No title

(´・ω・`)

49.短兵急

 「折角休んでいただろうにすまないね3人共」

昨日見たばかりの城の内装は、当然だが変わりなく立派だった。
変化があるとすれば、フォルセティアの表情だろうか。少し柔らかくなっているような気がする。

それにしてもこの広大な部屋に俺ら3人とフォルセティアとルミスの5人だけってなんか寂しい気もするな…。
ブラギさんも部屋を出されたし、一体何を話されるんだろうか?

「で、今日呼んだのは理由があって…」

やっぱり理由あるのか。
何もしていないとは思うが、ここ特有のルールのようなものが無いとも限らない。

……そんな事を考えていた俺は、きっと次の瞬間に起こることなど想像もしていなかっただろう。
否、俺でなくとも予測不可能だった筈だ。


ーーー刹那、首元に剣先が迫る。


「!?」
ほぼ空気の揺らぎと本能だけで短刀を抜き、防いだ勢いで後ろに下がる。
剣を抜いたのはフォルセティアだった。
殺気もなければ音もない。しかし、人を殺すには十分すぎる威力をもった剣筋。

久々に背筋が凍るのを感じる。
そして思い出す。入城の際に武器の押収がなかったことを。
その理由がこのたった一度の攻撃で分かった。
勝てるはずがないのだ。
ウルクラグナ国王フォルセティアという男には。

傍らでは突然の襲撃に慌てて応戦しようとしたカイとニビが何故かルミスに止められている。
なんだよあいつもグルなのか…?

3人に視線を向けたその一瞬、せっかくとった距離は瞬時に詰められ、追撃が既に右目を捉えていた。
正確すぎるその攻撃をどうにか避け、俺は必死に叫ぶ。

「ちょっと待ってください!何かしたのなら謝ります!どうか攻撃をやめてください!」

本心の読めない穏やかな笑顔を浮かべる彼は、速くて重いその剣を止めてはくれなかった。
どうにか捌くか避けるか出来ているが、これもいつまで持つか分からない。

本格的に命の危険を感じ始めた頃、あれほど注視していた筈の彼は俺の視界から’’姿を消した’’。
しかし


(……ん?この違和感…)

普通なら焦るのだろうが、俺はどこか違和感と懐かしさを覚えていた。
圧倒的なスピードとパワーを前に何を懐かしむ余裕があったのか知らないが、俺は朧げな記憶のままに体を動かしてみる。

(やっぱり…)

背後から迫っていた剣筋は、俺の首があった場所で空を切っていた。
俺はこの戦況を一度体験したことがある。
確か前に師匠との稽古で……。

(ん?師匠?……ということは?)

防御を捨て、全ての力を注いで広い部屋の端に逃げる。
そして大声で叫んだ。

「フォルセティア様!もしかしてこの攻撃は師匠…リーチェと関係あったりしますか!?」

その言葉と同時に剣が鞘に収まる。
脅威から解放された安堵感と膨大な疲労が一気に押し寄せ、思わず膝をついた。
首に手を当てて生きている現実を噛み締める。

「レイス!!」
「おい大丈夫か!?」

カイとニビが駆け寄り、血相を変えて俺の名前を呼んでいる。
上がった息を落ち着かせる為の深呼吸は意味をなさず、吸ったはずの酸素が肺に満ちる気配はない。
俺はそんな状況下で、何故か浮かぶドヤ顔の師匠にイライラし続けるしかなかった。

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