気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

 世界中の誰よりも信頼する恋人の判断に従って動く方が良いだろう。「庇護欲がそれほど強くない」と常々言っている祐樹だったが、自分は充分守られている。
 自力でも何とか出来るかも知れないが、祐樹の矜持の高さも良く知っているのでこの際自分が全て委ねておいた方が良いと判断した。
 たとえその結果、どのようなことが起ころうとも、祐樹さえ傍に居てくれるなら全く怖くなかった。祐樹に守られているという「揺り籠」の中で過ごせるのなら、その先に何が起こっても自分は乗り越えられると強く思う。
 祐樹が危険人物と見做している、恐らく精神疾患を抱えた人間が――自分には全く心当たりはないものの教授職というだけで嫉妬めいた眼差しを停年間近の某科の准教授から向けられたこともあるのも事実だった――自分に有形か無形かは分からないが危害を加えようとしている疑いが濃厚だ。
 救急救命室も兼務している祐樹の縁がない科というのは精神科か――覚せい剤など幻覚作用のある麻薬を摂取して統合失調症の症状と同じ感じで暴れている人間には耐性があるだろうが――産婦人科だろう。
 だから呉先生に真っ先に相談しに行ったという推論は当たっていると思う。
 それに、普段は滅多に使わない祐樹専用の個室に籠っているのも色々な人に――自分に会話を聞かせないようにした上で――相談しているのだろう。
 「恋人に隠し事をしない」のがモットーの祐樹でも――自分も祐樹に秘密はない――「今は」それ以上の大きな「荷物」を抱えているのは火を見るよりも明らかだったが、それは祐樹の優しさとか思いやりの気持ちから出たものだろうとほぼ確信している。
 最愛の恋人が話して良いと判断したら、絶対に打ち明けてくれるとも思った。
 だったら、今は確信的なことは何も言わないでおいて、言動の端々に「祐樹を信頼している」という密かな信号を紛れ込ませるだけに留めておこう。
 また、MSセキュリティという会社にマンションの盗聴器の有無を調べさせるためにサインを求められたので、電気料金も盗聴器の存在と関係があると分かってしまった。
 祐樹との真の関係以外には――万が一その件で大学病院の上層部からの批判が出たら直ちに辞める覚悟は出来ている。
 ただ。

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