気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「準備万端な貴方が買い物なんて珍しいですね」
 確かに祐樹とお泊りデートの時も忘れ物のないように細々と準備するの「も」心躍るほど楽しくて入れ忘れとかは殆どなかったな……と思い返してしまう。
 ただ、揚げたガーリックならともかく、ニンニクは独特の香りがするのも事実だった。
 まあ、このホテルのお気に入りのチャイニーズレストランでニンニクとかニラなどの香りのキツイものを二人して食べた後に、部屋に帰って愛を確かめるということもして来なかったわけでもない。
 しかし、「夏の事件」以来初めての恋人としての夜を過ごすという決意を固めたという意思表示も大切なことだと思ってしまう。
「ああ、有った。これを買おうと思っていて……」
 ホテルのオリジナルグッツとかちょっとしたお土産に最適なお洒落なモノも細々と置いている店内だが、生活用の小物もホテルの売店らしく一通りは揃っている。
「ブレスケアですか……。ああ、ニンニク対策の……」
 祐樹の唇が嬉しそうな笑みを浮かべている。
 そして日蝕の時の陽光ではなくて、冬の弱日のような輝きも瞳に宿しているのも嬉しかった。
 ベットの上とかで、どこか陰った瞳で見つめられたら、自分も釣られたように「あの日」の悪夢のような出来事を思い出してしまいそうで、それだけは避けたかった。
「明かりを点けたままの愛の交歓」という「ワガママ」というか自己防衛策を口走ってしまったし、それは視覚でも祐樹であることを確かめたかったからだったが、逆に言うと祐樹の眼差しも全て見えるということだった。
 だから――少しくらいなら別に平気だが――あからさまに曇った眼差しで見降ろされたくないのも事実だ。
「こういうのもエチケットとして大切かと思って。
 揚げた場合は香りが飛んでしまうので大丈夫だが、生のだとやはり匂いが気になるので。
 切羽詰まった状態での愛の行為も大好きだが、今日はゆっくりと愛を育むのだろう?
 だったら必需品かと思って」
 レジに持って行こうとした自分の手首を優しく掴まれた。
「何粒入りですか?二人分に足りますかね?」
 生活必需品が揃っているとはいえ、品数は絞られている。まあ、狭いスペースにたくさんのモノを置かなくてはならないので仕方のないことなのだが。
「大丈夫そうですね。ああ、私が買います。ちょうどタバコも買いたかったので」
 レストランフロアから出た、空中庭園のような場所に喫煙所があるのでクラブラウンジで予約してもらった時間までそこで語らうのも良いだろう。
何しろ。

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