気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「ですから、この問題は年を越えるだろうな……と内心思っていたのです。
 田中先生は強い人です。それは確かなのですが、強い人ほどポキリと折れた時には回復に時間が掛かるので、経験則から来年の夏頃くらいだろうな……と思っていました。
 それが、こんなにも早く回復なさって本当に良かったと思います」
 呉先生がスミレ色の溜め息を零していた、チョコレートとコーヒーの香りのする。
「何故夏頃だとお思いになったのですか?」
 精神科は専門ではないのでそういう細かいことは分からない。ただ、後学のためというか、単なる知的好奇心で聞いてみたかった。
 祐樹に限って今後こういう症状にはならないと思うが。
「それは、夏は日照時間が長いでしょう?田中先生は抑うつ状態ではありませんが、やっぱり太陽の光というのは精神にとって物凄く良いのです。ほら、日照時間とか日光の光が弱いとされている東北とか北陸地方にうつ病発症率が高いというデータも確立していますしね。
 まあ、日照時間とかお日様の光が弱いので、秋田とか新潟の女性は肌が綺麗ですし、美人が多いという副産物も有りますが」
 そう言えば、大学入試の時に読まされた論文の中だったかに吉原遊郭の女性は越後とか奥州出身と自称することが多かったとか読んだ覚えが有る。「色の白いは七難隠す」とかいうことわざも有るし、昔の人は肌の白さが美点だったようだし。
「ああ、なるほど。冬は確かに日照時間も短いですし、日光の光も弱いですからね……」
 人間の精神状態が思っていた以上に日光に左右されているのだな……と身に染みて思えてきた。今までは精神医学の教科書で他人事のように読んでいただけだったので。
「そうです。だからあまり晴れやかな気分にはなれないんですよね。雨の日とかもそうなのですが。
 私だって外出の予定が有っても、雨の日に出かけるのはおっくうになります。仕事だとそんなワガママを言えないので仕方なく出勤しますが、どうでも良いコトだったら他の日に回します。
 それはともかく、お二人は同時に精神的にダメージを受けましたよね?
 あの忌々しい研修医のせいで。ご一緒に暮らしている人が同時に……というのは我々も頭の痛い問題なのですが、良くこうして回復なさったと思います。
 本当に嬉しいです。クリスマスはイエス・キリストの誕生日ですが、その聖なる日に恋人達が新しく生まれ変わるって素敵ですよね」
 確かに。
 

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