No title_君なら何とタイトルをつけるか

天ノ

家族

嫌な夢を見た。
「餓…貴方を暁家から追放します」
「如何して?…父様 母様!!」
両親はヴェルザ(自分)を軽蔑した目で見ていた。
「俺は餓が大嫌いだ。出来損ないは暁家には要らないんだよ…」
「嫌だ…っ!!」夢から覚めたヴェルザは冷汗出て息が上がっていた。
「はぁはぁはぁはぁ……此処は何処?」
日本らしい趣がある部屋はヴェルザの心を落ち着かせ、外を見るとまだ少し小雨が降っていた。
「ヴェルザ、起きたか?」
ハイネはゆっくり襖を開けて顔を覗かせた。
「はい…団長、自分は昨日ホールで…」
「思っていたより遅くなってしまって…戻ったら君が寝ているものだから運んで帰ったよ」
困ったように微笑んだハイネは女物の袴をヴェルザに差し出した。
「…?」
「いつまでも制服でいる訳にもいけないだろう。これを着なさい」
そう言うとハイネはヴェルザに渡し部屋を出ていった。残されたヴェルザは仕方無く袴を着始めた。
「…綺麗な彼岸花柄」
ヴェルザは鏡を前にして疑問に思った。
「この袴、女物だが…誰の物なのだろう?」
部屋をよく見渡すと女性らしい小物が置いてあり、窓にはハイネらしき少年と見た事のある女性が写った写真があった。
「…師匠?」混乱したヴェルザは固まっているとハイネが部屋に入って来た。
「ヴェルザ如何した、着替えがもう終わったなら……何を見ているんだ?」
「団長、この女性…」
「あぁ、僕の姉だよ。この部屋も姉が使っていた部屋だ」
「お姉さん…この女性は今何処に?」
ハイネは寂しそうに答えた。
「5年前から行方不明だ…僕は本家の屋敷を出た後 基地に居る事が多くほとんど居ない状態だがこの屋敷を持ったんだ。其の時 姉を僕が居ない間にここに住まわせる事にしてね…けれど5年前に突然 「ここを出る」と言ったっきり本家にも戻っておらず…」
「そうだったんですか…」
ヴェルザは師匠の事を話すべきか迷ったが少し時間が経ってから話す事を決めた。
「…君、食事はまだだったね。使用人に作らせている。広間に行こうか」
「はい…」
2人は部屋を出るとヴェルザは驚いた。
「ひ、広いですね…」
「ははは、そうかな?」
50m以上はある廊下を進んでいると所々に縁側があった。そこからは紫陽花や鯉のいる池 苔の付いた大きな岩が見え、とても綺麗だとヴェルザは思っていた。広間に着くまで1分かかった…広間には豪華すぎず貧相でも無いささやかな鮎の焼き魚の食事が用意してあった。
「い、いただきます…」
メコには劣るがなかなかに美味しい食事で気付いたら使用人の人は広間から居なくなっていた。
「お口に合うかい?」
「はい、美味しいですよ」
ハイネは満足そうに微笑み縁側でお茶を飲みながら庭を見ていた。
「ご馳走様でした…」
使用人は早々と食器を受け取り出て行った。
「さて、君もここにおいで。せっかくの休日なんだ…僕と話をしよう」
「…分かりました」
ハイネの隣に座るとヴェルザは真剣な顔をしてハイネを見た。
「団長、自分の過去の話を聞いて頂けますか?」
「あぁ、聞く」
ヴェルザは師匠(ハイネの姉)について話をし始めた。

暁家は代々、須飛利斗家の使用人として主人に仕えていた。須飛利斗家にとっても最も信用できる暁家は欠かせない物であった。
そんな暁家はその期待に応えようと努力してきた。礼儀作法 使用人としての心構え 学問 これらを優先してきたため暁家ではこの中の1つでも出来ない者は追放されていた。
「出来損ないは暁家に必要無い」と…。そんな家には兄妹がいた。灰色の髪 赤い目を持つ2人は周囲から外見で恐れられていた。兄は雨鬼 妹は餓 という名前で、仲は最悪であった。
兄は完璧で一族から期待を寄せられていた。だが、妹の自分(ヴェルザ)は使用人に向いていないのか…何一つとして出来なかった。毎日のように両親や兄から「出来損ない」と言われ 辛い日々だった。だが、追放だけは嫌だった自分は頑張り続けたが実力の無いことに負け 土砂降りの雨の日、暁家から追放されたのだ。
「お前は必要無い。どこぞで野垂れ死んでしまえ」両親からは軽蔑され、「実力が無いなら仕方が無い」兄からは嫌われ、追い出された自分は行く宛もなく彷徨っているとある女性に声をかけられた。
「ちょっと!傘も持たずにどうしたんだい?風邪ひいちまうよ!」
その女性は自分を傘に入れると、古びた古民家にあげてくれた。
「お前、どうしたんだ?家族は?家は?」
「…家を追放された」
女性は驚いたが一時たってこう言った。
「そうかい…私も家族と家が無いんだ。だからこうやって1人でこの古い家に住んでる」
「貴方も…?」
「そう…私もだよ」
女性は寂しそうな顔をして自分の頭を撫でた。
「お前、行く所無いなら私と住むかい?」
「…!!い、いいの?」
「あぁ、いいよ!」
自分は安心し、気が抜けて泣き出した。
「ほら、泣かない泣かない。強くなりな」
「つ、強く…?」
女性は思いついたように答えた。
「あぁ、…!お前を私が鍛えてあげる」
「本当に?自分は強くなれる…?」
「強くなれる!…と、お前、名前は?」
「餓…暁」
「よし、餓!お前は暁の名を名乗らずに碧夢域(ブルームフィールド)を名乗れ」
「…うん」
「私の名前は遥だ!」
「…師匠、でいい」
その日から自分は女性を師匠と呼ぶようなり強くなる訓練を受けた。
「暗殺…術…!!!!」
「お前、ひっそりとした事が得意だろう?」
「…うん」
「だからお前は暗殺者になれ!」
「子供になんて事言うんだよ!!」
自分は混乱状態で師匠にツッコんだ。
「暗殺者といっても、軍の特別班に暗殺部隊があるんだ…お前、そこに行け」
「…師匠と離れるの?」
「そうなる…3ヶ月後 海上団の入団試験がある。私はそこにお前を応募しておいた」
「…!!」
「心配するな。実はそこに私の弟が居るかもしれないんだ。その子の名前は「Highness」といって可愛い弟なんだ」
「Highness…」
そして3ヶ月後、入団試験に合格した自分は師匠の家を出た。
「師匠、貴方はこれから先どうするのですか?」
「さぁね…ゆっくり暮らすよ」
師匠は自分の背中を押し、「頑張れ」と呟いた。

話終わるとヴェルザは目を開き庭の池を見つめた。
「姉さん…」
ハイネは震えた声で師匠を呼んだ。
「師匠はどうして…弟である団長を…」
「たぶん姉さんは自由になりたかったんだと思う…須飛利斗家は自由に生きる事が出来ないからね…」
「…師匠は今、どうしているのでしょうか…」
「僕には思いつかないや…」
ハイネは悲しそうに微笑んだ。

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