気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

91

 厚労省が薬剤の認可や不許可などを決めているのは医師としては常識中の常識だ。
 かつては、白血病の患者さんに向けてエイズウイルスが混入していても全く不思議ではない非加熱製剤を――白血病の患者さんがその危険性を訴えて加熱製剤に切り替えて欲しいという声を無視してまで――放置してきたという国家による殺人としか思えない例も有ったが。
 そういう点も含めて森技官は変えようとしているのではないのでは?と思ってしまう。
 今はHIV検査が陽性であったとしても、発症を抑える薬も多々出来ているために生存率は劇的に上がっている。だから一昔前のように「陽性」イコール「死」ではなくなったが、陽性イコール死の宣告だった当時に何の罪もない白血病患者に非加熱製剤を与え続けた厚労省の罪は重い。
 白血病は自分の専門ではないが、もし自分が専門医だったら、多分ありのままの現状を報告してアメリカから高価な非加熱製剤を取り寄せて使っていただろうな、と思う。高価ではあっても、エイズウイルスに感染するリスクに比べればマシだろうと判断するだろうから、普通の思考の持ち主だと。
「まだ厚労省はそんな改悪をしているのですか……。国民からの風当たりもきつい省庁だと言うのに……。精神科の先生達まで困らせるとは……。
 しかし、森技官が厚労省『初』の『独身』事務次官になれば随分マシになるのではありませんか?」
 でっち上げとか隠蔽が得意とはいえ、節度とかバランス感覚は持っていそうだし、その上税金の使い道についてもキチンと配慮していることが「事件」を通して分かった。
「そうだと良いのですが。
 まあ、それは置いて置くとして……、例のホテルのクラブラウンジと言うのですか?
 その場所でチェックインも出来る上に食事なども楽しめる密閉された高層階が有るらしいですよね?
 そこにも例の元研修医がずっと居たという証言を支配人だかが同居人に言っていたので、当然田中先生はご存知です。
 ほら、産地偽造とか単なるスパークリングワインをシャンパンだと言ってゲストに振る舞った事件のせいで、厚労省傘下の保健所にすら頭が上がらなくなったホテルなので、割と簡単に情報は取れたらしいです」
 それは初耳だったので、思わず目を見開いてしまった。
 そして。

「気分は下剋上 chocolate&cigarette」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く