気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

110

 祐樹の指からもタバコの良い匂いと共に――というか、祐樹が関わった物は何でも良い香りにも満ちているような気がする――甘いチョコの香りと滑らかな表面が唇に近付いてきたので口を開いた。
「とても甘くて美味しい。カカオの味もそうだが、キャラメルのどこか懐かしい味と共に……」
 祐樹の端整な横顔を見ながら精一杯の笑みを浮かべた――成功しているかどうかは分からないけれど――。
 ただ、ゴディバのチョコの中に入っているキャラメルは何だか幼い頃に母親に手渡して貰って喜んで食べた懐かしい記憶をも蘇らせてくれるので、多分大丈夫だろう。
「祐樹もカカオのカレは好きだっただろう?」
 丁寧に包まれている紙を丁寧に剥しながら、タバコを吸っている裕樹の寛いだ感じの笑みを見て心の底から安堵感に包まれた。
「どうぞ」
 祐樹の唇にチョコレートを近付けると、タバコを指で挟んだ後に柔らかい唇が開いた。
「上海ガニを食べに行くのも悪くないな……。その後部屋で二人っきりになって、親密な時を過ごす」
 祐樹はチョコを食べた後に唇から紫煙を出しながら、しばらく無言だった。
「――その時は、部屋を明るくしておきますね。
 ――貴方が不安を覚えないように……。
 いえ、私に愛されて紅に染まった肢体が白いシーツの上に花が咲いたようになっているのを拝見出来るのも、とても愉しみですが……」
 多分、気を使って言ってくれているのだろう。
 その心遣いはとても嬉しいが、祐樹がどういう気持ちと心の奥に刻まれた傷を抉っているかと思うと居た堪れなくなる。
「そうだな……。マツタケも食べたいが……。何でも同じキノコ類のトリィフには催淫とか強壮効果が有ると信じられていたようだが。まあ、思い込みのせいもあるだろうし、はっきりしたエビデンスが有るわけではなくて、民間伝承の類いだが……マツタケにも有るのだろうか?」
 あの事件以降、一切「そういう類い」の話はしなくなっている祐樹に敢えて話題を振ってみることにした。
「そういう効果があるという伝承は色々ありますよね。
 そういえば、チョコなどのカカオを含む食品もその中に含まれています。
 プラシーボ効果かもしれませんが。
 如何ですか?『その気』になりました……か?」
 祐樹の唇が意味有り気に笑いながら近付いてくる。
 そして。

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