気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

101

「いえ、呉先生が宜しければですが、私は友人としても勿論ですけれど……独りの精神科医として知り得る限り最も優れていると信頼しています。
 ですから、真殿教授がどうのというわけでもなくて呉先生に相談したいのです。
 アメリカにはご存知のように、掛かりつけの精神科医に何でも相談してカウンセリングを受けつつ投薬をするという習慣があります。
 私は幸いにも精神を病むようなことは有りませんでしたが、同僚には家族の問題とか仕事のプレッシャーから厳選した信頼出来る精神科医に直ぐに相談して、必要によっては投薬をしてもらうという人もたくさん知っています。
 日本の場合は――ああ、そういえば真殿教授もそのタイプの先生でしたよね――お薬だけ出して治療するのが一般的です。
 私は精神疾患がひどくなった患者さんには薬も必要だと考えていますが、それ以上にカウンセリングが出来る呉先生にお願いしたいのです」
 全てを知っている上に適切かつ親身なアドバイスを貰えるのは呉先生だけだという確信は有った。自分の都合ばかりを押し付けてしまっているような気がしたものの。
 呉先生は春の陽だまりに咲き誇っているスミレの花のような笑みを浮かべていた。
「そう仰って頂けて嬉しいです。
 全力でサポートしますので、これからも宜しくお願いします。
 あ、最後に一つだけ……。
 教授を慕ってとか頼って病院にいらっしゃる患者さんは手術しかQOL生活の質向上が見込めないでしょうが、風邪かな?程度になった場合も、薬代わりの卵酒を飲んで休めば治る場合も有りますよね?自然治癒力という。
 私が拝見する限り、教授も田中先生もタイプは異なりますが精神の自然治癒力は高いと判断しているので、しばらく様子見をした方が良いと……切実にそう思います」
 祐樹の方が精神的にもタフな気がしたものの――だからこそ今回の「事件」で初めての「挫折」を味わったダメージは大きいのかとも思っていたが――自分もそんなに強かったのだろうか?
「自然治癒力が強いのですか?私が、ですか……」
 目を見開いて呉先生を見てしまった、他人、しかも精神科医にはどう見えるのかを知りたくて。
 祐樹の強さは納得出来るものの、自分のことは分からないのも事実だった。
 すると。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品