気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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 祐樹が広い肩を優雅に竦めていた。焼肉屋ほどの陽気な喧噪と肉の焼ける良い香りという空間に二人で居るからだろうか「事件の前」の太陽のような輝きに満ちた祐樹の眼差しの強さだったのも嬉しい。
「あれって教師が日頃の通学実態で判断されるんです、ご存知でした?」
 教師に声を掛けられたのは事実だったが、話し掛けられたら質問に答える程度だったクラスメイトはたくさん居たが――宿題を見せてくれとか、数式の解き方を教えて欲しいといった相談が主だった。成績のことで一目置かれているのだな……とは思っていたが、今思えば自分がもっと積極的に話して雑談力を付けた方が良かったと心の底から思う。
 よく「学校に行く意味は勉強の外にも社会性とか世間の縮図を学ぶところにもある」というようなコラムなどが掲載されているが、そう言うモノも当時は灰色の景色の中で機械的にこなす現代国語の解答のために読んでいただけで、物凄く他人事のように感じていた。
 ただ、今となっては本当にその通りだと思う。
小学校から大学までの時間を無駄に過ごして来たなと。
他人のことなど全く無関心だったし何だか遠巻きにされている感じはおぼろげながら分かっていた――今となっては痛感してしまった。
「え?それは知らなかったな……。そうなのか……」
 自分は機械的・事務的に通っていただけだったので、学校の教師の言うことにもイエスかノーでしか答えたことしかない。
「そうですよ。私は戦略的な遅刻とか退屈な教師の授業は保健室でのお昼寝タイムと決めていたので、その時点で選考外だったらしいです」
 何だか祐樹らしいエピソードでつい笑ってしまった。
「まあ、別にバイトはしなくても良い程度のお小遣いは母から貰っていたので良いのですが。経済的負担をその頃に掛けた分、これからは親孝行しないといけません。
 貴方にも協力して貰った方が効果的なので、その点は宜しくお願いします、ね。
 まあ、一々申し上げなくても充分心遣いをして下さっているのは知っていますので感謝もしていますけれど。
 いつもいつも母に付き合って下さって本当に有難う御座います」
 祐樹は改まった感じで頭を下げてくれたので、逆に当惑してしまう。祐樹の笑みも「事件」の前っぽい感じなのも嬉しかったし。
 天涯孤独の自分にとって親孝行めいたことが出来ることこそが、自分にとっては幸せだったのに、祐樹にまで感謝されると。
 そして。

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