気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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 祐樹はしゃぶしゃぶの肉とご飯を交互に食べながら広い肩を竦めていた。
「私の場合は、興味のない科目とか受験に関係ない科目は悉くサボりまくっていましたから。トータルの成績ではそこそこでしたね。
 ほら、指定校推薦とか有りますよね?だから、そういう生徒は全部の教科を万遍なく押さえて来ますから。指定校推薦組には敵いませんよ」
 自分も指定校――ちなみに自分の時代に国公立医学部の指定校推薦はなかった。今現在有るかどうかは知らない、関心もないので――狙いではなかったものの、そういう『戦略』めいたものを考えたこともなかった。
  ただ、たまたま成績がトップだったし、病欠とかもなかったために選ばれただけだったような気がする。母が亡くなったので忌引きの欠席は有ったが、そういうのはカウントされない仕組みだ。
「それに、夜中まで勉強をしていて、つい数式を解くのに熱中した余り5時に寝て、7時に起きるという生活もしていました。ま、一二年生の時には遊んでいたりして寝坊したことも多かったような。
 ああ、そう言えば選挙の投票日に投票所のバイトってなかったですか?」
 祐樹がどこか懐かしそうな笑みを浮かべている。
 そういう他愛のない話しを交わせているだけで充分幸せだった。
 それに何だか心も身体もリラックスして来たような気もする。
 愛の行為についての一抹の不安は有ったものの、それも徐々に薄まっていくような気がした
「ああ、有ったな。ウチの高校はアルバイトも教師の許可さえ取れば可能だったが、選挙の投票所のは学校の先生から推薦というか声を掛けられた覚えが有る」
 祐樹が唇を緩めて笑っているのも、しゃぶしゃぶの鍋から立ち上る湯気と同じく心と身体を暖めていくような。
「ウチはご存知のように田舎ですからバイト先が限られていましたし、お金が欲しくても働くところがないというのが現状で……」
 祐樹は投票所のアルバイトに行ったのだろうか?
 自分の場合は教師から一応声は掛けられたものの、その日は予備校の模試が有ったので断った。
 そういう、他愛のない昔話を交わしているのもとても楽しかったが。
 すると。

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