気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

1

 夕食の準備をしながら祐樹の様子がおかしい点について考えていた。
 少なくとも午前の手術の時には普段通りだったのに、その後から懸命に隠そうとはしていたものの、何となく隠し事をしているような素振りだった。
 何しろ、自分にとって世界と引き換えにしても良い祐樹のことを誰よりも見ている自分だから分かるような些細な変化だったが。
 それに、以前なら世界、いや宇宙が滅亡したのと同義の「心変わり」を疑っただろうが、そういう感じでもないのも明白だった。
 そして不定愁訴外来の呉先生に会いに行くと告げて職場を後にした。呉先生は信頼出来る精神科医だし、祐樹や自分とも仲が良い上に同居中の恋人の森技官とのなれ初めに成り行きで関わった祐樹はその後も色々相談に乗っているというのも事実だった。
 ただ、何かが違う……。
 そう漠然と思ったものの、祐樹のことは自分自身の判断よりも信頼しているので何も気付かないフリをしていた。
 時が来れば、祐樹は打ち明けてくれるだろうから。
 不定愁訴外来は入院患者さんが希望した時間に話しを聞くというシステムになっているため予約制だが、ほぼ定時に帰れる――その時間以降は病院の夕食時間だ――上に恋人の森技官と同居しているのだから時間の制約もあるハズだった。ただ、厚労省の高級官僚でもある人なので、関西だけが仕事先というわけでもない。
 あれこれ考えてしまって、普段は楽しい夕食の支度も、調味料の量をミスったり、均等に切っているハズが一ミリ「も」ずれたりしてしまう。
 ただ、祐樹が何か問題を抱えていることだけは分かった。そしてそれは多分自分に関することだろう。
 しかし、職務上のことなら真っ先に自分に相談するだろうし、言いにくい問題だった場合は医局長でもあり、自分とは元同級生でもある柏木先生の元へと向かう程度のことは分かる。
 だとすれば、プライベート色の濃い問題の――ちなみに自分と祐樹の真の関係を知っている病院内の数少ない人でもある――ことで呉先生の元に行ったのだろう。
 ただ、祐樹の判断が「自分には知らせない」ということなのであれば、絶対にその考えが正しい。地球が太陽の周りを回っているのと同じ程度には。
 だから、祐樹が自分に「あえて」伏せておきたいのなら、何も気付いていないようにした方が良さそうだ。
 それに。

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