気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「おでんの味の染みた、そして大好きな柚子胡椒をたっぷり乗せた蒟蒻こんにゃくなら大好きなのですが、何だか甘くてふにゃっとした蒟蒻、しかも紅茶の味もぼやけている感じでした。
 歯ごたえなど皆無でしたね……。出来損ないの蒟蒻を食べているような気がしました。
 あれは正直お勧め出来ないです。
 このブレスケアの方が本当のタピオカのような感じがします」
 至近距離で見つめあって他愛のない会話を交わすだけで――しかも祐樹の眼差しとか表情は「事件前」のような感じだったので尚更に――嬉しい。
「そうなのか?タピオカはキャッサバといういも澱粉でんぷんから作られているそうなので、弾力はそれなりに有りそうだが」
 タピオカは好きだし、それなりの知識も有るがそういうのは今はどうでも良くて、ただこういう穏やかで寛いだ時間を二人きりで過ごす方が大切だった。
 しかも、祐樹の表情が先ほどのクラブラウンジの時のように昏い眼差しを放っていなかったことも。
「多分ですけど、でんぷんはでんぷんでも、違ったものを使っているか、それともキャッサバでしたっけ?その濃度が違うのかもしれませんね」
 祐樹がブレスケアを凛々しさと甘さが印象的な唇に放り込んだので、自分もそれに倣った。
 ニンニクの独特の香りも――ただ、祐樹の息から漂ってくる時には何となく官能的な香りを纏っていて好きだったが――これで消えるだろう。
 歯で噛むとミント味の弾力が弾けるのも心地よかった。
 祐樹も美味しそうに口を動かしていた後に唇を重ねてくる。
 そのまま二人してベッドに倒れ込んだ。
 部屋の灯りは煌々とついているのも祐樹の心遣いだろう。
 それに、自分もリラックスしているので、多分大丈夫だと思う。
 
「良かったです。聡、愛しています」
 祐樹の笑みが深くなった。愛の交歓の後だけに、汗の雫を纏っている二人の身体が心地よく冷えていく。
「祐樹、私も大好きだ。世界の人と引き換えにしても良いくらいに。
 そして、今夜の愛の行為もとても感じた」
 花園の門に祐樹のが当てられた時には、身体が強張ってしまったものの、祐樹の男らしい端整な顔を視認すると、自然に門が開いていった。
 そして、その後は「普段」通りに振る舞えたのも心の底から安堵した。
 その上。
 

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