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「ああ、最上の紅を叩はたいた色の頬をなさっているので、とても綺麗で、そして温かさも普段以上だと思っていましたが案の定ですね」
　祐樹の両手が自分の頬を中心に当てられた。確かに祐樹の指に比べると自分の顔は火照っているらしくて、祐樹のカサついた指の冷たい感触がとても気持ち良い。
　人の気配がないことを良いコトに祐樹のやや冷たい手の感触をもっと感じたくて瞳を閉じた。
　金木犀とタバコの香りとか鈴虫の声、そして何より祐樹の体温とか確かな感触がとても嬉しくて、そして祐樹の穏やかで端整な笑みを含んだ眼差しや表情を向けられると「以前」に戻ったような気になってしまう。
　そしてその気持ちというか感触は独り善がりなモノではなくて「今現在」祐樹が思っていることだと確信してしまう。何だか雲一つない空に浮かぶ中秋の名月の輝きを彷彿ほうふつとさせる瞳の輝きとかを見ていると。
　すると祐樹が心の底から可笑しそうな笑みを唇に浮かべていた。
「こうして貴方の頬に両手を当てていると、温かさと滑らかな感触はいつもと違わずに愛おしいです。
　それよりも、こうして手で包み込んでいると、何だか逆様さかさまになったハートマークみたいです。
　高校の時だったと思いますが、タロットカードが女子の間で流行っていました。学校にもカードを持って来て占っていたことが有ったので、小耳に挟んだのですがあのカードは絵柄がキチンと上を向いているか、それとも逆向きかで全く逆の意味になるそうです」
　そう言えば暇つぶしに観たドラマの中でもタロット占い師が出てきた。確かに、正位置と逆位置で意味が全く違うと言っていたような記憶が有った。
「サスペンスというか推理ドラマで観た覚えが有るな。有名なタロット占い師が殺されるとかいう話を。
　正位置と逆位置では意味が全然違うらしいが？」
　今の状況とタロットカード占いが――自分は信じていない――どう関係するのだろうか。
「トランプでも占えるって聞いたことが有ります。ほら、ハートや王様のカードって強いですよね。タロットカードのように逆位置だと意味が変わるのかなとフト思いまして……」
　知っている限り、タロットの逆位置は悪いコトが起きる前兆だと捉えられているらしい。
　この雰囲気を――穏やかな笑みを眼差しと笑みで交わしあっているという金木犀色の時間だ――壊したくなかった、切実に。
　だから。