒衣装の者達は動揺を見せたが何も言わずに去って行った。不気味な程に綺麗な夜はあっという間に夜明けの時となった。

ハイネの部屋の前でアイクは困って棒立ちしていた。
「団長…!起きていらっしゃいますか?」
10時過ぎになっても返事が来ないハイネの様態をアイクは心配そうにしていた。
「…どうしたのアイク?」
「あぁ…指揮官」
首を傾げるグレイはゆっくりと近寄ってきた。
「団長から返事が来なくて…」
「あー何徹夜目?」
「たぶん3日ほど…」
苦笑しながらアイクは言った。
「爆睡状態だろうなぁ…アイクも仕事があるだろう?私が代わりに団長の様態を確認するからもう行きなよ」
「え、あ、有難うございます」
アイクはお辞儀をすると急いで去って行った。グレイは溜息をつき扉を無断で勢い良く開けた。
「団長!生きてる?」
カーテンの閉ざされた薄暗い部屋の奥にある大きなベッドには蒼白な顔で目にクマがはっきりとあるハイネが眠っていた。
「…団長 大丈夫?」
「…ん?んぅ…あぁ…」
顔を顰め薄目でハイネは起きた。
「…はぁ、何の用だグレイ?」
「様態確認だよ、団長ってうっかり死にそうな時があるからさ」
「ははは…死にそうだ」
頭が痛そうにハイネは髪をかきあげた。
「不健康は良くない。少しだけでも外の空気を吸いなよ、ヴェルちゃんなんか朝からずっと鍛錬に励んでいたのを見たよ」
「ヴェルザの体調はもう良さそうだな」
「そうだねぇ…」
ハイネは何かを思いついたように若干 無理して微笑んだ。
「今日は僕 特に仕事が無いんだ。お茶会を開こうか…!」
「…ほんと!?」
「あぁ、本当だ。グレイの招待したい人を呼びなよ」
グレイは嬉しそうに笑って愉快そうに部屋を出て行った。ハイネは重い体を立たせたがまたベッドへ倒れ込んだ。
「はぁ…」
窓から差し込む光がハイネの髪を輝かせた。

騒がしい昼前だった。珍しく仕事が捗らないリアムは気を悪くし 余計に怖い顔が更に怖くなっていた。そんな中 通話が入ってきた。PC画面の文字には「ウキ」と出てリアムは通話に応じた。
「何の用ですか?」
「いやぁ実はね。君にプレゼントを匿名で其方へ送ったんだ」
「…それはどうも」
「じゃぁそれだけだから切るね」
「はい」
「あ、」
「…どうしました?」
「計画 成功するといいね」
ウキはそう言い残して通話を切った。静まり返った部屋の扉が叩かれた。
「副団長…匿名で荷物が届いております」
リアムは何の動揺も見せないまま荷物を受け取り中身を見た。包には高級そうな木箱が入っており蓋を開けると竹輪が入っていた。
「…高級竹輪」
ウキに小馬鹿にされた感じがしたリアムは竹輪を手に取り窓の前に立った。外にはグレイが愉快そうに歩いているのが見えた。大方、仕事中 抜け出したのだろう…そんな事を考えながらリアムは手に取った竹輪を空に向かって投げ竹輪はクネクネと落ちて行った。
グレイはスキップ混じりにヴェルザの居た中庭へ向かっていた。が、上空を見上げるとちくわがグレイの顔に激突した。
「…っ!?」
柔らかいちくわが激突してもグレイは平然としていたが段々と不気味に笑い始めた。グレイはインクの匂いが漂う事務室の扉を勢い良く開けた。
「イグニス!!空からちくわが降ってきたんだ!!」
イグニスはグレイを無視しペンを動かしていた。他の事務員は苦笑いをしながらグレイの対応をしていた。
「ねぇ無視って酷くない?」
「…何の御用ですか?」
「えっとぉ…あ!団長がお茶会を開くからイグニスを招待しにきたんだ。アイとメコ、ヴェルちゃんも招待しよう!」
「お茶会ですか…?久しぶりに開きますね」
「最近 忙しかったから丁度いいよなぁ」
「そうですね…では招待しに行きましょうか」
「あざす…!」
グレイは立ち上がりイグニスと共に事務室を出て行った。その様子を見た事務員は渋々 仕事に戻るのだった。
長い廊下に偶然メコが歩いていた。
「メコ!」
「…?」
メコが後ろを振り返るとそこにはグレイとイグニスが居た。
「サラどうしたんだ?」
「お茶会に参加しない?」
「お茶会…良いな。参加する」
あっさりと答えたメコはグレイの握っている物に違和感を感じた。
「……何でちくわ持ってるの?」
「あぁ実はね、空から降ってきたの!何か目出度い感じがするからヴェルちゃんにあげようと思ってさ」
「ヴェルザが可哀想ですよ」
得意気に話すグレイをイグニスは冷静に応えるのだった。廊下の窓からは中庭で鍛錬しているヴェルザが3人から見えた。
「朝からあれだよ…もうすっかり治っちゃったねぇ」
「良い事じゃないですか」
「まぁそれもそーだね」
グレイは窓の手摺を乗り越えた。
「…何をしているんですか!?」
「近道だよ?」
「さすがサラ。私も近道が良い」
中庭にいるヴェルザにグレイは話しかけた。
「おぉ…張り切ってるね~」
ヴェルザは顔を上げると2階の窓から身を乗り出しているグレイがいた。
「指揮官…!!」
グレイは2階から飛び降りヴェルザの目の前で着地し、飛び降りる瞬間を見たイグニスは血の気が引いていくのを感じていた。
「おはよ、ヴェルちゃん!」
「おはようござ…」
今度はメコが体を窓から出し飛び降りた。精神的に、いや、心臓が五月蝿いイグニスは今にも倒れそうな状態だった。
1人廊下に残されたイグニスは焦り階段を駆け下り中庭へ向かった。そこには尻餅をついたヴェルザとそれを笑うメコとグレイが居た。

めちゃくちゃな裏舞台。そんな舞台でも誰かにとっては大切な物。そんな事を昼からフラフラと街を出歩いて思い出している女がいた。


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