気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「クリスマスデートはいつものホテルで構いませんか?」
 家で寛いで過ごす休日を堪能していた祐樹がふと思いついたように聞いて来た。あれ以降、愛の行為も何の問題もなく行われていたのも本当に嬉しかったし、祐樹が徐々に心の傷が癒えて来ている感触が何となく分かる。
 特にあのホテルに行った時には――ああいう施設はクリスマスツリーも12月になったら早々と飾られていて、本格的なもみの木に電飾とか綿とかではなくて、テディベアとかのヌイグルミとかクリスマスプレゼントを模したと思しきパッケージのようなモノなどが所狭しと飾られていた――クラブラウンジに行っても祐樹は前のように凄惨な事故現場を見るような昏い眼差しは浮かべなくなっていて、心の底から安堵したものだが。
 例の席の辺りを見ても、普段通りの快活な笑みが変わらなく浮かんでいたし。
「クリスマスディナーを部屋で味わうというのも良いが……」
 当然、あのホテルの常連としてリワードカードを発行されていて、メールアドレスなども登録済だ。
 だから営業というかアナウンスのメールは送られて来ている。そこにはクリスマスとか大晦日からお正月にかけてのイベントも当然載っていた。
 祐樹の好きなゴディバのリキュール入りの紅色に煌めく包み紙に詰められた箱を用意していて、それをどこで食べるかという「大問題」に楽しく悩んでしまう。
 その上、祐樹に掛けてしまった「呪縛」というか「呪い」のような言葉を解いても、もう大丈夫な気がした。
 いや、本当はもっと早くそうしても良かったが、今まではその踏ん切りがつかなかったのも事実だった。
 フラッシュバックが起こらないかどうか自分でも分からなかったのも事実だったし。
 でも、あのホテルで濃厚な夜を過ごした結果論で確信した、「もう大丈夫」だと。
「あのホテルのクリスマスディナーも確かに捨てがたいが、今年はこの部屋でゆっくりと過ごしたい、な」
 その時の飾りつけというか演出を考えながらそう言った。
 その時には祐樹にもハッキリと分かるような合図を送ると良い方法を心の中であれこれと考えながら。
「そうですか?貴方がそうおっしゃるならそうしましょうか?
 ホテルのディナーも美味しいですけれど、貴方の手料理の方がずっと美味しいですからね」
 祐樹の笑みが穏やかかつ快活そうな感じで浮かべられていて、本当に嬉しかった。
 それに。

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