気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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 今、教授職の中で最も年も近くて仲もいい、そして自分の状況も――内田教授の想像とは多分違うだろうが――把握した上で言葉を交わしてくれている人と会話して気持ちを研ぎ澄まして手術室に行く方が良いだろう
 執刀医になって随分と経つが、普段はどれほどのプレッシャーも自分の精神力で跳ね返そうとして気を張っていた。
 世界的な外科医としての登竜門でもある国際公開手術の時も、祐樹と恋人にはなっていたし、内心ベルリンまで来てくれるのではないのかと淡く期待はしていた。
 ただ、休暇を取得するのもかなり難しそうだし、現実的ではないと理性では分かっていた。
 それにも関わらず0%でない確率に賭けて、二人の愛の記念でもあるリッツ・カールトンを選んだ。すると本当に裕樹が来てくれたので、あの時も本当に嬉しかった。
 天から射す神様の指のような光が自分を成功へと導いてくれそうで。
 そして失敗したら一流の外科医とは認められない手術に無事成功出来たのは祐樹が会場内で見守ってくれていたのだと思っている。
 今日も――執刀のセンスとか才能といった点では見劣りがするものの、長年手術室に居た眼力は疑っていない――黒木准教授判断で、祐樹が執刀医を務めることにはなっている。
 そして、ある程度は癒えた自分の精神よりも――患者さんに迷惑を掛けることだけは有ってはならないが――実は祐樹の心のダメージの方が深い。仕事なので集中力は祐樹も自分も切り替えられるとは思ってはいたが、実際どうなるかは神の領域だ。

 ただ、手術室に裕樹が居てくれるだけで、自分は頑張れると思う。
 
 そんなことを思いながら言葉を続けた。内田教授が全部受け止めてくれることは分かっていたので。
「税金を多く支払っている人間も、そうでない人も同じサービスを受けられるのが良い国だと思いますよ。
 高額納税者が優先して警察とか市役所などで優遇措置を受けられる世の中の方が、まかり間違うととんでもないことになりますから。納税者の権利ばかりを言い立てて、自分を特別扱いするように声高に叫ぶ市民にはなりたくないですね。
 その理屈で言うと、高額納税者に細かなサービスを、それ以外にはいい加減なのをということになりますよね。
 また実際特権階級が支配している国も有りますが、正直日本はそうなって欲しくないですね。一納税者として、そう思います。その上、厚労省の森技官は省庁としてのメンツと納税者の利益という二択問題ならば、後者を取る人だと個人的に判断しています」
 森技官は――他にも伝えるべき「重大」な秘め事暴露という選びたくなかったであろう最終手段が有ったにせよ――警察のメンツのみで動こうとするのを止めに来た。そのことを考えると税金を使い放題という感覚ではなさそうな人だった。
 しかし。

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