気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

27

 焼けつくような夏の陽射しが降り注ぐ大型スーパーマーケットの駐車場では、その陽射しが抑うつに効果の有るセトロニンを代謝するトリプトファンをよりいっそう作り出してくれるというレポートが正確なのだな……と思ってしまう。
 それにそういう医学的根拠を知らなくても、遮るモノのない太陽の光そのものを浴びるだけでもとても良い気持ちだった。
 気持ち的には、世界中の人間と引き換えにしても個人的には良いと密かに思っている裕樹だって太陽を彷彿とさせるオーラに一目惚れをしたこともあって――その後、奇跡的に恋人になれたし、その他の祐樹の美点は記憶力にいささか自信のある自分でも数えきれないほど見つけたが、太陽のオーラは燦々と輝き続けていた――祐樹イコール太陽の光りだったのだが、昨夜から日蝕のように光りが衰えているのは自責の念からだろう。
「背伸びすると気持ちが良いですよ」
 呉先生は本当に気持ちよさそうに駐車場でふんだんに日光を浴びながら背筋や腕を伸ばしている。
 祐樹や自分に向けての、さり気なさを装った精神科医としてのアドバイスだろう。
「あ、本当に気持ち良いですね」
 背筋を反らして手や身体を上に上げるという運動が精神的に良いことは知っていたので早速倣った。二人がそうすることによって祐樹もつられるだろうから。
 祐樹もメリハリのついた長身を伸ばしている様子は――惚れた弱みではなくて――客観的に見てもやはりカッコ良いと想ってしまう。
「え?竹の子の山椒和えってこんなに高いのですか……」
 祐樹が手に取った小さ目のパックの値段を見て驚いたように声を上げている。
 祐樹は宿直とか救急救命室勤務の時にコンビニのおでんに柚子山椒をつけて食べるのが好きだと聞いていた、直接的にも間接的にも。
 だから竹の子の美味しい季節には山椒の葉で和えた料理を作っていたし、これからも作り続けるだろう。
「私が外食にはお金がかかると判断したのは妥当だろう?」
 といっても、祐樹が居なければそんな手の込んだ料理は作らないし、個人的には三日くらいだと同じものを食べ続けても全然苦にならないタイプだ。だから祐樹が一緒に住んでくれていなければ多分、料理はしただろうが、カレーとかシチューなどのローテーションで回していたと思う。
「そうですね……。こんな僅かな量でこの値段……。もし、これをあの時、私が美味しく頂いた量に換算すればと思うと空恐ろしくなります」
 祐樹が感嘆とも呆然ともつかないため息を漏らしている。
 呉先生も話しに乗ってきたので、今後は呉先生の分まで――森技官と二人きりで食べるだろうが、今回の件でお世話になったからにはその程度は朝飯前だ――作ることを約束すると、陽だまりの中のスミレを思わせる笑みを浮かべてくれた。
 卵を買いに来たので――ついでに色々なモノも買ったが――レジへと進んだ。
 すると。

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