魔法使いが迫害される世界で賢者の弟子になります!
第14話『別れ』
「じぁ、行ってくる。あまり遅くならないようにする」
「気を使わなくていいよ、ゆっくりして来て」
「楽しんでくるにゃー!」
  日が傾いてきた頃、俺は宿屋を出てギルドに向かった。
  ちょっと早い気もするけど待ってたら良いか。
  ギルドに着くとすでに中は人が沢山いた。
  クエストを終えた冒険者達が続々とやって来ているみたいだ。
  受付嬢さん達も忙しそうだ。
「あ、ダイゴさん。まだもうちょっとかかるので待っててもらえますか?」
「はい。そのつもりですよ」
「ありがとうございます。早めに終わるようにしますね」
「あまり気を使わないでくださいね」
「はい」
  俺はとりあえず時間を潰すために2階の酒場に行った。
  未成年だから酒場は近寄らないようにしてたけどこの世界にはそんなルールなさそうだな。
  まぁ飲まないけど。
「よっと……何かジュースとかでも飲もうかな」
「よう兄ちゃん!  あんまし見ない顔だけど新人か?」
  俺がカウンターに座ると少し離れた所に座っていた中年の男が声をかけてきた。
  かなり酒を飲んでいるらしく顔は真っ赤だ。
  見た目も普通の人間とは少し違って耳が長い。
「はい。ちょっと前に登録したばっかりで……」
「そうかそうか。俺も新人の頃は無茶ばっかりしてよく怪我してたもんだ、無茶は禁物だぞ」
「気をつけます。ところでお一人ですか?」
「ああ、パーティーのメンバーはもう引退しててな。そろそろ俺も引退かな……」
「え、おいくつなんですか?」
「確か……130は超えてたはずだ」
「130!?  そんな風には見えませんよ!?」
「ああ、俺はエルフだからな。見た目の割に歳とってるのさ」
「エルフか……そう言えばエルフってあまり見ませんね」
「昔は攫われて売られる奴が多かったんだ。今ではそんな事は少ないだがまだ外は危ないって思って村から出てきていないんだろうな」
「そうなんですか……」
  エルフはあんまりいないのか……残念だな……
  あの触手に絡め取られる人達見たかったな……
「ダイゴさん。お待たせしました」
「は、はい!」
「お、兄ちゃんこれからデートかい?」
「ダイゴですよ。まぁそんな所です」
「楽しんでこいよ!」
  俺は気のいいエルフのおじさんと分かれ、ギルドを出た。
  セーラさんは制服から私服に着替えていた。
  白色の縦セーターにカーキのロングスカート、セーラさんらしい大人びた服装だ。
  
  てか、地球と服はあまり変わらないのか?
  素材は違うみたいだけど見た目はほぼ一緒だ。
「ダイゴさん。魚はお好きですか?」
「はい。もちろんです!」
「良かった……今から行く店は魚がとっても美味しい店なんですよ」
「それは楽しみです!」
  セーラさんに案内された店は海沿いにあるとてもオシャレな店だった。
  うわぁ……こんな店テレビでしか見たことないぞ……
「す、凄くオシャレな店ですね……」
「はい、私も初めて来ました!  ずっと来たいって思ってたんですよ!」
  セーラさんは普段見せないような無邪気な笑顔をしている。
  こういう一面もあるんだな。
「いらっしゃいませ」
「あ、予約してたセーラです」
「はい、お待ちしておりました。こちらへ」
「予約してたんですか?」
「ダメ元で連絡したらちょうどキャンセルがあったんですよ。ラッキーでしたね」
「確かにラッキーですね」
「こちらです」
「わぁ……綺麗……」
「本当ですね……」
  案内された席は窓際で海がよく見える席だった。
  ちょうど日が海に沈む時間帯で夕焼けがとても綺麗だ。
  しばらく見とれていると食事が運ばれてきた。
  予約と一緒にコース料理を頼んでおいたらしい。
「ダイゴさん。先日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、困った人を助けるのは当たり前の事ですよ」
「優しいんですね。そう言えばダイゴさんはちょっと変わったクエストばかり受けられますよね?  普通の冒険者なら討伐クエストとかばっかりなのに」
「確かに遺跡とか人探しとかしてましたからね。特に深い意味は無いんですけど行方不明者捜索ってのは何だかほっとけなくて……」
「何か特別な理由でも?」
「……昔、事故で家族を失ったのでその辛さを他人には味わって欲しくないと言うか……ってすみません。しんみりしちゃいましたね」
「いえ……その気持ちはよく分かります。私がエルフの村から出てきた時はまだ人攫いが多くて、一緒に出てきた友達も何人か捕まってしまって……」
「やっぱりエルフは人攫いの被害に遭いやすいんですか?」
「はい。今でも獣人、人間よりもエルフの方が被害件数は多いです。だから、それを少しでも無くせるように私はギルドで仕事をしているんです。直接は止められないからこういった形で……」
  セーラさんは辛そうに俯いた。
  その表情はどこか悔しそうにも見えた。
「そんな訳があったんですね……何だか、素敵です」
「ふふ、ありがとうございます。さっ、食べましょう!  冷えちゃいますよ」
「そうですね!  楽しく食事しましょう!」
  それから俺はセーラさんとの話と絶品料理を楽しんだ。
  一番美味しかったのが贅沢海鮮丼だ。
  いくらの様なものは小さいながらも味が詰まっていて、メインの魚は脂がのっていてとろけるような舌触りだった。
「美味しかったですか?」
「はい、とっても」
「良かったです。喜んでもらえて」
「セーラさん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、こんなんじゃ足りないくらいの恩がありますから。それで、ダイゴさんはこれからどうするんですか?」
「帝国都市を経由して聖教国に向かおうかと思ってます」
「そうですか……行っちゃうんですね」
「いつか戻ってきますよ。ここはとても居心地が良いですから」
「気を使わないでください。冒険者はより良い土地を求めて移動する物です。そんなのは慣れっこですよ。それに、生きていればいつかは会えますから」
「そうですね……死なないように気をつけますね」
「当たり前ですよ?  無茶してはいけませんよ」
「はい!  セーラさん、お世話になりました!」
「ええ、こちらこそ。では、行きましょうか」
「そうですね」
「あ……」
  セーラさんは荷物を持って立ち上がると、空を見上げて止まった。
  俺も空を見上げてみると、とても大きな満月が見えた。
  この世界にも月はあったのか……綺麗だな……
「ダイゴさん、月が綺麗ですね」
「え?」
「どうかなさいました?」
「い、いや。月が綺麗ですね、ってのは僕の故郷ではあなたが好きですって意味だったからびっくりして……はは」
「素敵な文化ですね。そんな深い意味はありませんよ」
「そうですよね……」
  それから俺はセーラさんとどっちが奢るかという仁義なき戦いの末、7:3(俺が3)という事になった。
  お礼したいって言ったのは私ですから私が払います!  の一点張りだったセーラさんを妥協させるのは至難の業だったぜ……
「セーラさん、今日は素敵な食事をありがとうございました」
「はい、こちらこそ楽しかったです。また機会があれば」
「そうですね。そのためには生きて帰ってきます」
「約束ですよ?」
  セーラさんは俺にぐっと近寄り、上目遣いでこちらを見る。
  くっ、とてつもなく可愛い……!
「わ、分かりました。ち、近いですよ……」
「あ!  ごめんなさい、つい……」
「さ、もう遅いですし帰りましょうか」
「そうですね」
  街は街灯に照らされていて明るく、周りの店からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
  街を歩く人々も仕事を終えてこれから飲みに行こうとする人達ばかりだった。
  俺はセーラさんを家の近くまで送っていく。
  上がるか、と聞かれたが流石に女性の家に入るのは気が引けたのでやめておいた。
「それではダイゴさん。行く前には挨拶に来てくださいね?」
「はい。そのつもりです。それでは」
「お気をつけて」
  セーラさんを送り届けたので宿に戻ろうと振り返ると曲がり角に見たような人影が見えた。
「お前達、何してるんだ?」
「はは、バレてた……ちょっと気になっちゃって」
「せっかく誘われたのに何で断ったのにゃ!  お泊まりしたら良かったにゃ!」
「明日は出発の準備があるからダメだろ。ほら、帰るぞ」
「はぁーい」
「面白くないにゃー」
「面白がるんじゃない」
――翌日、夜――
  俺達は昼間に必要な食料等を手分けして買いためた。
  乗る馬車も見つけてきた。
「よし、これで出発出来るな」
「うん。でも、馬車は途中までしか行けないからそこからは歩きだよ」
「何で途中までしか行けないんだ?」
「帝国都市は反教会の都市なんだよ。だから教会が馬車を直接帝国都市に行かせないようにして力を弱めようとしてるんだよ」
「なるほど……経済制裁みたいなもんか」
「まぁよく分からないけどそんな感じ。だからテントとかも用意したんだよ。ほんとに収納ボックスがあって良かったよ」
「これ、重たくないにゃ!  軽いにゃー!」
「おーい、兄ちゃん達!  そろそろ出発するぞー!」
「はーい!  今行きまーす!」
「さ、行こうか。目指すは帝国都市!」
「「おー!」」
第2章  完
「気を使わなくていいよ、ゆっくりして来て」
「楽しんでくるにゃー!」
  日が傾いてきた頃、俺は宿屋を出てギルドに向かった。
  ちょっと早い気もするけど待ってたら良いか。
  ギルドに着くとすでに中は人が沢山いた。
  クエストを終えた冒険者達が続々とやって来ているみたいだ。
  受付嬢さん達も忙しそうだ。
「あ、ダイゴさん。まだもうちょっとかかるので待っててもらえますか?」
「はい。そのつもりですよ」
「ありがとうございます。早めに終わるようにしますね」
「あまり気を使わないでくださいね」
「はい」
  俺はとりあえず時間を潰すために2階の酒場に行った。
  未成年だから酒場は近寄らないようにしてたけどこの世界にはそんなルールなさそうだな。
  まぁ飲まないけど。
「よっと……何かジュースとかでも飲もうかな」
「よう兄ちゃん!  あんまし見ない顔だけど新人か?」
  俺がカウンターに座ると少し離れた所に座っていた中年の男が声をかけてきた。
  かなり酒を飲んでいるらしく顔は真っ赤だ。
  見た目も普通の人間とは少し違って耳が長い。
「はい。ちょっと前に登録したばっかりで……」
「そうかそうか。俺も新人の頃は無茶ばっかりしてよく怪我してたもんだ、無茶は禁物だぞ」
「気をつけます。ところでお一人ですか?」
「ああ、パーティーのメンバーはもう引退しててな。そろそろ俺も引退かな……」
「え、おいくつなんですか?」
「確か……130は超えてたはずだ」
「130!?  そんな風には見えませんよ!?」
「ああ、俺はエルフだからな。見た目の割に歳とってるのさ」
「エルフか……そう言えばエルフってあまり見ませんね」
「昔は攫われて売られる奴が多かったんだ。今ではそんな事は少ないだがまだ外は危ないって思って村から出てきていないんだろうな」
「そうなんですか……」
  エルフはあんまりいないのか……残念だな……
  あの触手に絡め取られる人達見たかったな……
「ダイゴさん。お待たせしました」
「は、はい!」
「お、兄ちゃんこれからデートかい?」
「ダイゴですよ。まぁそんな所です」
「楽しんでこいよ!」
  俺は気のいいエルフのおじさんと分かれ、ギルドを出た。
  セーラさんは制服から私服に着替えていた。
  白色の縦セーターにカーキのロングスカート、セーラさんらしい大人びた服装だ。
  
  てか、地球と服はあまり変わらないのか?
  素材は違うみたいだけど見た目はほぼ一緒だ。
「ダイゴさん。魚はお好きですか?」
「はい。もちろんです!」
「良かった……今から行く店は魚がとっても美味しい店なんですよ」
「それは楽しみです!」
  セーラさんに案内された店は海沿いにあるとてもオシャレな店だった。
  うわぁ……こんな店テレビでしか見たことないぞ……
「す、凄くオシャレな店ですね……」
「はい、私も初めて来ました!  ずっと来たいって思ってたんですよ!」
  セーラさんは普段見せないような無邪気な笑顔をしている。
  こういう一面もあるんだな。
「いらっしゃいませ」
「あ、予約してたセーラです」
「はい、お待ちしておりました。こちらへ」
「予約してたんですか?」
「ダメ元で連絡したらちょうどキャンセルがあったんですよ。ラッキーでしたね」
「確かにラッキーですね」
「こちらです」
「わぁ……綺麗……」
「本当ですね……」
  案内された席は窓際で海がよく見える席だった。
  ちょうど日が海に沈む時間帯で夕焼けがとても綺麗だ。
  しばらく見とれていると食事が運ばれてきた。
  予約と一緒にコース料理を頼んでおいたらしい。
「ダイゴさん。先日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、困った人を助けるのは当たり前の事ですよ」
「優しいんですね。そう言えばダイゴさんはちょっと変わったクエストばかり受けられますよね?  普通の冒険者なら討伐クエストとかばっかりなのに」
「確かに遺跡とか人探しとかしてましたからね。特に深い意味は無いんですけど行方不明者捜索ってのは何だかほっとけなくて……」
「何か特別な理由でも?」
「……昔、事故で家族を失ったのでその辛さを他人には味わって欲しくないと言うか……ってすみません。しんみりしちゃいましたね」
「いえ……その気持ちはよく分かります。私がエルフの村から出てきた時はまだ人攫いが多くて、一緒に出てきた友達も何人か捕まってしまって……」
「やっぱりエルフは人攫いの被害に遭いやすいんですか?」
「はい。今でも獣人、人間よりもエルフの方が被害件数は多いです。だから、それを少しでも無くせるように私はギルドで仕事をしているんです。直接は止められないからこういった形で……」
  セーラさんは辛そうに俯いた。
  その表情はどこか悔しそうにも見えた。
「そんな訳があったんですね……何だか、素敵です」
「ふふ、ありがとうございます。さっ、食べましょう!  冷えちゃいますよ」
「そうですね!  楽しく食事しましょう!」
  それから俺はセーラさんとの話と絶品料理を楽しんだ。
  一番美味しかったのが贅沢海鮮丼だ。
  いくらの様なものは小さいながらも味が詰まっていて、メインの魚は脂がのっていてとろけるような舌触りだった。
「美味しかったですか?」
「はい、とっても」
「良かったです。喜んでもらえて」
「セーラさん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、こんなんじゃ足りないくらいの恩がありますから。それで、ダイゴさんはこれからどうするんですか?」
「帝国都市を経由して聖教国に向かおうかと思ってます」
「そうですか……行っちゃうんですね」
「いつか戻ってきますよ。ここはとても居心地が良いですから」
「気を使わないでください。冒険者はより良い土地を求めて移動する物です。そんなのは慣れっこですよ。それに、生きていればいつかは会えますから」
「そうですね……死なないように気をつけますね」
「当たり前ですよ?  無茶してはいけませんよ」
「はい!  セーラさん、お世話になりました!」
「ええ、こちらこそ。では、行きましょうか」
「そうですね」
「あ……」
  セーラさんは荷物を持って立ち上がると、空を見上げて止まった。
  俺も空を見上げてみると、とても大きな満月が見えた。
  この世界にも月はあったのか……綺麗だな……
「ダイゴさん、月が綺麗ですね」
「え?」
「どうかなさいました?」
「い、いや。月が綺麗ですね、ってのは僕の故郷ではあなたが好きですって意味だったからびっくりして……はは」
「素敵な文化ですね。そんな深い意味はありませんよ」
「そうですよね……」
  それから俺はセーラさんとどっちが奢るかという仁義なき戦いの末、7:3(俺が3)という事になった。
  お礼したいって言ったのは私ですから私が払います!  の一点張りだったセーラさんを妥協させるのは至難の業だったぜ……
「セーラさん、今日は素敵な食事をありがとうございました」
「はい、こちらこそ楽しかったです。また機会があれば」
「そうですね。そのためには生きて帰ってきます」
「約束ですよ?」
  セーラさんは俺にぐっと近寄り、上目遣いでこちらを見る。
  くっ、とてつもなく可愛い……!
「わ、分かりました。ち、近いですよ……」
「あ!  ごめんなさい、つい……」
「さ、もう遅いですし帰りましょうか」
「そうですね」
  街は街灯に照らされていて明るく、周りの店からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
  街を歩く人々も仕事を終えてこれから飲みに行こうとする人達ばかりだった。
  俺はセーラさんを家の近くまで送っていく。
  上がるか、と聞かれたが流石に女性の家に入るのは気が引けたのでやめておいた。
「それではダイゴさん。行く前には挨拶に来てくださいね?」
「はい。そのつもりです。それでは」
「お気をつけて」
  セーラさんを送り届けたので宿に戻ろうと振り返ると曲がり角に見たような人影が見えた。
「お前達、何してるんだ?」
「はは、バレてた……ちょっと気になっちゃって」
「せっかく誘われたのに何で断ったのにゃ!  お泊まりしたら良かったにゃ!」
「明日は出発の準備があるからダメだろ。ほら、帰るぞ」
「はぁーい」
「面白くないにゃー」
「面白がるんじゃない」
――翌日、夜――
  俺達は昼間に必要な食料等を手分けして買いためた。
  乗る馬車も見つけてきた。
「よし、これで出発出来るな」
「うん。でも、馬車は途中までしか行けないからそこからは歩きだよ」
「何で途中までしか行けないんだ?」
「帝国都市は反教会の都市なんだよ。だから教会が馬車を直接帝国都市に行かせないようにして力を弱めようとしてるんだよ」
「なるほど……経済制裁みたいなもんか」
「まぁよく分からないけどそんな感じ。だからテントとかも用意したんだよ。ほんとに収納ボックスがあって良かったよ」
「これ、重たくないにゃ!  軽いにゃー!」
「おーい、兄ちゃん達!  そろそろ出発するぞー!」
「はーい!  今行きまーす!」
「さ、行こうか。目指すは帝国都市!」
「「おー!」」
第2章  完
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