気分は下剋上 chocolate&cigarette
13
錠剤だけでは薬効が薄いと判断した呉先生の診立ては正しかった。
しかし、経口であっても血管内に入れても血中濃度という点では異なるが、効果は同じだった。
そして、祐樹が手を繋いでくれていることで手の震えは治まったような気はしたが、それは、暖かみとか確かな感触を直接指が感じるからというだけの対処療法なのは分かっていた。
点滴に切り替えられて――専門の呉先生も、そして精神科の講義はサボっていたと思しき祐樹も誤解してしまっていたようだが――自分が口走った言葉は断片的に覚えていた。
精神科の薬は何故か効かない体質のせいだろうが。瞳を閉ざしていたので意識もないと呉先生ですら思い込んでいたようだったが、心の中に泥のように沈殿してしまっていた「不感症」だの「淫売」などの言葉が口から出てしまったのは――薬のせいでその前後の記憶は流石に曖昧というか霞がかかったような感じだったが――覚えていた。
その言葉を言ってしまった時に、祐樹の手が震えたのも覚えていた、実は。
そしてその口をついて出た言葉が――というか叫び――自分の気持ちを鎮めてくれたのは確かだった。しかし、それは呪いの言葉のように伝染力も持っていて、自分から祐樹に波及してしまった。
祐樹しか知らない――正確には初めての体験をした相手は存在したが、さしたる思いとか感慨はなかったのも事実だ――この身体の奥の奥までのことなだけに、不感症だと言われれば反論の要素がない。「淫売」とは売春婦と言うほどの意味だろうが、性交渉でお金を貰ったことは当然ない。金銭の授与は確かに無かったが、祐樹は色々な物を贈ってくれて、その一つ一つは自分にとっては宝物だったが、祐樹のお母様から託されたダイアの指輪とかブランド物のアクセサリーなどは――自分は決してそんなことはしないが――リサイクルショップに持ち込めば現金に換えることが出来る品物だった。どの程度の金額か具体的には知らないが。
そういう意味では「淫売」なのかも知れないと思ってしまっていた。あの男の言葉の呪縛によって。
そして不感症かどうかは祐樹しか分からない類いの、極めて個人的なことなので客観的な事実は自分でも分からない。
祐樹を満足させていると思っていた。祐樹の反応もそして甘く低く紡がれる「その最中」の言葉も自分の身体を褒めてくれるモノばかりだったのも事実だが、それが祐樹の優しさから出ただけの思い込みだったのではないかと考えてしまった。
何だか大理石の階段に足を載せていたと思っていたのは自分の錯覚で、実際は砂の城だったのかもしれないと思ってしまっていた。
だからこそ、心の底に泥のように溜まった「あの男」の言葉をつい口走ってしまっていた。
声に出して――いや叫んでいたのかもしれない――しまった直後に物凄く後悔したが、今更無かったことには出来ない。
また。
しかし、経口であっても血管内に入れても血中濃度という点では異なるが、効果は同じだった。
そして、祐樹が手を繋いでくれていることで手の震えは治まったような気はしたが、それは、暖かみとか確かな感触を直接指が感じるからというだけの対処療法なのは分かっていた。
点滴に切り替えられて――専門の呉先生も、そして精神科の講義はサボっていたと思しき祐樹も誤解してしまっていたようだが――自分が口走った言葉は断片的に覚えていた。
精神科の薬は何故か効かない体質のせいだろうが。瞳を閉ざしていたので意識もないと呉先生ですら思い込んでいたようだったが、心の中に泥のように沈殿してしまっていた「不感症」だの「淫売」などの言葉が口から出てしまったのは――薬のせいでその前後の記憶は流石に曖昧というか霞がかかったような感じだったが――覚えていた。
その言葉を言ってしまった時に、祐樹の手が震えたのも覚えていた、実は。
そしてその口をついて出た言葉が――というか叫び――自分の気持ちを鎮めてくれたのは確かだった。しかし、それは呪いの言葉のように伝染力も持っていて、自分から祐樹に波及してしまった。
祐樹しか知らない――正確には初めての体験をした相手は存在したが、さしたる思いとか感慨はなかったのも事実だ――この身体の奥の奥までのことなだけに、不感症だと言われれば反論の要素がない。「淫売」とは売春婦と言うほどの意味だろうが、性交渉でお金を貰ったことは当然ない。金銭の授与は確かに無かったが、祐樹は色々な物を贈ってくれて、その一つ一つは自分にとっては宝物だったが、祐樹のお母様から託されたダイアの指輪とかブランド物のアクセサリーなどは――自分は決してそんなことはしないが――リサイクルショップに持ち込めば現金に換えることが出来る品物だった。どの程度の金額か具体的には知らないが。
そういう意味では「淫売」なのかも知れないと思ってしまっていた。あの男の言葉の呪縛によって。
そして不感症かどうかは祐樹しか分からない類いの、極めて個人的なことなので客観的な事実は自分でも分からない。
祐樹を満足させていると思っていた。祐樹の反応もそして甘く低く紡がれる「その最中」の言葉も自分の身体を褒めてくれるモノばかりだったのも事実だが、それが祐樹の優しさから出ただけの思い込みだったのではないかと考えてしまった。
何だか大理石の階段に足を載せていたと思っていたのは自分の錯覚で、実際は砂の城だったのかもしれないと思ってしまっていた。
だからこそ、心の底に泥のように溜まった「あの男」の言葉をつい口走ってしまっていた。
声に出して――いや叫んでいたのかもしれない――しまった直後に物凄く後悔したが、今更無かったことには出来ない。
また。
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