No title

(´・ω・`)

63.鶴の一声

 少しでも遠くへ行こうとする人々が、脇目も振らずに走っていく。
もみくちゃにされて泣き出す少女。
人の波に流されながらも、必死になって子供を探す親。
近くの柱にしがみついてなんとか立てている老婆…。
老若男女などお構いなしの現場は、見るに堪えないものだった。

皆完全にパニックになってて自分のことで精一杯だ。
恐らく発生源の門からここまで距離はあまりないから離れたいのは分かるけど、変に遠くに行くより騎士もフォルセティアもいるここにいた方が安全なのは確かだ…。
……あぁでもそれをどうやって知らせたらいい!?


「はぁい皆ちょっと注目してー」


俺が悶々と頭を抱えていた時、この緊迫した状況にはあまりにミスマッチな声が国中を駆け巡った。

「皆さんご存知フォルセティアです。今から言うことよく聞いてねー」
「あ…?」

不自然なほどゆったりとしたその声は、あれほど慌てていた国民達をいとも容易く落ち着かせていた。

「一般観光者と国民の皆は落ち着いて広場に集まってきて。お年寄りの方を気にかけられる余裕があったら気にかけてあげて。でも無理は絶対しないで。」

遠くへ遠くへと急いでいた人々が、彼の言葉に耳を傾ける。
泣いていた少女は駆け寄った母親の元へ戻り、老婆も青年に手を差し伸べられていた。

「それから屈強な大会出場者諸君。強制はしない。力を貸してくれる者だけこの国の為に動いて欲しい。護衛でも元凶の対応でも、どう動くかは各自の判断と自己責任で頼む」

彼の言葉に動かされる人は多く、門の方に向かっていく者もいれば人々の誘導に勤しむ者も現れた。

「ありがとう。次は騎士団員に命令だ。これから一班と二班は恐らく何かが起こってる門に行って。三班は現状の情報収集及びその報告。それが終わり次第また指示を出すよ。四班は広場の国民の護衛、五班は国内全域の人達の護衛をよろしく」
「「「はっ!!」」」

こんな時でも冷静に模範じみた敬礼をして、統一性のある俊敏な動きで彼らは散らばって行った。
凄いな…マイク一つででここまで変えられるもんなのか…。

「あ、そうそう…」

言い忘れたように、彼は優しい声音で付け加えた。

「今何が起きているのか、さっきの轟音は何だったのか……まだ何も分からないけれど、僕達騎士団は君たちを絶対に護ってみせよう。そして騎士団員諸君。君たちの中から誰一人として死者を出すことは許さない。皆で乗り切ろうじゃないか。大丈夫!安心して自分のできることをしよう!」

それで王の言葉は終わった。
今目の前で起こった数秒の出来事はあまりに信じ難いものだった。
白昼夢でも見ているような気分だ……。

鶴の一声。
カリスマ性とか統率力とはまた別の力だろうなぁ。

「おいレイス!ぼさっとすんな!」
「……あぁ!」

そうだ。
俺にあんなことは出来ずとも、俺達にはまだやれることがあるはずだ。

「フォルセティア様!俺らも手伝います!足は引っ張りませんから!」
「あははっ。いいの?じゃあお言葉に甘えて前線を頼もうか」

敢えてゆっくり喋ることで相手を落ち着かせてんのか…?
でも単にそうしてるだけじゃない気もする…?

「はい!では失礼します!」

フォルセティアの承諾を得て、俺達は何かが起きているであろう門へと向かう。

「何があるか知らんけど、とりあえず警戒は緩めんなよ。怪我の元だから」
「了解しました団長ー!」
「俺ら第六班になれるな。人数的に」
「かっこいー!」
「かっこいー」

彼らのようにとは言わないが、俺達はもう少し統一性を鍛えた方がいいかもしれない。
あまりにも緩すぎる。

………まぁでも、これがコイツらなりの緊張の解し方だったりするのかもな…。

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